とある寝室での睦み事
「つてを頼って調べたけど、勇者の話は聞かなかった。
表向きはカッパドキア共和国は勇者を保有していないわ」
ベルの報告はある程度予想がついたものらしく、あっさりとしていたものだった。
途中腰を振っていたので吐く息が荒いのだが。
「表向きってどういう事だ?」
「この国で調べて本気でまずいところが三ヶ所あるわ。
一つはここの太守であるイッソス家。
もう一つはカッパドキア魔術協会、最後が勇者神殿」
イッソス家は共和国発足時の議長を排出し、代々イッソスの太守を世襲で統治していた家柄でイッソス家とその血族が支配する街はカッパドキア共和国全都市の三分の一近くを占め、国家間では王族扱いの名門である。
その為、街の名前であるかの家の事は敬意を持って「イッソス太守家」もしくは「太守家」と呼ぶのが通例となっている。
そんな太守家の抱える防諜組織は実質的にカッパドキア共和国防諜組織と同義語に近い。
カッパドキア魔術協会は西方世界における魔術師の保護を目的とした魔術師の為の協会で、中央世界全土に影響力を持つ魔術師学園とは比べるべくもないが、西方世界の魔術協会では最大規模を誇る。
カッパドキア共和国国内は当然、西方世界北大陸において魔術協会員ならば何処にでも行け職に困る事がないと言われるほど優遇されている。
もちろん、勇者が大魔法使いである以上一番怪しい事この上ないがその防諜は強固で、表に出た場合西方世界の魔術師のかなりを敵に回す可能性があった。
最後の勇者神殿は勇者信仰からはじまった宗教組織の皮をかぶった勇者育成機関で、長耳族・黒長耳族・獣耳族などの竜信仰の迫害と、勇者育成を独自に行っている為にここも探る為の諜報力が必要な場所だったりする。
帝国はここに交易に来ているのであって、太守家や魔術協会や勇者神殿、ひいてはカッパドキア共和国に喧嘩を売りに来たわけではないので荒事はさける必要がある。
「共和国と言っても、カッパドキアはイッソス及び、イッソス太守家の分家連中が殖民都市を設立したのが母体だったわよね。
太守家とそのとりまき、それ以外で内部が分かれているわ。
で、先のトロア戦争でただ一人の勇者は相打ち。
それ以降この国に勇者はいない。
みなそこだけはきれいに言葉を揃えているわよ」
自分の番だとやってきて娼館で豪商や貴族相手にさりげなく話を探っていたマダムが、腰を振りながら報告をする。
「そう。けど、かつてカッパドキアがイッソスとその取り巻き連中だけの時に既に勇者を持っていたし、殲滅されたトロアにも勇者はいた。
太守家の奥領地なんて潜りたくないわ。
命がいくらあっても足りやしない」
実にわざとらしく身震いをするベルだが、その瞳は快楽に浸されているにもかかわらず脅えの色を隠していなかった。
「イッソスに盗賊ギルドがあっても、『裏の表』暴力や盗賊や売春で商売しているから許されているだけ。
『裏の裏』国や世界の危機なんて話、何が出てくるかわかりゃしない」
一応澄まし顔で控えているリールが気になる報告をする。
これで腰を振る時一番激しかったりするのだが。
「ギルドの長がワイトになったのは、太守家か魔術協会および勇者神殿が手を回したという話が。
殺された後でワイト化したのは想定外だったみたいですね」
勇者を中心とする国家中枢に対する信じられないほどの防諜体制は、代わりに国家の治安維持力を削がざるを得ないほどの人・物・金を注いで成り立っていた。
その結果、冒険者や盗賊ギルドは行政機関として認められ、国家すらその影響力を無視できなかった。
とはいえ、それは勇者という切り札を持つ国家の黙認によって成り立っているからであって、マンティコア襲撃によって露呈した、イッソスの防衛力について各国は疑念を抱いているのだろう。
「魔術協会については一つ気になる話があります。
百年ほど昔の勇者『狂艶の公女』と呼ばれたゼラニウムの魔道書を協会が保持していると」
ボルマナが平常心を持ちながら報告するが我慢できない様子が顔に出ていたり。
「十万の住民を殲滅する魔道書か……」
(その魔道書が日本にあれば、大陸の戦は負けることがなかっただろうに)
後半を口に出さずに俺はため息をつく。
勝ったとされる大陸での戦争。
だが、世間で宣伝されるほど華々しい勝利などではなく、彼女達異世界の者がこなかったならば泥沼の果てに負けていた可能性も高かったのだった。
広大な大陸に兵は追いつかず、文化風習の違いから現地住民との関係は良好でなく、頻発するゲリラに輸送隊を狙う匪賊。
俺自身の初陣がそもそも敵軍ではなく占領地の匪賊討伐だったのもそうだ。
男一人に女複数の場合、平等に愛するのが義務である。
そこからどれだけ続きをもらえるかは女の腕次第。
「こっちではそこそこ有名な話よ。
問題は本当にそんなものがあるかどうかだと思うわ」
ボルマナの話を受け取って、愛の言葉を囁くようにベルは続きを話す。
「『ゼラニウムの魔道書の力でやった』というのがカモフラージュで、本当は隠していた勇者で滅ぼしたって事」
つまり、ゼラニウムの魔道書そのものが欺瞞にすぎず、勇者を隠す事によって諸国の介入を防いだという事だ。
すべての問題はそこに集約されている。
この国に勇者が居るのか?居ないのか?
ロムルスとカルタヘナの戦争が続けている現在、居るのならば双方陣営に引き抜こうとする訳で、居なかったならば、植民地という所だろう。
これを軍事力に代えれば、俺が居た欧米列強と行動方針があまり変わっていないのが笑える。
「あと一つ。
帝国がこの国で優遇されている理由もそれです。
帝国には確実に勇者が居ますからね」
リールが呟いたとおり、帝国には勇者が居る。
竜を落とした故に竜によって選ばれた竜選勇者で、この世界における富と権力と希望の象徴でもある。
深入りは避けたい所だろうが、確実に巻き込まれるのだろう。
「じゃあ、あの華姫さまが接触して来たのは、それがらみか?」
「それ以外にないと思うわよ。ご主人」
俺の鈍い言葉にベルが呆れ顔で呟く。
「あの騒動で、我々は常にイッソス太守家よりに動いていましたからね。
イッソス太守家に敵対する勢力は、我々を寝返らせるか排除するか考えているでしょう」
ボルマナの言葉は間違っては居ない。
そうなると問題は、外交機関兼拠点の話となってくる。
この娼館をそのまま提供するのもありだが、敵地どまんなかでもあるので、離れている場所に一つ拠点が欲しくなる。
なお、それは上も考えており、九七式飛行艇がやってくる砂浜あたりに拠点が作れないかと測量していたのを俺は知っている。
ただ、外の拠点はそのまま領地化と同義語になりこの国の上層部はイッソス太守家も含めていい顔はしないだろう。
「あのさ、思うんだけど、うだうだ考えずにアニスちゃんだっけ?ここに連れ込んだら?」
こんなたわけた事を言ってのけたのは、もちろんマダムだ。
ベルとリールが即座に反発するがボルマナはいまいちその意味がよく分かっていないらしい。
疲れて声も出せないだけかもしれないが。
「冗談!
私の取り分減るじゃない!」
「危険すぎます。
ご主人様が寝取られる可能性があります」
なるほど。
これが一流頂点と一流の差なのかなんて俺は思ったが口に出すほど馬鹿ではない。
「大丈夫よ。
寝取られたら、寝取り返せばいいんだから。
それで負けたら、私達の魅力が無かっただけの話でしょ。
会ってみたいな。彼女に」
なお、この日の回数はマダム、ベルとリールが同数、ボルマナの順だった。
極力表現は抑えたつもり。
もげろ。




