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『笑うカモメ亭』での一幕 その三

「なんだ!

 あの大鼠!」

「銃は使うな!

 同士討ちになるぞ!」

「畜生!一人噛まれた!

 衛生兵!」

「火炎放射器を持って来い!

 焼き払ってやる!」


 地下水道も最近慣れてきたと感じる今日この頃である。

 撫子三角州から選抜された分隊は精鋭だったらしく、俺の指揮なくとも分隊長の下で行動を行えている。

 また、館で働いている数人も参加してもらい、参加人数は二十人にまで膨らんでいる。

 こちらでの戦闘経験は俺が一番高いらしく、撫子三角州近辺の敵の掃討作戦が始まるまで戦闘経験を積ませておこうという事らしい。


「回復魔法をかけます」

「周囲に敵はいないよ。

 ご主人」

「大鼠の噛み付きは噛み付く為に一度立ち止まるので、その時に仕留めるように心がけてください」


 で、ベル達異世界人の協力者がいると戦闘も安心して行える。

 ボルマナが魔法で兵士を回復させ、ベルが周囲の警戒をし、リールがこの地下水道で出てくる敵の特徴を兵達に教えている。

 何しろ、ここで出る敵は洞窟などに自然発生するから、ゴブリンやオーク等の巣に入ると必然的に当たる事になる。

 分隊長から聞いた話だが、救助した獣耳族で救助の手伝いをしたいと申し出る娘さん達が結構居るらしい。

 彼女達を志願兵として使い、そのあたりの協力体制の実験も兼ねているのだろう。

 俺は考え事を一旦打ち切って、カンテラに照らされた地下水道の地図に目を移す。

 位置的には、内壁との境目あたりになる。

 仕留めたのは、大鼠八匹にスライム三体。

 途中トラップはベルが解除してくれたので問題はないが、ここに潜る初心者冒険者達は露骨に俺達を目の敵にしていたのを思い出す。


「そりゃそうさ。ご主人。

 これだけ大勢で狩れば、そのぶん彼らの取り分減るんだから。

 向こうからすれば、いなくなってくれと思うのは間違いないでしょうよ」


 こっちが考えていた事を読んだのか、ベルが苦笑してさっき外した粗末な罠を水の中に投げ捨てる。

 このあたりの冒険者は地下水道で経験を金を貯めて、外で大兎や大猪を狩れるようになったら一人前と言われている。

 この装備と集団だと、ゴブリンやオーク等が討伐できるのだから、場所荒らしと言われてもある意味仕方が無い。


「よし。

 皆経験は積んだだろうから撤収するぞ。

 二人先導に立て。

 ボルマナは何かあるまで手出しはするな」


 狩った獲物を担いで館に戻ることにする。

 殿に残った俺とベルとリールが地下水道を歩きながら、今後の確認をする事にする。


「ここからスラムの地下水道の最奥部が地下墓地に繋がっているんだったな?」


 俺が話をベルに振ると、ベルもそれに食いついて口を開くが警戒は解いていない。


「うん。

 けど、地下水道から行くのはお勧めしないな。

 結構歩くし、敵も出る。

 上を通って地下墓地からが一番だと思うわよ」


 それにリールも乗るが彼女も警戒は解いていない。

 こういう場所だからこそ、何があってもいいように警戒しているのだ。


「私も不本意ですが同じ意見です。

 今回の仕事は参加することが目的で、ワイト討伐にはこだわる必要はない と思います」


「えらくワイトを警戒するが、その理由は?」


 歩きながらの俺の質問に、ベルが先に口を開いた。


「ワイトがある意味魔法しか攻撃が効かないモンスターだからよ。

 地下墓地で戦うならばあたしやわんことご主人の武器に、ボルマナがエンチャントをかけて魔法攻撃をする事になる。

 ボルマナの負担が大きいのよ」


「魔法は私達も使えますが、使い慣れていない魔法を使うとマナ汚染のデメリットを受けます。

 そこの猫だったら身体強化系魔法、私は防御魔法や対魔防御魔法は戦闘時に使える程度まで修練しましたが、敵前に使い慣れていない魔法を使うのはやりたくないですね」


 魔法とて技術である以上修練は必要で、向き不向きがあるという訳だ。

 で、俺たちであれを何とかするにはボルマナの負担が大きい、つまりボルマナを先に倒されたら選択肢が無くなる危惧を二人は恐れていると。


「じゃあ、魔術師を雇うか」


 俺のしごく当たり前の言葉に、二人が露骨に顔をしかめる。

 そのしぐさが同時だったので思わず笑うのを堪えて二人に尋ねる事にした。


「何か問題があるのか?」


 今度は先に答えたのはリールだった。


「ご主人様にお仕えしている以上、全ての事に従事したいと思っているので、できない事をつきつけられると己の未熟さに……」


 そういえば、リールは勇者専用メイドだったのを思い出す。

 最近、何か性格が丸くなったような気がするが何かあったのだろう。

 一方、ベルは露骨に顔をしかめたまま言い切った。


「だって、ご主人また女を入れるでしょ?」


 まてやこら。

 俺は魔術師を雇うと言ったのに、どうして性別が女になっている?


「お前、俺を何だと……」

「あたしにワンコにボルマナにマダムにアデナ以下高級娼婦十二人もいるのに、外で女買ってきたご主人」


 うん。

 まだ根に持っていたらしい。

 後で困り果てた俺が相談したマダムから聞いた話だが、ベルが何処に怒っているのかというと、女を買う事ではなく、お茶会時に他所で女を買った事を怒っているらしい。

 何しろ、まだ手をつけていないアデナや高級娼婦十二人が居たのだ。

 そっちを抱いていれば彼女も怒らなかったのだが、他所で女を買った事で他所の女と自分達が同列と認識してしまい、不安の裏返しなのだそうだ。

 乙女心は複雑である。

 なんて顔に出してしまいマダムからもお叱りを受けたのだが、それは男にわかれというのが無理だと思います。マダム。

 話がそれた。


「それじゃあ妥協案だ。

 魔法が使える冒険者のパーティを雇おう。

 護衛も増えるし、それで問題は無いだろ?」


「うー。

 まぁ、それなら文句は言わないけどさぁ……」

「その冒険者達が足を引っ張らないのでしたら」


 人数が増えるから今度はリールが微妙な顔をしてやがる。

 館に撤退後休憩を挟んでから、馬車に解体した地下水道での戦利品を積んで、俺たちは『笑うカモメ亭』に出向く。


「大鼠とスライムの換金を頼む。

 解体済みだ」


 馬車から戦利品を置くとマスターが口笛を吹く。


「結構な量じゃないか。

 それでもあんたらにとってははした金だろうが、潜っていた連中がぼやいていたぞ」


 手数料を引いた銀貨二十枚が今回の収入となるが、俺たちにとってはした金があの地下水道に潜る連中には大金になる。

 受け取った銀貨を一枚カウンターに置く。 


「ついでに保存食と水を頼む」


 マスターが銀貨を受け取ると、大きな水樽と大兎の干し肉をカウンターに置く。

 水はここから水袋に移すのだが、俺達は水筒があるのでそれに移していると、冒険者達が興味しんしんの目でそれを見つめているのがわかる。


「それだけ稼いだのにまた潜るのか?」

「あれは準備運動みたいなものね。

 この後、地下墓地のワイト討伐に呼ばれているの」


 水筒に水を入れていたベルの言葉に、俺たちを伺っていた冒険者達から驚きの声があがる。

 なるほど。

 ワイトというのはそのぐらいの相手という訳だ。


「で、護衛に冒険者を雇いたいのだけど、誰か適当なパーティーはいる?」


 ベルの言葉にマスターが首を横に振った。


「そのワイト退治は結構賞金がかかっているから、使える連中はもうあらかた雇われているよ」


 ある意味、予想していた答えに俺はため息をついた。

 まぁ、参加が目的と割り切って、準備ができたら出発しようと声をかけようとして、俺の耳にその声は届いた。


「あら、来ると思っていました。勇者様」


 二階から降りてくるアニスは、辰馬と出会ったあの夜と同じいでたちで、顔は娼婦ではく魔術師、いや辰馬たちと同じ人殺しの顔だった。

 ベルのむくれ顔と共に吐き出された声は聞こえないふりをする事にする。


「ほら。また女が増えた」

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