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マダムのお茶会という名の修羅場会

「お茶会をしましょう」


 マダムのそんな一言から、男子禁制のお茶会が開かれる事になった。

 それぞれが食べ物を持ち寄って、お茶を楽しみながら本音をぶつけ合うという和気藹々かつ殺伐としたお茶会はマダムが大陸でも良くしていた事だった。

 男を取り合っての娼婦同士の修羅場が結構あったから始めたらしい。

 ルールは二つ。

 手を出さない事と酒を口にしないこと。

 このマダムのお茶会に参加したのは、ベル・ボルマナ・リール・アデナの四人。

 かくして、お茶会と言う名の修羅場の幕が上がる。


「ところで、みんな辰馬くんのどこが好きになったの?」


 開幕早々マダムの容赦ない口撃が参加者を襲うが、真っ先に口を開いたのはアデナだった。


「うーん。

 好きとは違うんだよな。私は。

 助けてもらった恩があるから、抱かれろと言われたら抱かれる訳だし」


 そんな事を言うが、アデナは一回も辰馬に抱かれていない。

 あの修羅場に入る気はないという素直な感想だが、そんな恩義があるから股を開けといわれたら開きますという立ち居地での参加である。

 これは、今回は参加していない高級娼婦十二人の意見の代弁でもあった。


「そっか。

 けど、助けられたら嬉しいわよね。女の子だし」


 マダムの相槌にベルが口撃を試みる。

 長い付き合いのアデナがいるせいか、このあたりの口撃のあわせ方はぴったりだったりする。


「そういう質問をするのならば、まずあんたがご主人の何処が好きなのか言ってほしい所よね」


 お茶の香りを楽しみながら、マダムは楽しそうに惚気る。


「そうね。

 男の子が男になる所をずっと見てきたかな。

 たしか、話したと思うけど、私辰馬くんの子供なら生んでもいいなって思っているし」


 はるかに重たいマダムの口撃に他の面子が思わず黙り込む。

 当たり前の話だが、子供を生むという事は本人の体に負担がかかるし、生活にも制約が出る。

 それは冒険者として生活する以上、あまりにも長い時間が空く事を意味する。

 共に冒険をするのならばという訳で、マダム以外はちゃんと避妊の魔法を使っていたのだった。


「ヴァハ様から聞きましたが、元々は別の方とお付き合いをしていたと」


 ボルマナがヴァハから聞いた情報を使って口撃するが、マダムはそのあたりをあっさりと言ってのける。


「辰馬くんとの出会いが、その人の紹介でね。

 その人は、私より過去の亡霊の方を取っちゃったの。

 で、いい年だし辰馬くんとも一歩引いてお付き合いしていた訳。向こうでは」


 腕を組んだマダムは部屋においてあった鏡に自分の姿を映す。

 熟れてなお瑞々しい己の体を抱きしめたまま、マダムは思いを口にした。


「ヴァハちゃんに紹介された仕事の報酬に、若返りの秘薬を飲んだ後、あの人から辰馬くんの所に逃げろって言われたとき、私は運命を感じたわ。

だから、今は娼婦でなく女として辰馬くんを愛しているの」


 そこまで言って、マダムは真顔で参加者に告げる。


「男って、帰る場所がないと何処までも行ってしまうわよ。

 私は辰馬くんと一緒に行く事ができないから、帰る場所になってあげたいと思っているわ。

 そのあたり、みんながうらやましいなぁと思う訳。

 だって、あなたたちは辰馬くんに何処までもついてゆくつもりなんでしょう?」


「無論です。

 ご主人様の剣となり、盾となり、家ともなるのが私の存在理由ですから」


 リールが即答で答えると、次にボルマナが頷いた。


「私もです。

 竜神様より、神堂様に仕えるようにと言われていますので」


 二人の辰馬の元に来た経緯を考えるならば、リールとボルマナのこの返事は分からなくはないのだが、ここでベルが頷かなかったのを長い付き合いのアデナが気づき尋ねてみる。


「ベル。

 どうして、あの二人の後に続かなかったんだ?」


 アデナの問いかけに、ベルは首輪を触りながら答えた。


「なんでだろ?

 ちょっと違うなと思ったの」


 ベルの言葉に皆が注目したのに気づいて、ベルは首輪--元は辰馬のベルトだったもの--を外して見せる。


「あたしら奴隷種ってさ、逃亡や反乱を起こさないように首輪にこめられた誓約の魔法で縛られている訳。

 それが当たり前なんだけど、ご主人それを知らなかったらしくてさ。

 あたしを買った後、ベルトを首輪代わりにしてさ。

 ひどいと思わない?」


 そう言いながら、ベルは手に持ったその首輪から視線を逸らさない。


「で、今に至るまで首輪を変えろなんて言ってこない。

 あれは絶対忘れていると見た。

 同時にそんなことしなくてもこいつは逃げ出したり裏切ったりはしないと」


 首輪を握り締めてベルは愛しそうに微笑み、マダムを睨みつける。


「その信頼には答えないといけないでしょ。

 あたしがご主人を好きな理由と、あんたに負けたくない理由はそこよ」


 ベルの視線をマダムは真っ向から受け止める。

 先に視線を逸らした方が負けと言わんばかりの睨みあいに終止符をうったのは、普段から何かとぶつかっているリールの一言だった。


「こう言う席だからあえて言わせてもらいます。

 ご主人様は勇者になりえる資質を持っている。

 その上で皆はご主人様についてゆくのですか?

 ご主人の足を引っ張る事になりはしないのかと考えた事はないのですか?」


 お茶会だけどメイド姿で肩で揃えられたカチューシャをつけた髪を揺らし、表情を出さない顔で犬耳メイドは淡々と口撃する。

 均整のとれた胸と尻はメイド服をつける事で仕事人という風格を感じさせる彼女だが、館内の雑務を取り仕切るメイドとしてでなく、高度な戦闘訓練も受けている優秀すぎる女でもある。

 あえて話をそらすが、組織人であり軍人なんて職についていた辰馬は、一人の人間ができる限界というのを踏まえ、数とそれを動かす命令系統の効率化を常に考えている。

 結果、この娼館なんかがそうだが、娼婦や辰馬の元部下等が多く住み着く事に。

 これがリールとって面白くないらしい。

 忠誠対象がご主人様一人(この場合辰馬)に向けられ、一人で何でも出来たしそれが許されたゆえに、他者が足かせでしかないリールは自ら一人で仕事をする事を選んでしまう。

 同時に、ご主人様の足を引っ張りかねない他者を本質的に嫌悪していたのだった。


「さすがわんこ。

 私がいるから、みんないらないでしょと来たか」


 ベルの挑発にもリールは涼しい顔のまま。


「当たり前です。

 それが勇者付きメイドなのですから。

 何でもできるし、何でもできないといけないんです」


 そう誇って見せたリールに予想外の一撃を入れたのはなんとボルマナだった。


「けど、たしか神堂様とリールの契約って仮契約のままだったような?」

「なんですって!?」


 たまらずベルとアデナが吹き出すが、リールはそれどころではない。

 彼女のすまし顔がここまで崩れたのは初めてじゃないだろうかと思いながら、ボルマナは続きを口にした。


「だって、リールさんの引き取り値段高かったじゃないですか。

 その時の手持ちの金だと神堂さまでは引き取れなかったんですよ。

 で、取引は帝国政府との間で行われて、ご主人様はその代行という形でリールさんを使っているはずですよ」


「な……な……な……」


 アイデンティティの喪失に動揺が隠せないリール。

 このあたり、帝国の代理人として振舞っていたから帝国の財布と自分の財布がごっちゃになっており、実はこの娼館もそんな流れで辰馬が預かっている形でしかなかったりする。


「どうしたの?わんこ。

 顔色悪いじゃん」


 ベルの追い討ちにたまらずリールが怒鳴る。


「うるさい!うるさい!うるさい!

 初めてだったんだぞ……

 私をこんなに使ってくれたのは。

 勇者無きこの国で飾り物で無く、疎ましがられずに使ってくれたのは……」


 だんだん声が小さくなって涙声になったのを見て、さすがにベルも囃すのを止める。

 状況は違えども、結局リールも辰馬から与えられたのだと分かったのだから。


「そういえば、ボルマナちゃんは辰馬くんの何処が好きなの?」


 話を変えようとしたマダムの話の振りに、ボルマナは頬に手を置いて首を傾げながら答えた。


「好きかどうかは実はよく分からないんです。

 使われる事も抱かれる事も日常でしたので。

 ただ、こうやった時間が過ごせたり、私達の仲間が少しずつ助かってゆく。

 そんな希望を見せてくれる神堂さまの側には長く居たいなと思うのは本心です」


 愛情でも信頼でも感謝でもなく、希望という言葉でボルマナは辰馬との関係を語ってみせる。

 ここまで皆の思いが違うのかとそれぞれが思ったその後で、ボルマナの切実なお願いが耳に届いた。 


「ですから、閨で私を最初に落とすのは止めてもらえませんか?」

「駄目!

 落としやすい所から叩くのが鉄則よ!」

「そうです。

 技量が足りないのが悪いのです」


 即座に共闘して叩いたのがベルとリール。

 まったく部外者なアデナは、唐突に始まった三人の姦しい罵り合いを眺めながらは罵り合いから外れたマダムに肩をすくめて見せる。


「まったく引く気がないじゃないか。みんな」

「そんなものよ。

 辰馬くんがちゃんと愛し続けてくれるならば、これも楽しいのよ」


 マダムが楽しそうに笑ったのを見て、罵っていた三人が対マダム同盟を組んで返り討ちに合うのはその翌日の事である。

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