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たのしいたのしいいんぼうのおはなし その二

 マンティコアがイッソス湾に沈んでから、第四次異世界派遣船団がイッソスの港から出発するまでをもう少し語る事にしよう。


「あ。起きた」

「おはよ。辰馬くん」


 俺の目覚めと同時に声をかけてくれるマダムとベルを退かせると、館の俺の部屋の修羅場が改めて目に入る。

 たしか、ガースルからディアドラを受け取って、九七式飛行艇で撫子三角州に送り届けて、ここに詰めていた中隊を報国丸に送り届けて、内海審議官に報告した後、一眠りするかという感じで館に戻ったら、マダムが待っていた訳で。

 で、壮絶なる戦いの結果、リールとボルマナがまだ目を覚ましていないという訳で。


「あんたえぐいよね。

 ちゃんと満足させるようにしていたんだろうけど」

「そうかな?

 久しぶりだったから、ちょっとがんばっちゃった」


 寝室に置いた水桶に手ぬぐいを浸して汗やその他のものをふき取るが、地味に二人の舌戦が厳しい。

 技量的に劣っていたボルマナを真っ先に落とし、リールを共同で撃破した二人は最後相打ちに近い形で戦いを終わらせる事になった。

 おかげさまで、丸一日寝室に篭りっぱなしみたいな感じになっている。


「そういえば、ここで生活する兵と高級娼婦たちはどうしているのやら」


 俺の呟きに背中を拭いてくれたマダムが答える。


「大丈夫。

 ちゃんと男見つけて、抱かれるように言っておいたから」


 この館の女主人が決定した瞬間である。

 逆らう気ははなからないので、俺はマダムの言葉を聞き流して服を着る事にした。

 

 館の大広間で全員の顔合わせを兼ねた食事会を開こうと考案したのはマダムだ。

 とりあえず、この館には俺達以外に大陸からの付き合いになる兵が十二人と、高級娼婦が十二人にアデナがいる訳で、料理を作るのも結構大変だったりする。

 マダムとリールが厨房に入り、元板前経験者が居たので彼も厨房に送り出した後、部屋割りを決めてゆく。

 離れは兵達の隊舎にし、本館の三階を高級娼婦達の私室に彼女たちの仕事場は二階という訳だ。

 兵の仕事は館の警備とトラブルの解決だが、門に二名と本館に二名歩哨として交代で立たせる事にする。

 娼婦達のまとめ役だが、マダムが上に立つので異世界側のまとめ役としてアデナを指名。

 そんな事を決めながら食事である。

 食事は、和食・中華・異世界入り混じった楽しいものになった。

 箸が使えない可能性を考慮して、おにぎりと味噌汁につけもの、マダム故郷の味小籠包、こちらの世界のパンと野菜のサラダが食卓に並んでいる。

 こうやって皆で食事をしている間は問題も発生しない事が多い。


「で、とりあえずいつから店開けるの?」


 おにぎりを食べながらアデナが尋ねると、マダムがパンを味わいながら答える。


「あせらないの。

 まだ、色々足りないのだから」


 何が足りないのだろうと俺が首をかしげるのを見てマダムがまだまだねと肩をすくめる。


「服も飾りもインテリアも。

 いい女はいい物を持っているものよ」


 それは、女が良い物を見極めている証でもある。

 それについては納得したのだが、ある事に気づいてマダムに尋ねる事にした。


「で、それを買う金は誰が用意するので?」


 マダムはとてもいい笑顔でただ一言。



「がんばれ♪」



 いや、ある意味分かっていたけどさ。

 娼館の格というのは女以外の所の飾りでも見られるものらしい。

 その為、女以外のもてなしでも気を抜けないというのがその道の達人たるマダムのお言葉である。


「そのあたり、ここは恵まれているわよ。

 ここしかできないサービスが多いし」


 マダムが振舞うジャスミン茶を食後に堪能しながらマダムが話を続ける。

 このお茶もよその店ではできないサービスだ。

 そういうサービスを館全体に広げてゆく必要があるというのがマダムの意見である。


「異国情緒ってのは大事よ。

 ここが日常じゃないって思わせる所からサービスは始まっているのだから」


 今気づいたが、女達の視線が恐ろしいぐらい真剣である。

 ベル・ボルマナ・リールまでしっかりとマダムの言葉を噛み締めて頷いている。

 この館に常駐の人員を置く事が決まったので、補給物資はかなりの量を持ってきてもらっている。

 米・味噌・醤油に酒に煙草は客に振舞っても次の船が来るまで十分持つ程度には用意してもらっていたり。

 だが、そういうこちらの品でサービスを続けると途切れた時にサービスが行えなくなる。

 だからこそ、このイッソスで手に入る品で異国情緒漂うサービスを作っていく必要があるという訳だ。


「一回市場を覗いてみないとね。

 そういうのを整えてからでないとお店は開けない方がいいの」


 このあたりのマダムの言葉は魔都上海で磨き抜かれているからまず間違いが無い。

 けど、そのあたりも当然支払いが発生するわけで、俺はマダムの方を見て……



「がんばれ♪」



 マダムはとてもいい笑顔で、さっきと同じ言葉を繰り返してくれやがりました。



 という訳で、金稼ぎのためにベルを連れてイッソス太守家の居城に足を運ぶ。

 ここに、報国丸での治療によって命を取り戻したキーツ氏が運ばれているのを聞いたからだ。


「お元気そうで何よりです」

「勇者達の元に行くかと思ったが、こうしてまだ生きる事ができたよ。

 感謝する」


 礼を言われた後少しの雑談をしてキーツ氏が寝ていた部屋から退出すると、召使がやってきてコンラッド氏の私室に案内してもらう。

 品の良い調度品に囲まれた部屋の中にある椅子に座るように進めたコンラッド氏は、こちらの薬草茶(ベル情報)を入れながら口を開いた。


「キーツを助けてくれた私事だけでなく、国難に等しいマンティコアまで倒してもらって、感謝してもしきれないぐらいだ」


「こちらこそ、コンラッド氏との友誼に報いたまで。

 これからも良い関係を続けていけると信じています」


 お互いの儀礼は終わり、報酬の話となる。


「正直に言おう。

 いくら支払えばいい?」

「こちらも正直に言います。

 いくらもらえばいいでしょうか?」


 互いに正直にぶっちゃけた結果、ベルが呆れ顔をしたが二人して大笑いをする始末。

 面白かったらしく、コンラッド氏が笑い涙をふいてぶっちゃける。


「君達の国に対する感謝と君に対する感謝は別物でね。

 国ともなると色々考えないといけない訳だが、君自身に対する感謝はまだ私の権利内でどうにでもできるのだよ。

 少なくとも、わが友を助けてくれた君の働きを政治で汚したくは無い」


 内海審議官に商館の設置と、常駐商館長の設置を求めている事をはすでに知っている。

 そのあたりは政治が絡むのだが、コンラッド氏はあえて俺に対する感謝を政治と切り離したのだ。

 コンラッド氏は品のいい机の上に白銀の塊を置いて見せた。


「ご主人。

 これ……」


 ベルが感づいたのを見てコンラッド氏が種明かしをする。


「そう。

 君達が沈めたマンティコアさ。

 この白銀だけでも並みの冒険者なら一生遊んで暮らせるさ。

 引き上げにはいろいろ手間がかかるが、それが最初の品物だ。

 よかったらもらって欲しい」


 手を出そうとしたベルを制して、俺はコンラッド氏の顔をじっと見る。

 政治は切り離したとコンラッド氏は語ったが、ここで切り離されるとかかわった背後が分からなくなるからだ。

 受け取る前だからこそ、ぎりぎり政治に掠める質問を俺はゆっくりと口に乗せた。


「これを何処に持って行けば、高く売れるでしょうかね?」


 コンラッド氏の顔からは俺の質問の意図が伝わって居るのかどうかを伺うことはできない。

 それでいいのだ。


「そうだな。

 この街にあるカッパドキア魔術協会なんか高く買い取ってくれるだろうね」


 コンラッド氏の屋敷から退去して、俺とベルは町並みを歩く。

 さっそく換金しようとはしゃぐベルを眺めながら、とある建物を見つけてある疑問が沸く。


「ご主人。

 どうしたの?

 勇者神殿なんて眺めて」 


「ああ、魔術協会ってこっちじゃなかったのか?」

「違う違う!

 魔術協会はこっちだって!」


 ベルに手を引っ張られて魔術協会に向かう途中でも、俺はその疑問を忘れる事はできなかった。


(マンティコアが出た時、この国の勇者は何をしていたのか?)


という疑問を。

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