盗賊ギルド討伐戦 その三
地下水道に戻る途中、鉄条網にひっかかった大鼠が三匹と天井に張り付いているスライムが一匹居たが、ベルの短剣であっさりと仕留められる。
「やっぱり松明があった方がいいな。
ランタンだと天井のスライムに気づかない事があるし、大蝙蝠もいるからな。
一人伝令を館に走らせ、松明を大量に持って来させろ」
伝令を走らせ、しばらくしてリールと合流。
剣が抜かれておらず、鎧にも血がついていないので何も起こっていないと分かるが、念のため確認の言葉を口にする。
「何もなかったか?」
「こちらでは何も。
ただ、奥の方で剣戟音がしたので、何かは起こっているのでしょうが」
地図を確認すると、今の位置は下水の本道の一つに当たっている。
それまでの枝道は館に繋がるもの以外は鉄条網で塞いできたので、先に進み他の枝道を潰す作業をしながら敵を待ち受ける事になるだろう。
背後に警戒のための歩哨をおいているので背後を気にしなくていいというのが、こんなにも楽だとは俺も冒険者に染まったものだと苦笑する。
そんな事を考えていたのを察したのかリールが不機嫌な顔をする。
「そんなに多くの人を雇わずとも私一人でギルドマスターを仕留められましたものを」
「わんこはこの迷路の中確実にギルドマスターの所につけるのかい?
ご主人の手は堅実だとは思うけど、大赤字確定だよ」
ベルが窘めるが、この世界は基本一人で何でもする事が前提となっている。
という事は、報酬もそれに見合った程度しか用意しないという事だ。
産業革命によって莫大な生産力を持ち、その圧倒的な数なるもので世界を作り上げてきた俺の世界とはそこが決定的に違う。
「ギルドマスターを倒しても、金貨千枚って所じゃないの?
彼が隠しているお宝でも見つけたら別だろうけど?」
ベルいわく、ギルドマスターはもうこの国には居られないので逃亡するしかない。
そうなれば逃亡先で再起を図るためにも生活するためにも、お宝を持って逃げ出さないといけない訳だ。
つまり、彼についている暗殺チームは彼に人望が無い場合それを奪い、ギルドマスターの首を手土産に投降する事もできる訳で。
「なるほど。
絶対に裏切らない殺人人形が作られる訳だ。
じゃあ、リールが聞いた剣戟音は仲間割れか?」
俺の言葉にボルマナが口を挟む。
「もしくは、賞金を狙った冒険者との交戦、その両方かと」
地下水道は閉鎖空間ゆえに水音が流れていても結構な音が響く。
俺の耳にも、先の方から激しい剣戟音が聞こえてくる。
それに、猫耳を欹ててベルが楽しそうに笑う。
「おー、やってる。やってる。
十人以上の大乱戦みたいで、派手にやりあってる。
殺人人形相手に地下水道で戦うのは、暗殺者達には少し厳しいかな?」
こういう時のベルの耳と盗賊としての経験は馬鹿にならない。
ガースルとの権力闘争に負けて俺に買われなければ、今、先で発生している戦闘の中に彼女がいた可能性があるのだから。
少し広くなった水道の合流点の階段に上って、ついてきた第一小隊長に命令する。
「ここに阻止線を張る。
俺達以外の連中がやってきたら、遠慮なく撃ってかまわない」
「了解しました。
機関銃を持って来い!
ここに設置するぞ!」
小隊が阻止線を作っているとベルが俺を押しのけて警戒し、リールが抜刀して前方を見る。
いや、正しくは正面にある枝道の一つだ。
「何者だ!」
「待て!
俺達は敵じゃない!」
聞き覚えがある声がしたと思ったら、さっき水道出口で揉めていた冒険者の一団だった。
小隊が構えていた銃を下ろさせると、脇道から彼らが手をあげて出てくる。
敵意はないという事らしい。
「あんたら何者だ?
本水道の合流口にことごとく鉄の紐を巻きつけやがって。
おまけにその大所帯だ。
ギルドを潰しても赤字になりかねんぞ」
リーダーの言葉には、推測からこちらの情報を引き出そうという意図がありありと透けて見える。
「さっき言ったろ。
冒険者じゃない。
それが答えだ。
金をもらう側じゃなくて、払う方なんだよ」
少し高圧的に言って見せるが、あえて立場の違いを強調する時にこのものいいはよく効く。
これも大陸の経験だ。
「あのギルドマスター、イッソス太守家の竜の尻尾を踏んだのか!」
彼らの言葉を誘導して、彼らに理解しやすいストーリーをでっちあげる。
彼らがギルドマスターを始末してもこっちは構わないからだ。
「アダナへの街道に出没した山賊がギルドと繋がっていた。
その討伐で功績を立てた空中騎士のキーツ氏はコンラッド氏の友人で、さっき襲われた。
イッソス太守家が激怒した理由だ」
嘘でもないが本当でもない。
が、彼らが納得する理由からすれば十分な話を俺は口にする。
その上で、彼らに俺達の立ち居地を教える。
「ギルドがらみだと、どれだけ冒険者が信用できるか分からない。
俺達はこの国の人間ではないが、それだけにしがらみが少ない。
イッソス太守家とは商売で繋がってな。
それがここに潜っている理由さ」
そこまで話していたらリールが剣を構えて割り込む。
「ご主人様!
お下がりを!
殺人人形が来ます!」
ベルが俺の襟元を掴んで引き倒すと、急に沸いて出た殺人人形の白刃が俺の居た場所を通り過ぎてゆく。
「撃つな!
同士討ちになるぞ!」
第一小隊長が叫んで兵達が銃を構えるが、すでに殺人人形の姿は見えない。
鎧人形とも違う、人の形をしていたが、その特徴的にものがまったく見えなかった。
そう。顔さえも。
なんというか、人を銀で作って顔を彫らなかったような。
「畜生!二人やられた!
衛生兵!」
俺を狙ったやつ以外にも殺人人形がいたらしく、後ろにいた兵の二人が心臓を貫かれて絶命していた。
「やつらは、短距離転移魔法を繰り返しての奇襲が得意だ。
転移阻害結界を張るぞ!」
冒険者のリーダーが叫び、杖を持った冒険者が魔法を唱える。
「前は冒険者に任せろ!
後ろのやつを確実に排除するぞ!
ベル。
出てきたら合図を」
「まかせてご主人」
「射撃用意!」
俺の言葉にベルが俺の前に立ち、第一小隊長が兵が持つ銃を構えさせる。
リールはおれの背後で冒険者達と戦闘をしている殺人人形に警戒しつつ剣を構え、ボルマナも何かを取り出して構えている。
それが出てきてからの数秒は、後で思い出しても何が何だか分からなかった。
「マジックミサイル!」
鉄条網で塞いでいたはずの枝道から光る何かが高速で飛んできたと思ったら、ボルマナが叫んで持っていた何かをばらまいて、そのばらまいたものに吸収される。
そして、鉄条網を一刀に切り裂いた殺人人形が作った致命的な隙をベルが見逃すわけなく、
「あっこ!」
「撃ぇ!」
兵達の射撃をシールド魔法で弾いた殺人人形だが、射撃を継続する九二式重機関銃によって跳ね飛ばされて壁に叩きつけられる。
白銀の手が、足が、何もない顔が吹き飛んでさえ、こいつは痙攣し続けている。
「撃ち方止め!」
俺も、第一小隊も初めて感じる異世界の化け物の恐怖に汗がにじみ、息が荒くなる。
これが、この世界の化け物というものなのだろう。
そして、これと対等に戦える人間がこの世界にはいるという事実は、こちらでの戦死者という損害と共に俺に重くのしかかる。
「損害確認」
「二名死亡。
弾薬はまだあります」
俺はリールの方に振り向く。
彼女はこちらの殺人人形が無力化されたのを確認して、即座に冒険者達の方の殺人人形の方に意識を向けていたのだった。
六対一だというのに、殺人人形は互角に冒険者達と渡り合っていた。
「もう一体増えてる。
二体居ますね」
ボルマナの指摘に、俺は加勢をしようとしてベルに手を引っ張られる。
「おかしい……殺人人形はギルドマスターの切り札のはず。
何で、ギルドマスターから離してこちらを襲うの?
わんこ。
こっちの他にも戦闘音しているわよね?」
ベルの質問にリールは犬耳をぴくぴくさせながら答える。
「ここの奥の方が戦闘音が激しい。
多分、こいつらはご主人様を狙うよう命令されたやつ」
という事は、ギルドマスターにはもう一枚切り札が隠されていると言おうとした俺の耳に、絶命と共に遠くからギルドマスターの切り札の正体が知らされたのだった。
「マンティコアだぁぁぁ!」




