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盗賊ギルド討伐戦 その一

 俺達を乗せた小発はダゴン商会の前に着くと兵達を前で休ませてガリアス氏に面会を求める。

 向こうも状況を把握しているのか、五分と待たずに彼は出てきた。


「キーツ氏が刺されたとかで容態は大丈夫なのでしょうか?」


「彼は今我々の船に乗って治療を受けている所だ。

 キーツ氏の件を知っているならば話は早い。

 情報が欲しい」


 窓から見ると商会の方も慌しい。

 この手の商会は裏で武力を保持しているからこういう時の動きは素早い。


「アダナの山賊討伐で盗賊ギルドの関与が噂されて、現ギルドマスターが失脚すると噂されていました。

 それを危惧したギルドマスターは先手を打って反対派を粛清。

 報復行動に出たと」


 盗賊ギルドはこの町に無くてはならないものだ。

 彼らがスラムの王でいられるのもスラムを押し付けられるという理由があるからだ。

 他にも賄賂などが有力者の懐に入り込んでいるので潰せないというもある。

 大陸でよく見た光景だ。

 そして、この手のトラブルが発生した場合、ギルド側の首を切って手打ちにして終わりという所なのだろうが、今回は俺達という異分子が居た。

 山賊討伐に貢献し、ギルドに金を払わず、ギルドの娼婦達を引き抜き、ギルドの襲撃部隊を撃退した結果、切られる首である反対派の方が異を唱えたのだ。

 彼らを粛清した結果、俺達へのけじめは絶対につけなければならなくなった訳で、キーツ氏襲撃はそんな流れの中で行われたのだろう。

 命を取らなかった事で、コンラッド氏に配慮したとも取れる。

 だが、ギルドマスターはキーツ氏とコンラッド氏の友人関係を甘く見ていた。

 いや、イッソス太守家とダミアン国政議会議長の権力闘争を甘く見ていた。

 自力はイッソス太守家の方が強いのだ。

 だから、ダミアン氏は裏工作ができる盗賊ギルドに接近したのだ。

 そこを間違えなかったからこそ、山賊討伐時にダミアン氏はキーツ氏を賞する事で敗北を認め、手打ちとしたのだろう。

 この時点で盗賊ギルドは切り捨てられたのだ。

 今回の一件で、盗賊ギルドを庇う政治的後ろ盾は存在しない。


「失礼します。

 空中騎士団より連絡があり、キーツ氏襲撃の件に関して騎士団を動員してスラムを捜査するそうです。

 我々にも懸賞金出資という形で協力の要請が来ました」


 入ってきた商会員の報告に応対しながらガリアス氏がこちらに話しかける。

 スラムの広域捜査ができるだけの武力が無いから、冒険者を雇う事で臨時の賞金稼ぎにするつもりなのと、こうして懸賞金を求める事でギルドにつくかこっちにつくかの踏み絵を踏ませているのだろう。


「聞いたとおりです。

 そちらはどう動きますか?」


 ガリアスの言葉にあえて淡々とした口調で俺は答える。


「館に戻りますよ。

 火でもつけられたらたまりませんから」


 ギルド討伐に参加すると思っていたらしいガリアス氏は、ちょっと意外な顔をしながらも即座に話を続ける。


「腕利きの者を数人つけましょう。

 追い詰められた鼠は猫をも襲います。

 現状で一番危ないのは貴方だ。

 お気をつけを」


 数日振りの館に到着。

 ダコン商会が手配した馬車三台は館の入り口に止まると、鍵を開けて門を開く。


「リールは本館を頼む。

 ベルとボルマナは離れから地下室経由で本館を確認。

 三人連れて行け。

 武器は自由に使って構わない。

 残りはここで待機」


「わかりました。ご主人様」

「了解。ご主人」

「皆様、よろしくお願いします」

「あ、ああ」

「よ、よろしく頼みます……」


 ボルマナの挨拶に返す言葉が微妙なのは、兵たちに俺と彼女達の関係を明かしたからに他ならない。

 兵たちは俺とマダムの関係は知っていたから、ベル達を知って最初は怒りかつ羨望の視線を俺に向けたのだった。

 それがだんだん同情と不幸なものを見るような目になったのは、三人が毎夜毎夜ねだってくるとか、高級娼婦十二人まとめ買いしたのに、まだ手を出していないとか、その結果一本の竿をめぐって、マダムまで含めた修羅場が発生したとかを聞いたからに他ならない。

 こそっとボルマナがテレパスを使っていたらしく、


(この人、複数の女の上で死ぬか、複数の女が上にいる時に死ぬかのどちらかなんだろうなぁ)


という同情で皆の心が一つになっていたという。

 また、娼館開設と共に拠点警備として彼らを利用する事を告げた結果、ベルが発情する娼婦達の竿として期待する事をぶっちゃけやがったので皆ドン引き。

 話がそれた。

 ガリアス氏がつけてくれた腕利きは四人。

 ダゴン商会専属の冒険者らしく、これに馬車の御者を入れた七人をこちらにつけていることはそれだけ危険度が大きいと見るべきなのだろう。


(離れは確保しました。

 異常はありません。

 兵の皆様を離れに残して、これから地下室に下ります)


 ボルマナのテレパスと同時に本館の玄関からリールが出てきて、手で安全な事を知らせてくれる。


「待ち伏せはなしか……

 冒険者の方々はこのまま周囲の警戒をお願いします。

 二人門で見張って支援しろ。

 後で交代を送る」


「了解」


 手持ちの兵は十二人。

 二人を門前に起き、離れに三人送ったのでここには七人がいる。


「ご主人!

 地下は問題なかったよ!」


 本館の隠し通路から出てきたベルとボルマナに本館の罠探しをさせるが、どうやら問題はなかったらしい。

 地下水道への入り口をボルマナが鎧人形で塞いだ事で、とりあえず篭城の準備は完成した。


「何もなかったか……仕掛けてくると思ったがなぁ」


 俺のつぶやきにベルが頭に指をつけて考えながら口を開く。

 彼女のギルド内での経験が今後の行動にかかっているだけにいつも以上に真顔だ。


「多分、こっちが戻ってくるのが事前に分からなかったから、罠が仕掛けられなかったのだと思う。

 この館ダコン商会に預けていたから置く形の罠なんて置いたらすぐ発見されるし。

 殺しにくるとしたらこれからだと思うけど、上はキーツ氏襲撃で騎士団が頭にきているから……」


 そういってベルはさっきまで居た地下室ある地面に顔を向けた。


「ギルドマスターが逃げるとしたら海路しかない。

 で、港に逃げ込むにはうってつけの地下水道が走っていて、その一つの出口はここと繋がっている。

 ついでの報復にはうってつけね」


「どれぐらいの規模でやってくると思う?」


 俺の質問にベルは淀みなく答えた。

 こういう時にベルの有能さが垣間見える。


「ギルドマスター直属の暗殺チームは四人一チームで三チームの十二人。

 これに、殺人人形が十数体ほどあるからそれを連れてかく乱を狙うんじゃないかな」


「殺人人形?」


 それの声に説明を入れたのは鎧人形を操っていたボルマナだった。


「古代魔術文明が要人警護兼拠点防衛用に作り出した兵器で、魔力供給が続く限り自立して動けます。

 もちろんそれは一体金貨一万枚を超える高価なものなのですが、状況が状況だけに全部動かしているでしょう」


 敵の戦力は最大で小隊規模。

 だけど、想定戦場が縦横無尽に張り巡らされている地下水道。

 確実に手が足りない。

 いや、手はあるのだ。こちらには。

 今の異世界派遣船団には、島流しの為に陸軍の将兵達が連隊規模で船に乗っているのだった。

 そして、ヴァハ特務大尉の言葉を借りれば、彼らはその士気や練度については怪しい所があるが、使い捨ててもいいというお墨付きをもらっている。

 事がここまで大きくなった以上、静観方針は変わらないがイッソス太守家にこちらの動員能力を見せておいた方が今後の関係も円滑に進むだろう。


「ボルマナ。

 御者を一人帰らせて、ガリアス氏にこう伝えてくれないか?

 『盗賊ギルド討伐の依頼を我々も受けたい。

 人数は百人単位で』」

 

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