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盗賊ギルドへの報復 その二

 新しい住居となったイッソスの館のベッドは無駄に広い。

 そのおかげで四人一緒に寝ることができたのだが、起きてみるとリールがいない。


「おはよ。

 ご主人。

 あのわんこは少し前に出て行ったけど」


 さすがにベルは気づいていたらしい。

 気をうしなっているボルマナは無理みたいだが。


「食事を作るってさ」


 さすがメイド。

 なんとなくそう思ったのを気づかれたかベルがむくれた顔をする。

 で、話をそらす。


「そういえば、ベルは料理作れるのか?」

「外で食べるぐらいのものは作れるけどね。

 で、わんこに厨房を譲ったわけ」


 そりがあわないだろうが、最低限の仁義は守るというのがベルの良い所だ。

 ここで相手を貶めるような事は言わない。

 ほんのりと部屋の外からおいしそうな匂いがする。


「ぁ・・・・・・おはようございます」


 ボルマナも目を覚ましてむくりと起き上がる。

 こちらが身支度をしたぐらいにリールが食事を持ってくる。

 出てきたのはパンと蜂蜜とチーズ、野菜と果物のサラダに、大兎の肉と豆のスープである。


「葡萄汁を冷水でわったのも作っております。

 こちらもどうぞ」


 出された食事はたしかにうまかった。

 メイド服にエプロンをつけて後ろに控えているあたり、本当にメイドに見えるから困る。


「リールは一緒に食べないのか?」

「ご主人様と共に食事をするのは失礼に当たるので」

「命令だ。

 一緒に食べろ」


 こういう所で、差異をつけるのは良くないので命令してリールも席につかせる事にする。

 で、食事を取りながら今後の方針を考えてゆく。


「とりあえず、しばらくはここを使わないぞ」


 俺の一言に、女性人三人からの驚きの声があがる。


「どうしてさ!?

 ご主人!」


 真っ先に質問をぶつけてきたベルに俺は簡単かつ最大の理由を教えてやる。


「誰が留守を守るんだよ?」

「あ」


 当たり前だが、これぐらいの屋敷になると留守を守る人間が必要になる。

 で、リールが見事に墓穴を掘る。


「私ではお役に立てませんか?」

「立つけど、そうするとお前、留守番だぞ」

「あ」


 みるみる耳と尻尾がしょぼーんとするリール。

 実に分かりやすい。

 こういう意味でも、高い宿というのは高い金を払うだけの価値があるのだ。


「それでは、ここはどうするつもりで?」


 ボルマナの質問に俺が内海審議官と話し合った内容を伝える。


「奴隷市は毎週行われているので、そこで買い取った彼女達の休憩場所にする予定だ。

 で、その為にもここには常駐する人間を置く必要が出る」


 ある意味好き勝手に使えという内海審議官の言質をいただいているが、俺とてそれに甘えるつもりはない。


「まずは、館を完全に把握しよう。

 全てはそこからだ」


 食事後、探索が始まる。

 塀で囲まれた屋敷は、池のある庭を挟んで四階建ての本館と二階建ての離れに分けられている。

 俺達が泊まり、食事を取ったのは本館である。

 で、真面目に一階から探索を始めたら、ベルの足がぴたりと止まる。


「ご主人。

 ここに隠し通路がある」


 こういう屋敷で隠し部屋や隠し通路が無い方がおかしい。

 ガリアス氏も把握してはいたのだろうが、それは情報料として別料金という訳か、ベルが居るから気づかない事はないと踏んだのかも知れないが。


「開けられるか?」

「少し待って・・・・・・

 開いた!」


 壁の一部を押すと、奥に続く隠し通路が出てくる。

 ボルマナに灯りの魔法をつけてもらい、中を進むと階段に繋がる。

 下に下りてみると、地下室発見。


「隠し通路兼召使用通路みたいね」


 地下室からは更に地下に下りる階段があり、もう一つ上に上がる階段と横に続く通路がある。

 下に下りる階段を進むと、途中に扉があり鍵がかかるようになっている。

 隣に激しく流れる水があるから、多分地下水道に繋がっているのだろう。

 扉を開けると地下水道に繋がる事を確認。

 ノートの地図を確認し、階段の位置を重ね合わせる。


「これで、衛視に銅貨を払わなくて済みますよ。

 ご主人」


 地価水道から戻ってベルが苦笑する。

 たしかに、俺みたいな駆け出し冒険者には衛視に払う銅貨一枚も貴重なのだろうが、今や館の主となった時点で銅貨一枚がどうこうというのも可笑しいもので。

 横に進む通路の先は離れに繋がっていた。

 納屋も併設されていたので買った馬車はここに収納している。


「結構部屋があるわね」


 ベルが仕掛けがないかを確認しながら部屋を調べる。


「この離れだけでも食堂や風呂があるので、買った彼女達を一時的に預かるのならば問題なさそうですね」


 ボルマナも部屋の設備などを確認しながら話す。


「・・・・・・ですが、これだけの館ともなると、私抜きなら最低十人は居ないときついかと」


 留守番はいやらしいので、リールが自分抜きの館の運営人数を考える。

 その中途半端な尻尾の振り具合から彼女の心境が分かるだけに、俺は笑いを堪える。


「それは何とかするさ。

 さてと、次は本館の探索と行こう」


 本館は一階が来客用ホールや談話室、食堂や使用人控室があり使用人控え室からも地下室への階段が見つかる。

 二階は来客用施設となり、屋敷の主人の居住空間は三階から上となる。


「あ、ここに隠し扉。

 あの階段ここに繋がっていたのか」


 ベルが苦笑するのは俺達が寝た寝室の壁から階段が出てきたからで、ちゃんと調べなかった自分に反省しているらしい。

 探索終了。

 めぼしいお宝はなしというか、金に困っていた商会から買ったのだからある意味当然か。


「で、この後どうするの?

 ご主人?」


 まだお日様は高い所にある。

 使用人の件もあるからさっさと片付けてしまおう。


「先にダコン商会に寄って、山賊やゴブリンから剥いた装備などの代金を回収しよう。

 で、その後使用人を買いに行くさ。盗賊ギルドに」



 昼間に来るスラムというのもおっかないもので、なまじお日様が出ているので警戒心が下がるが、基本的にやっている事は昼も夜も変わらないものだ。

 そんなスラムの住民が露骨に警戒しつつも俺達の馬車に手を出さないのは完全装備のリールの存在が大きい。

 個が多を圧倒するこの世界において、リールクラスになると雑魚がいくら群れようとも蹴散らせるという事実がそこに存在している。

 で、馬車を止めてボルマナを待機させてベルを買い取った酒場にベルとリールを連れて入る。

 たむろしていた盗賊たちが一斉にこっちを見るが、リールの微笑で皆一様に視線をそらす。


「よぉ。

 色男。

 また、女を漁りに来たのか?」


 煽った盗賊に向けてリールが敵意を向けると盗賊もそれ以上言えなくなる。

 俺は苦笑しながら用件を伝える。


「ガースルを呼んできてくれ。

 女達を買いに来たってな」


 煙草を咥えて煙をたゆたらせる事少し。

 不機嫌な顔でガースルが奥から出でくる。


「不機嫌そうね。

 もしかして出直した方が良かった?」


 不機嫌の理由である街道の山賊達の壊滅を知っているだけに、ベルの嫌味にガースルから殺気が溢れ出ようとして、リールの強烈な殺気でそれが吹き飛ばされる。

 金貨千枚の価値がある訳だ。勇者専用メイド。


「いや、構わねぇ。

 女を買いに来たって?」


 表面上取り繕いながら、ガースルが強面の顔で尋ねる。

 その虚勢が剝がれるのはたった一言で済んだ。


「ああ。

 ベルの知り合いも身受けしようと思ってな。

 アデナだっけ?

 彼女を含めて、以下の娘を引き取りたい」


 俺の言葉を受けて、ベルがガースルに羊皮紙を渡すと、ガースルの顔が見る見る青ざめる。

 そりゃそうだ。

 そこに書かれた娘達はアデナをはじめゴブリンの巣で保護しているのだから。

 この羊皮紙は、『あんたのやった事、しっかり証拠握っているからね!』と恫喝しているにすぎない。

 もちろん、これにも逃げ道はある。


「残念だったな。

 ここの娘たちは身受けされてもう居ないんだ」


「へぇ。

 そうなんだ。

 ちゃんとした所に見受けされたのならいいわ」


 ベルがとてもいい笑顔で返事をし、ガースルが苦虫を潰したような顔をする。

 これを言われるとギルドからの管理外に居る事になるので、彼女たちの身元はとりあえず安全になる。


「じゃあ、こっちの娘達をお願い。

 お店で働いているのは確認しているから問題ないわよね?」


 で、差し出される羊皮紙に書かれたリストは、娼館の獣耳族の高級娼婦達一流所が全部書かれていた為に、ガースルが思わず怒鳴り散らす。


「ふざけるんじゃねえ!

 これじゃ仕事にならんだろうが!」


 だが、それを俺は鼻で笑う。

 この手の取引は怒鳴った方が負けである。


「それはこっちの台詞だ。

 身受けできないなら、できないだけの理由を言ってくれ。

 ついでに言うと、今回の支払いはダコン商会から支払わせる。

 アダナの破産しかかった商会の支払いをしたあそこだ。

 それがどういう意味を持っているか、わかんない訳じゃないよな?」


 俺の台詞にガースルが押し黙る。

 街道の山賊の壊滅。

 ダコン商会のアダナの商会の救済と吸収。

 そして、ベルを引き連れてやってきた俺の高級娼婦達の引き取り。

 全てが繋がっていると考えない輩がギルドの幹部なんてやれる訳がない。


「・・・・・・金貨三百枚だ」


「たったそれだけですか。

 安いですね」


 ダコン商会に言い逃れでき、かつぎりぎりまでふっかけたつもりの金額をあっさりと切って捨て、殺意を向けようとするが逆に視線一つでガースルを黙らせるリール金貨千枚なり。


「契約成立だ。

 ダコン商会を使うまでもなかったな。

 この場で払うから、ご確認を」


 俺の一言にベルがとても意地悪そうな笑みで、金貨三百枚をガースルの前に積み上げる。

 ガースルはそれを確認した後で、受け取りの証書と高級娼婦達の首輪を外し俺たちに引き渡した。

 これで短期的には利益が出たが、長期的には高級娼婦の決定的な枯渇でギルドの娼婦部門は長期低迷が約束される事になる。

 そして、奴隷市場でもダークエルフをはじめとした奴隷種は帝国が買いあさっている。

 彼らの回復の目はほとんどない。


「舐めたまねをしやがって。

 覚えていろよ」


 取引終了後、精一杯の捨て台詞を言い放ったガースルにベルが鼻で笑う。


「ええ。

 覚えているわよ。

 あたしの仲間にこんな仕打ちをした事を忘れるものですか。

 これで終わりだと思わない事ね!」


 引き取った高級娼婦は計十二人。

 なお、衣装を含む装飾品はギルドからの貸与品だったので、彼女たちを裸で身請けする羽目にナリ、その足でダコン商会に寄って着る物を見繕う羽目になった。

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