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街道山賊討伐戦 その五

 イッソスとアダナの間を跋扈していた山賊の壊滅は、瞬く間に大ニュースとなってカッパドキア共和国内に広がった。

 山賊討伐は共和国空中騎士団の空中騎士キーツの主導によると発表され、彼はこの功績で百騎長に昇進するそうだ。

 つかまった山賊たちは騎士団に引き渡されて裁判にかけられるというが、彼らのその後はろくなものにならないだろう。

 で、そんなお祭り騒ぎをよそに、俺たちは何をしていたかというと、あとしまつだったりする。

 ゴブリン三百匹、山賊およそ五十人の壊滅。

 その前の類似犯の掃討まで入れたら、ゴブリン三百五十匹、山賊およそ百人という人数が潰された事になる。

 彼らが持っていた品の処分だけでもかなりの財産ができるのだが、これらは実際に働いた冒険者たる俺達に一任されていた。

 金貨にしておよそ二百枚程度。

 これだけの金しか持っていなかったのかと、これだけしか持っていなかったから山賊なんぞに堕ちたかという感想が交互に浮かぶ。

 これらの処分はダゴン商会に一任した。

 で、最大の財宝である地下で陵辱されていた彼女達だが、ダークエルフが八人。

 獣耳族は兎耳娘が三十八人、猫耳娘が十六人、犬耳娘が七人、狐耳娘が四人の合計六十五人。

 人間は十九人で、合計九十二人が俺たちへの報酬として与えられたのである。

 ダークエルフは全員完全に家畜としてしつけられており、従順ではあるが同時に壊れきっている。

 獣耳族で娼婦と言えば真っ先に上がるのがこの兎耳娘で、年中常時発情しており、多産ではあるが同時にそれしかある意味使えないという欠点も持つ。

 で、三十八人の兎耳娘の内十八人が赤ん坊で、ゴブリンと掛け合わされた結果毛色が違うハーフができたいう事実が俺たちを暗澹とさせるが落ち込んでばかりもいられない。 

 猫耳娘はその身のこなしから、シーフ系につく事が多いが、同時に兎耳娘以下だが発情するので娼婦としても働ける。

 ベルが抱きしめたアデナ等はこの猫耳娘だったりする。

 犬耳娘はおそらく護衛として雇われていたらしい。

 まだ筋肉が落ちきっておらず、前衛職だったのだろうと想像できる。

 狐耳族は頭がよく、魔法スキルを多く持っているため、後衛職が多い。

 まぁ、両方とも壊れているので、このあたりの説明はベルやボルマナの受け売りだったりするのだが。

 で、残った人間だが冒険者から村娘から娼婦までここが一番職業が多かったりする。

 ある意味、人間という種の多種多様性を見て取れる。

 もっとも、そんな多種多様性を尊厳ごと踏みにじって、畜産物にまで堕としきったこれらをもらってどうするのかという話だったりするのだが、ベルやボルマナの見立てだと、半分ぐらいがなんとか現実に帰って来れそうで、残りは絶望らしい。


「撫子三角州に持っていきましょう」


と言い出したのは、俺や海軍陸戦隊が途方にくれていた中、冷静だったボルマナだった。


「いやこれをもらっても……」


 これ扱いだがそれを躊躇う事無く、ボルマナが言い放つ。


「彼女たちが生んだ娘達が壊れている訳ではありません」


と。

 たしかに、イッソスの奴隷市場でこの光景とその後の修羅道は覚悟したはずだ。俺は。

 だが、手伝いに来た海軍陸戦隊小隊長にとっては刺激が強すぎるものだったらしい。


「ふざけるな!

 こんな事を君たちは認めるのか!」


 ボルマナは怒らない。

 いや、怒るだけの希望をもてないが正しいのか。

 だから、淡々と事実を陸戦隊小隊長に問いかける。


「では、お尋ねします。

 大日本帝国は、この光景を許さないとして、この世界全てに戦争を吹っかけるのですか?」


 俺も小隊長も答えない。

 答えられる訳が無い。

 大陸での泥沼の戦争はやっと終わったばかりだ。

 そして、崩壊寸前の帝国経済再生には、彼女達ダークエルフの魔法による開発が必須となっているのだから。


「改めてこの光景を見てください。

 我らの主が従った、大日本帝国はこのような事をする為に我らを助けるのですか?」 


「違う!」


 俺も小隊長もそれだけは否定できる。

 できてしまうから、ボルマナのとどめの一言を回避できない。


「では、お願いします。

 どうか良き主として、彼女たちを世話してやってくださいませ。

 その代わり、我が主を含め我らが何でもしますから」


 ああ。そうか。

 この世界は、こうやって彼女たちを扱ってきたのか。

 二人とも腹が立つがそれ以上の怒りの矛先を向けられる場所が無いので不機嫌なまま彼女たちの回収作業が行われる事になった。

 到底数が足りないので、哨戒艇第一号型で待機していた陸戦隊員まで使っての回収作業となった。

 戦車を回収した哨戒艇第一号型に乗せた彼女達を護国丸に運び、代わりに飛行艇母艦秋津洲がイッソス湾から離れてこちらにやってくる。

 九七式飛行艇をここから飛ばして、撫子三角州まで到着するのかという実験の為で航続距離を考えたら無事に到着できる距離のはずだ。

 何か起こったら、連絡が取れて小隊規模の兵を送り込める体制がこれで整う事ができる。

 もちろん、カッパドキア共和国政府を刺激したくないので、お祭り騒ぎで彼らの目がそっちに言っている事を確認し、全部の功績を譲ったキーツの黙認の下で飛行実験は行われている。


「何で、イッソスの拠点に入れなかったんです?」


 撤収準備を整える小隊長が煙草を俺に差し出す。

 それを受け取ってマッチで火をつけると、煙の先で飛び立つ九七式飛行艇がゆっくりと空に消えてゆく。


「イッソスにある盗賊ギルド。

 あれが黒だからだ」


 ベルが幹部争いでガースルと争っていたのは既に報告している。

 で、ベル側の親しい娼婦を処分とばかりに、ゴブリンたちに与えたらしい。

 この時点でゴブリンたちと山賊と盗賊ギルドが繋がってしまう。


「わざわざ船で護国丸に運び込んだのはそれが理由さ。

 彼女達をベルと一緒の俺たちが入手したと知ったら、何をされるか分からん」


 小隊長も煙草を咥えて煙を吐き出す。


「肩入れしているキーツ氏やコンラッド氏に処分を求める事は?」


 俺は肩をすくめてため息をついてみせる。

 その仕草で煙草の灰が地面に落ちるが気にしない。


「盗賊ギルドなんて犯罪組織が黙認されているのに、そのギルド内の権力争いなんぞ好き好んで絡みたくは無いね」


「同感だ……だが……」


 小隊長が煙草を投げ捨てて軍靴で踏み潰す。

 ぽつりと呟いたその言葉に、なんとなく救われた気がした。


「約束、しちまったからなぁ。

 あの娘達を助けるって……」


 俺も小隊長もできることは限られている。

 だが、だからこそ、できる範囲で、手を伸ばして彼女たちを助けようとそう誓った。


「小隊長!

 船を出しますよ!」

「わかった!

 そっちに行く!」


 撤収準備が完了したらしい。

 死傷者なし。

 九五式軽戦車が斧によって小破。

 黒長耳族・獣耳族多数を救出。

 理想的な勝利だろう。

 小隊長が俺に手を差し出し、俺はその手を強く握る。


「お元気で」

「また声をかけてください。

 助けに行きますので」


 秋津洲が離れてゆく。

 イッソスに戻って、その後船団として撫子三角州に向かう事になっている。

 で、残ったのは、馬車一台と俺と女三人。


「ご主人!

 あたしらもイッソスに戻りましょう!」


 なんかベルがいきなり抱きついて、うれしそうに胸を押し付ける。

 妙に色っぽくまたくすぐったいので俺は咥えていた煙草を落とし叫ぶ。


「そんなにひっつくな!

 てめぇ、さては聞いていたな!」


 俺の一言で、実にわざとらしく口笛を吹くベル。

 ばればれだ。


「安心してください。ご主人様。

 盗賊ギルドの一つや二つや三つや四つ。

 私にかかればぜんぶ切り捨てて見せます」


 真顔で決め台詞を言っているが、わっさわっさと揺れる尻尾が全部台無しである。リールよ。

 で、ボルマナはというと、ただ静かに頭を下げた。

 その無言の感謝を俺だけでも裏切らないようにと心に誓う。

 それを言うのは恥ずかしいので、少し大きな声でいつもの言葉になった台詞を口にした。


「じゃあ、イッソスに帰るか」


と。

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