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街道山賊討伐戦 その三

 アダナ到着後、まず俺たちがしたのはリールの首輪の交換だった。


「これで正式にご主人様のものとなりました。

 よろしくお願いします」


 真新しい首輪をつけて一礼するリールに俺は手で誤解を解いておく。


「ちょっと違う。

 俺はお前のご主人様じゃない」


 首をかしげるリールに、俺はそのまま続ける。


「お前を買ったのは、国さ。

 俺は、その国からの命を受けて、お前を使っているに過ぎない」


 きょとんとしたリールだが、すぐ戻って一言。


「という事は、ご主人様ではないのですか?

 私を買ったのに?」


「……とりあえず、今は俺がご主人様だ」


「改めて、よろしくお願いします。

 ご主人様」


 優雅に礼をした後で、隣に居るベルにガンつけてやがる。

 で、ベルも負け時と睨み返しているあたり、犬猫の喧嘩が勃発しないように気をつけておこう。

 そういえば、俺の回りに居る三人は皆、俺との馴れ初めが違っていたりする。

 絨毯強奪の代金にと竜神様から与えられたボルマナ。

 国の方針から保護対象かつ戦力として購入したリール。

 酒場の一幕で買ったベル。


「で、ご主人。

 この後どうするつもり?」 


 聞いてきたベルを見ると尻尾が揺れている。

 仕事が終わったから宿でしっぽりなんて考えが漏れているのを俺はばっさりと切り捨てる。


「とんぼ返りで宿場に戻るぞ」


「えー」

「そうですか……」


 ベルは分かるが、どうして尻尾と耳がたれてしょぼーんとする。リール。

 念のために俺は二人に念を押しておく。


「分かっているが、俺たちは仕事の為に来ているんだからな」


「もちろんです。

 山賊もゴブリンも私の剣で全て切り捨てます」


 うん。リールは分かっていなかった。


「もちろんだって。

 考えるのはご主人の仕事。

 ご主人を癒すのはあたしの仕事」


 ベルは最初から考えても居なかった。


「ご主人様。

 この野良猫の癒しもどきよりも最上級の快楽で今夜から御奉仕いたしますわ」

「なんか言っているわね。野良犬」


 あ、また発火した。


「ボルマナ。

 頼む」


 頭を抱えながら三人の姦しい騒ぎを尻目に俺たちは馬車に戻ったのだった。



 宿場に到着して一泊した俺たちは、そのまま山賊やゴブリンの情報収集に勤しむ。

 既に、一つ先の宿場には海軍陸戦隊の戦車と小隊が滞在しており、挟み撃ちの状況は整っている。

 で、ここで山賊たちに篭られたら困るので、俺がやつらの尻に火をつける訳だ。


「いるいる。

 見張りのゴブリンが二匹」


 馬車をおいて草むらを隠れながら歩くこと少し。

 街道から離れた小高い丘の一つに掘られた横穴が、ゴブリンの巣穴の一つだった。

 他にも出口があるかもしれないが、見張りがいるという事はここが主要な出入り口である事を示している。

 俺は持ってきた三八式歩兵銃をかまえて、弾が装填されているのを確認すると、入り口の見張りのゴブリンの頭に狙いを付け発砲した。

 乾いた発砲音と共にゴブリンの額に小さな穴が開き、後頭部から赤いものを噴き出しその場に倒れる。

 隣にいたゴブリンは何でゴブリンが殺されたのか分かる暇もなく、俺の二発目の発砲によって先に倒れたゴブリンと同じ死体になる。


「よし。

 近づくぞ!」


 俺が駆けると、ベルとリールが先に飛び出し、ボルマナが俺の後ろを警戒する。

 入り口の異変に気づいたゴブリンの喉にベルの投げナイフが刺さり、三匹目が死体に変わる。

 リールが盾を構えて入り口に向けて周囲を警戒する。


「ご主人!

 足音がこっちに近づいてくるよ!」


 ベルの叫び声に俺は発煙筒を投げ込む。

 湧き出る煙をボルマナの風の魔法で洞窟の奥に染み渡らせてゆく。

 意味が分からない叫び声が洞窟の奥から聞こえるが、その叫びぶりから混乱しているのだろう。


「よし。

 仕事は終わりだ!

 引き上げるぞ!」


 俺たちの背後で、発煙筒の煙が三つほど空に上ってゆくのが見える。

 やっぱり他の出口もあったか。


「ご主人様。

 ここでゴブリンを潰してしまえば良かったのでは?」


 宿場に到着して、追っ手がない事を確認したリールが俺に質問を投げかける。

 しっぽを見ると、あれぐらい私一人で潰せるのにと主張しているが、それを見ないふりをしてリールに返事をする。


「商隊が襲われることに意味があるんだ。

 ああいう形で挑発した以上、ゴブリンたちも出てこざるを得ない。

 そして、ゴブリンに罪をなすりつけられなくなったら山賊も困るから、山賊も出張らざるを得ない」


「山賊も潰してしまえばいいじゃないですか」


 うん。

 短い付き合いだが、リールはこんなやつだとなんとなく分かってきた。

 それには答えずに、今度はベルに声をかけた。


「ベル。

 多分宿場の連中に山賊と繋がっているやつがいる」

「見つけ出して殺せばいいの?」


 さすが元盗賊。

 言うことにためらいがない。


「殺してどうする。

 殺すのは明日まとめてだ」


「あまり二人と変わらないような気が……」


 ぼそっとボルマナが呟いたが、俺は聞こえないふりをする。


「明日の商隊の出発時間を早めに教えてやれ。

 商隊が出てくる前にけりをつける」


 追い込まれた敵が、待ち構えているこちらに突撃をかけるという光景を考えて、思わず俺は呟いた。


「なんだ。

 長篠の戦いじゃないか」


 人間あまり進歩はしていないらしい。

 そして、翌日はそのとおりになった。



 早朝、俺たちの馬車は商隊の前に宿場を出る。

 しばらくして、早くも轟音が街道の先から聞こえてくる。


「リール。

 先に行け!

 こっちくる山賊とゴブリンは任せた!」


「ご主人様!心得た!」


 言うが早いかリールがものすごい勢いで駆けてゆく。

 俺はボルマナに馬車を預けて、馬車からあるものを取り出して、リールのあとを走る。


「ご主人!

 凄いけどなにそれ!?」

「自転車ってんだ!」


 それに余裕でついてくるベルも結構化け物だと思うのだが、ぶっちぎって先を進んでいる重装備のリールは言うまでもない。

 更に轟音が轟き、何か軽快な音が連続して轟き続ける。


「ご主人!

 あの鉄のでかいのが火を噴いてる!」 


 戦場に到着した俺たちの前には待ち伏せにもってこいな小高い丘があり、その途中に九五式軽戦車が鎮座しており、左右に海軍陸戦隊の歩兵小隊が展開。

 九二式重機関銃――海軍名称は九二式重機銃――でゴブリン達に対し狙撃し続けている。

 発射速度が遅い九二式ならではの運用だ。

 ゴブリンの群れに爆発が生じて、ゴブリンが四肢を吹き飛ばして宙を舞う。

 丘の上に八九式重擲弾筒が置かれているのだろう。

 ゴブリンの数はざっと見て中隊規模だろうか。

 既に三分の一ほど地面に伏せて動かなくなっているが、戦意は衰えていない。

 きっと彼らからすると九五式軽戦車は魔法を使う大猪ぐらいの認識なのかもしれない。


「ご主人!

 あの草むらに何かいる!」


「待った!

 誰だ!」


 草むらから出てきたのは海軍陸戦隊の小隊から派遣された分隊で、指揮官が俺に向けて敬礼したので敬礼し返す。


「ご苦労様です。

 状況は?」

「順調に潰している所ですが、予想していた山賊が見えません」

「ベル」

「了解。ご主人」


 俺の一声でベルが周囲の哨戒に駆ける。

 ゴブリンに全部押し付けて隠れたか?

 それとも、陽動に気づいて、商隊の本隊を叩くつもりか?

 どっちにせよこのゴブリンを片付けないと話にならない。


「こっちからも攻撃を開始してください。

 リール。

 敵の退路を塞げ。

 あの弾幕には突っ込むなよ」


「かしこまりました」


 重武装の白銀のメイドが高速で退路を塞ぎにかかると、既に半分以上血の海に倒れていたゴブリンたちが敗走を始める。

 だが、退路にはリールと俺たちがいる。


「射撃始め!」 


 分隊長の声と共に射撃が始まり、ゴブリンたちは完全に包囲された。

 結果、背後の敵より前の九五式軽戦車に向けてゴブリンの勇者達が突撃し、その火線に捕らえられて次々と倒れてゆく。

 動いているゴブリンが完全に居なくなったのを確認したのは、それから十五分後の事だった。

 馬車でやってきたボルマナも周囲に山賊がいなくて戻ってきたベルも、存分に暴れる事ができずに耳と尻尾がしょぼーんとしてるリールも何もこの光景に言葉を発する事ができない。

 一方、俺は小隊長に呼ばれて九五式軽戦車の前にやってくる。

 その理由が、九五式軽戦車の正面に突き刺さっている斧だった。

 最後の突撃をしてきたゴブリンの勇者による意地の斧の投擲が、この結果である。


「おい。

 外して見ろ」 

「はっ」


 小隊長の声に、戦車兵が装甲板に突き刺さったままの斧を取り外すと、割れ目から中がくっきりと見える。

 刺さり具合と深さから考えた場合、運が悪ければ乗員が死傷していた可能性も十分に考えられた。


「……報告しないといけないでしょうな」

「噂ですが、米国は国民党にこれ以上の戦車をレンドリースで送ったとか。

 早急に対策を考えねばいけません」


 この報告は、緊縮財政下の陸軍をも動かし、陸軍はこちらにもってくる戦車についても「斧あるいはそれに類する打撃武器に貫通されない事」が付加される事になる。

少しだけ加筆・修正。

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