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街道山賊討伐戦 その二

 アダナへの護衛任務が終って一週間後。

 第三次異世界派遣船団が到着する。

 中央に居るのは護国丸で、その周囲を第十二駆逐隊の駆逐艦三隻(叢雲、東雲、白雲)が取り囲んでいる。

 今回は測量船筑紫はきていない変わりに、飛行艇母艦秋津洲が九七式飛行艇を乗せてやってきている。

 俺がイッソスで屋敷を買わなければ、この飛行艇で運ぶつもりだったらしい。

 水上機母艦日進とこいつで、こちらの世界の航空機運営を賄うそうだ。

 次の船からは陸軍の部隊もやってきて、大森林地帯のはしにある三角州--竜神様の名前から撫子三角州と名づけられた--で本格的な駐屯が行われるらしい。


「さてと、行くか」


 俺は到着を確認して馬車を郊外に走らせる。

 今回の船団のある意味目玉は、イッソス郊外に着いてるのだから。


「おー。

 きてるきてる」


 俺の暢気な台詞と異なって、目が点になっているベルとリール。

 ボルマナはこっちを知っているだけに、ある意味あきらめたというか驚きをとりあえず隠したか。


「ご、ご、ご主人!

 何ですか!あれは!?」


 俺を揺さぶって質問を迫るベルに、表面上静かに見えるが尻尾がばりばりの戦闘態勢に入っているリール。

 そりゃ、鉄の塊が後ろから煙を吐いてこっちにやって来れば驚くに決まっている。

 山賊退治の切り札がこれだった。

 沖にいる船が哨戒艇第一号型。

 そこから降ろされた大発から出てきたのは、九五式軽戦車。

 今回はこの戦車と付随する一個小隊で山賊達を討伐するのだ。


「小隊整列!

 神堂陸軍大尉に敬礼!」


 整列した海軍陸戦隊の小隊の敬礼を受けて俺も敬礼を返す。

 そのしぐさに完全においてきぼりのベルとリール。

 小隊長が俺を掴んで固まっているベルと、警戒し続けているリールに苦笑しながら挨拶する。


「今回の作戦で神堂大尉の指導を受けるよう申し渡されております。

 どうか、よろしくお願いします」


「主役はそちらです。

 こちらこそよろしくお願いします。

 これが、周囲の地図および周辺情報です」


 一週間の間、ひたすら馬車で周囲を駆け回ったのはこの為だったりする。

 その途中、大兎を狩ってそこそこの収入を得たりしたが横においておく。


「山賊達の目撃が一番多いのがここ。

 イッソスとアダナの中間地点で、宿場からも適度に離れている草原地帯です。

 どうも地下に洞窟があるらしく、彼らはそこに篭っていると踏んでいます」


 地図を指さしながら俺は状況を説明し、小隊長も地図を見つつ俺に質問を振る。


「どうやって、奴らをおびき寄せますか?」


「自分達が周囲の山賊等を討伐した結果、街道の治安が改善しました。

 今日、アダナに向けて大規模な商隊が出る事が決まっています。

 奴らはそれを見逃さないでしょう」


 なお、その商隊はダゴン商会で、俺がリールと別荘を購入した商家を吸収してアダナへの販路を拡大するそうだ。


「自分達はアダナの商隊について行きます。

 待ち伏せに適した場所は地図に書いておきましたので、後は相互に連絡を取って臨機応変に動きましょう」


「連絡の為、通信機をお渡しします。

 この作戦の間、あの船は滞在する事になっているので、こちらが通信に出なかったらそちらに連絡してください。

 万一に備えて、二個小隊があの船の中で待機しています」


 実は、あの船は中隊規模の兵員を持ってこれるのだが、それは政治的理由で避けたという裏話がある。

 大規模派兵に傾いていた海軍陸戦隊に、


「あなた方、生麦事件を起こしたいのですか?」


 と冷や水を浴びせたのが内海審議官。

 黒船から約一世紀。

 やっと列強の気持ちが理解できたと苦笑したのを覚えている。

 とはいえ、大規模商隊が襲われる規模の数はいるのでと協議した結果が、戦車一両と一個小隊である。

 しかも、俺が商隊の護衛任務につき、空中騎士キーツ経由でコンラッド氏からの了解も取り付け、イッソスの町を我が物顔で歩かないように郊外の砂浜を見つけてこっちで降ろしているという気の使い振りである。

 帝国にとって黒船来寇のトラウマが、いかに大きかったか分かろうというものだろう。

 何しろ、帝国はやっと戦争が終わったばかりで、疲弊した戦争の傷を癒す時間を欲していたのだった。

 こちらで戦争なんてやる国力は今の帝国にはまったく残っていない。

 ただでさえ、さっき聞いた話では満ソ国境全域でソ連軍が無線封鎖を実施して、帝国が警戒態勢に入っていると聞いたばかりだ。

 内海審議官は、政府中枢の言葉で、偶発的軍事衝突を起こすつもりは無いと言っていた。

 ふと、ヴァハ特務大尉と片桐少尉の事が頭に浮かぶ。

 双方無事でいてくれとなんとなく思った。

 そうでないとマダムが悲しむ。


「ご主人。

 今、女の事考えたでしょう?」


 打ち合わせから戻った俺が浴びたベルの第一声である。

 何で気づいたんだろうと考えていたらそれも読まれていたらしく、背中に胸を押し付けて楽しそうに笑って見せた。


「女の勘は鋭いんだから」



「ご主人って十騎長待遇って名乗っていたけど、本当にそうだったのね」


 その日の夜。

 アダナへの向かう宿場宿でのベルの一言に俺は苦笑する。


「お前は俺をどう見ていたんだ?」


 俺の上でむくりと起き上がったベルはここで腕を組んで考える。

 なお、ボルマナは湯あみに行き、まだ首輪が変わっていないリールは別室でお休み中。

 尻尾がすごく発情していたのは見ない事にしているが、ここでベルが露骨に挑発するから凄い事に。

 犬猫はそりゃ、仲悪いか。


「冒険者じゃないけど商人でもない。

 ましてや騎士って柄じゃまったくなかったし」


「覚えておけ。ベル。

 俺達みたいな連中を、軍人って言うんだ」


「軍人……ねぇ……」


 ベルのぼんやりとした声に、宿場の馬鹿騒ぎの声が壁越しに聞こえてくる。

 久しぶりの大規模商隊だから、宿場も賑わっているのだろう。

 ボルマナが湯浴みから戻り、髪を乾かしながら部屋に戻ってくる。


「ボルマナ。

 やつらが襲ってくるとしたらいつだと思う?」


 風の魔法で髪を乾かすボルマナが顎に手を置いて答えた。


「行きは襲わないでしょう。

 小麦が狙いならば、帰りに襲おうとするはずです」


 こちらの商隊の出発は既に知られていると見るべきだ。

 アダナまで三日、積み込み一日、帰りも三日で襲撃予想地点を小麦を積んだ商隊が通過するのは六日後。

 周囲の確認と警戒はしておくに越した事はない。


「そういえば、一つ気になったことがあるのよ」


 思い出したように呟くベルに俺とボルマナの視線が集まる。


「山賊とゴブリンが両方襲ってきていたでしょ?

 この二つって基本的に連携は取らないはずなのよね」


 先の護衛の帰りも、リールが無双してくれたので気にしなかったが、たしかに山賊とゴブリンは別々に動いていた。

 それがどうしたと言おうとした俺の口を封じるように、ベルは言葉を発する。


「けどさ、このあたりで隠れるのは、地下しか無い訳よ。

 で、ゴブリンの庭である地下の洞窟に、山賊たちが長く隠れ家を作れると思う?」


 ベルの言葉に俺もボルマナも黙り込む。

 この付近の洞窟は、古の大崩壊時にイッソスに落ちたと言われる星が降る前の大都市の地下街の名残だという。

 その為、いまや誰も把握していないその地下洞窟の殆どは、蟲やモンスターの巣窟となっている。

 そこに、長期的な拠点を作る事が可能かというベルの問いかけは、ある一定の説得力を持っていたのだった。


「ボルマナ。

 同時に襲ってくるとしたら、どれぐらいの数になりそうだ?」


 俺の質問に、ボルマナが少し考えて答える。


「ゴブリンの巣は、大体数十から百匹前後で一族を形成しています。

 前回の襲撃が全力とは思えず、彼らの巣も一つとは限りません。

 山賊のほうも大規模商隊を潰したという事は、数十人もしくはリール程度の剛の者がいる見るべきでしょう」


 ため息をついて俺は海軍陸戦隊に連絡をとる事にした。

 やつらを確実に潰すためにもう少し手を打つ必要が出てきたからだ。


「ご主人。

 凄く悪い笑みを浮かべているけど?」


 ベルの指摘に、慌てて俺は顔を元に戻した。

 商隊には戦車一両と一個小隊しか見せない。

 そこは変えるつもりはない。


「いやさ、ばれないならば問題はないなと思ってな」

八九式中戦車を九五式軽戦車に修正

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