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報国丸食堂にて

 結局俺たちは報国丸に一泊する事になった。

 で、朝食後に内海審議官の了解を得て、幾許かの物資をもらう。


「はい。

 砂糖と塩と胡椒」


 食堂にてまず押さえたのがこれで、この袋が金貨に化けるのだから大事に背嚢にしまう。

 そして、報国丸で食事を取った事で里心がついた俺は更に二つのものを頼む。


「米と缶詰もお願いします」


 やはり米はどうしても食べたくなるものだ。

 で、ついでとばかりに缶詰も幾ばくかもらう。


「そこまでもらうのなら、携帯口糧も持っていったらどうです?」


 後ろから声が聞こえたので振り向くと、乗り込んでいた海軍陸戦隊員達だった。

 こっちに残っている俺の事情は知っているらしく、彼らに地下水道の一件を話すとその冒険譚に食堂が大いに賑わう事に。

 大森林地帯の駐屯地に駐在する予定の彼らは、何があるか分からないからかなり良い装備を持ってきている。

 そして、俺が戦った大鼠やスライム、戦わなかったごきぶりなどと彼らも戦う事があるから彼らも真剣だ。

 ベルのごきぶりとの実戦経験が大いに盛り上がったところで、陸戦隊将校が声をかけた。


「地下水道の制圧か。

 誰かいい案はあるか?」


 陸戦隊員達はしばらく話し込んで、下士官の一人が手を上げて答える。


「火炎放射器なんかはどうでしょうか?

 大陸でのゲリラ相手に効果があったと聞きます」


 それを聞いて俺が考え込む。

 火炎放射器はかさばるのだ。

 俺の考えを読んだのだろう。

 提案してきた下士官がにやりと笑って、その解決策を口にする。


「荷物は黒長耳族の石人形に持たせてしまえばよろしいかと。

 そうすれば、大尉殿が火炎放射器を扱えます」 


 その手があったか。

 聞くと、海軍陸戦隊は竜神様の大陸お披露目の件で黒長耳族と共に戦闘をしているから、その手の経験が豊富という事らしい。


「戦闘をさせない荷物持ちで石人形を使うならば、一日は持たせて見せます」


というボルマナの言葉に、火炎放射器の採用が決定する。

 もっとも、しばらくは潜る予定はないのだが。


「決まりだな。

 次に来る船に火炎放射器の要望を出しておこう」


 俺がメモを取ろうとすると、陸戦隊将校が手で制して口を開いた。


「いや、必要ならばうちが持ってきた九三式小火焔発射機を一式譲渡しても構わない。

 その代わりに、一つ持っていてもらいたいものがある」


 何かを得るならば、何がしらの下心がある訳で。

 身構えていた俺に、将校は持っていってほしい品物を手渡した。


「これは……鏡か?」

「『遠見の鏡』というこちらの世界の通信器みたいなものだ。

 声だけでなく姿も映せる優れものだが、双方魔法使用者がいないと使えない、専用魔方陣を造りその中で術を使わないといけない、それぞれの鏡を対にして登録しなければならないなどいくつか問題がある。

 だが、そちらにも黒長耳族がいるならば、問題は解決できる。

 これで情報交換ができるようにしておきたい」


 鏡を机に置いて俺は口を開く。


「構わないが、俺とてここに来てまだ一月も経っていない。

 役に立てるとは思わんでくれ」 


「だが、大尉はイッソスという街の中に居る。

 ならば、何かあった時に尋ねる人間が要るのは大きい。

 正直、情報はいくらあっても困らんのだ」


 獣耳族保護のきっかけは、大森林地帯に彼女達が逃れてきたからなのだが、元々彼女達が住んでいた森--緑壁の森というらしい--がロムルス国家連合とカルタヘナ王国の戦場になっているからで、そのあたりの情報を仕入れてこいという事なのだろう。


「わかった。

 酒場でそれとなく尋ねておこう」

「他に欲しい装備はあるか?」


 向こうの言葉に俺は今後の話をする。

 地下水道はしばらく潜らないので地上での仕事になる事を。

 そして、その為に仕事はいくつか先に見つけていた。


「アダナという町への隊商の護衛か、近隣の山賊退治。

 イッソスで狩りをするならば大兎を狙うつもりだが、大猪・大狼あたりも出る事を想定しておきたい」


 このあたりの動物は汚染マナで凶暴化したもので、装備を整えて徒党を組んで仕留めるのが一般的になっている。

 イッソスの庶民街以上での主食がこれで、切り分ける必要があるが、大兎で銀貨三十枚、大猪で銀貨五十枚。

 それらを捕食する大狼は討伐対象で肉はうまくないが皮が重宝されて金貨一枚にもなるという。

 もちろん、高いという事はそれだけリスクがあるという事で、大猪は自動車並みの大きさで突進してくるし、大狼は群れで狩りをするから確実に複数戦になる。

 巨大化生物についてボルマナやベルの説明を聞いていた陸戦隊員の顔が見る見ると青ざめる。


「戦車が突っ込んでくるのか……塹壕や鉄条網で動きを封じられるか?」

「こちらで待ち構えるならばありだろうが、狩りをする場合厄介だぞ」

「遠距離から仕留めるしかないだろうが、その大きさだと銃弾で効果があるのか疑問だな」

「対戦車ライフルが必要かもしれんな」


 陸戦隊員の活発な議論を横に俺は陸戦隊将校に欲しいものを告げた。


「小銃をもらえるか?

 最初は弾が手に入らないものと考えて、そのあたりを持っていかなかったので」

「三八式歩兵銃でいいのなら、弾薬盒ごと用意させよう。

 という事は、護衛の仕事を受けるつもりか」


 陸戦隊将校は俺の狙いが分かったらしい。

 俺はにやりと笑って、その狙いを告げた。


「ああ。

 護衛がいるという事は、襲ってくる連中が居るという事だ。

 狼や猪はこちらが群れている場合、手を出してこない。

 それでも狙ってくる馬鹿と言ったら、人間しか居ないだろう?」



「これは友からの頼みなのだが……」


 報国丸から出るガレー船の中で、迎えに来たキーツが唐突に口を開く。

 何だろうと身構えていると、出てきた言葉は予想外のものだった。


「コンラッドが貴公より何か袋を渡して取引したと聞いている。

 そのコンラッドがまた同じものを所望しているのだ」


 あ。

 俺への監視だけでなく、俺がもってくる砂糖と塩が狙いだったか。この人。


「たしか、渡したものと同じ物が今回の荷の中にあったと思うのですが、そちらから購入されては?」

「そちらも買っているらしいが、足りんのだ」


 上質の砂糖と塩を使った料理はコンラッドを虜にし、それを目玉にした料理を貴族の夜会でふるまった結果、大絶賛を受けたという。

 で、そこで砂糖と塩が尽きてしまったという。

 貴族が集まる夜会なんて使うから、そりゃあっという間に尽きるのだろう。それは仕方ない。

 だが、あの味あの味覚は食べた以上もう一度味わいたいと思うのはある意味仕方がない事で、

 ダゴン商会に一括で卸してしまった結果、その味を味わった他の貴族と競り合わないといけないという状況になってしまったのである。

 そこで、もし俺がまた砂糖と塩を持ってくるのならば、速攻で買い上げるつもりで友人である彼を送り出したという事らしい。

 恐るべし。食欲。

 もちろん俺にも依存はない。


「構いませんよ。

 ならば、宿の食堂でこれを使った簡単な料理を披露しますよ」 


 その後、ペガサスで飛んできたコンラッドを交えて、肉料理に胡椒をかけるという一手間で胡椒の価値を二人に認めさせ、俺が持ってきた袋はめでたく金貨三百枚に化けたという。

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