表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝国士官冒険者となりて異世界を歩く  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
俺が大陸から異世界に流れる事までの話
2/82

昭和十七年一月十八日 大陸戦線

「相手のペースでゲームが進み、こっちはチップはあと少し。

 さて、どういかさまをする?」

「簡単なことじゃ。

 相手にテーブルを投げつけてチップを返してもらうのじゃ」


 ――博打打ちと馬鹿竜の会話より――



 世界に竜というものが現れようが、欧州で凄残な殺し合いが繰り広げられていようとも、日常というのはそう簡単に変わるものではない。

 襲ってくる匪賊を撃退し、その匪賊襲撃を待つ日々を俺と俺の小隊は送っていたのだが、その日常が変わり出したのは、やはり竜というもののおかげだろう。

 それを始めて見たのは、匪賊襲撃の最中だった。

 馬に乗って襲ってくる彼らから散発的に銃声が響き、それが土壁の廃屋に鈍い音を立てて当たる。

 その音を中から聞くというのは決して心地よい物ではなかった。

 窓から拳銃を突き出してとりあえず弾を撃つ。

 撃たれたままでは今度は近づいて手投弾でも投げられたら終わりだからだ。

 悲鳴と共に何か倒れる音が聞こえた。

 おそらく俺の撃った弾で、手投弾を投げようとした匪賊の一人にでも当たったのだろう。


「少尉殿!

 こりゃ、やばいかもしれませんぜ!」


 隣で壁にもたれたまま片桐軍曹が怒鳴る。

 大声で怒鳴らないと銃声で何を言っているのか分からないからだ。

 彼はこの戦闘で俺をかばって最初に撃たれたのだが、まだ怒鳴るだけの気力があるなら大丈夫だろう。

 この廃屋にいるのは俺と軍曹に兵士二十人の計二十二人。

 既に七人は黄泉路に旅立っており、俺を含めた残りはこうして応戦に手一杯。

 匪賊の数は百人前後。

 残りの部下も篭って応戦しているみたいだが、数に押されて匪賊の思うがままに攻撃を受けていた。


「畜生!

 増援はどうした!」


 拳銃を撃ちながら俺は怒鳴る。

 匪賊討伐は俺の小隊だけに与えられた任務ではなく、いくつかの部隊にも命令が下っている。

 ここでの篭城が長引けば、いずれ他の隊が助けに来てくれるだろう。

 かちりと拳銃から聞きたくない音がした。

 弾が切れたのだ。

 舌打ちして拳銃を床に置く。いざとなれば軍刀で突撃という手もとらねばならない。

 まだ、弾切れは俺だけみたいだし、死んだ兵や撃てない軍曹の小銃を使うという手段もあるが、それとて時間の問題だった。

 ため息をつく。

 士官たるもの冷静に戦局を見極めよとは士官学校で習った事だが、現実はどうだ?

 飛び交う銃弾と轟音に怒鳴っても聞こえない命令。

 そして理不尽かつ突然に訪れる死。

 俺がこの大陸で何度も経験した実戦だった。

 生きるにせよ、死ぬにせよこのままではジリ貧だ。

 ならば、兵が残っているうちに突撃できたらどれだけ楽だろう?

 味方を待つか?突撃するか?

 俺の命令が俺を含めた小隊の命を決めるだけに、考えがまとまらなかった。


「少尉殿。

 銃声が止みましたぜ」 


 その事に気づいたのはこの中で最も戦場経験が長く、俺以上に冷静だった片桐軍曹だった。


「何が起こったんだ?」


 唐突に止まった銃火をいぶかしみながら恐る恐る窓に手鏡を差し出す。

 鏡越しの白銀の世界には、馬に乗った匪賊らしき奴等が銃を捨てて逃げ出しているのが見える。


「増援が来たらしい。

 やつら逃げ出しているぞ!」


 俺の声に兵達が安堵したり、歓声をあげる。

 匪賊が隠れていないか注意深く様子を見ながら、俺達は立て篭もっていた廃屋から出た。


「少尉殿!

 あれを……」 


 兵士に肩をかつがれて出てきた片桐軍曹が一点を指差して絶句する。

 そこには石の巨人が地響きを立てて、味方の兵士と共に匪賊達を追いかけていた。


「な、何だ……あれは……」


 俺の呟きも自然と小さくなり、その石の巨体に圧倒された。


(負傷者はいませんか?)


 その声に皆が視線を向けると、俺達と同じ軍服を着た女兵士がこっちに駆け寄ってくる。

 褐色の肌は南国の人間ではないかと思うのだが、北風に靡く銀色の髪と妙に耳が長く尖っているのが特徴的だった。

 後で知ったことだが、彼女達は名前を長耳族と言い、長耳族内部にもダークエルフと呼ばれる黒長耳族とエルフと呼ばれる白長耳族という種族に分かれるらしい。

 そして、竜達がいた世界では黒長耳族が迫害されているという。

 この違いは契約樹を持つかどうかで、契約樹という樹と契約しその樹より魔力を得る代わりにその樹を含む森林一帯を守護するのがエルフ。

 契約樹を持たぬ、あるいは失って魔力が己の固体のみだけで迫害されているのがダークエルフだ。

 それで、ダークエルフの多くは森を失ってダークエルフになったので迫害されているという。


「こっちで片桐軍曹が撃たれた。

 他に負傷者はいるか?」


 女兵士を軍曹の所に連れて行くと同時に大声を出して、負傷者の確認を兵達に命じる。


(弾は貫通していますね。良かった)


 今気づいたのだが、どうしてこの女兵士は口を閉じているのに、こんなにはっきりと声が聞こえるのだろうか?

 そんな疑問すら吹き飛ばす奇跡が俺の目の前で始まった。

 優しい暖かな光が彼女の手から溢れ、その光に当てられた片桐軍曹の傷口がみるみる塞がってゆく。

 俺も軍曹も見ていた俺の小隊全員がその奇跡に目を奪われていた。

 長耳族に男は存在せず、迫害されている黒長耳族は『娼婦=ダークエルフ』とまで言われているという。

 そんな妖艶な彼女が皆に向けて終わったと妖艶に微笑む。


(奇跡じゃありませんよ) 


 彼女の声が頭に響く。

 塞がっただけでなく、跡形も残らない傷跡を塞いだその光を消して彼女は笑った。


(魔法です)


 それが、俺が異世界へと関わる最初のきっかけだった。

 ここではエルフについて説明します。

 長耳族エルフは竜のいた世界ではこんな感じです。


 エルフは竜の眷属で、大地と種の管理・維持を目的としています。

 その為、種の固体管理の必要上全て女性で構成され、どのような大地の種とも交配して子孫を残す事ができます。(ちなみにこれは竜もできます)

 エルフの出産時女性はエルフとして、男性は旦那種として生まれ、種の再生としてエルフが変身魔法を使いその種の女性(その時の出産ではエルフではなく女性種)となって種が再生されるというおとぎ話がこの世界では多く残っています。

 エルフは大地の調停者として自然界のバランスを取る事が使命と考えている種族で金髪色白です。

 その生活形態は母系氏族制で、世界樹と呼ばれる契約樹から魔力を受け、世界樹を中心とした森で生活しあまり人間の世界に出ようとはしません。

 竜のいた世界は彼女達エルフが魔力と自然のバランスを保とうと努力してきましたが、人間達の人口拡大と魔力技術開発によって森が開発されてゆき、エルフと人間達がいがみ合っていきます。

 その結果500年ほど前にエルフと人間諸国家群が戦端を開き、『大崩壊』と呼ばれる魔力の世界規模での暴走が発生。

 人類文明は大きく退化し、残ったエルフ達も自分たちの森の維持だけで精一杯でとても世界の再生などおぼつかない状況です。

 ダークエルフというのはこの大崩壊の戦争で森を焼かれたエルフ達の末裔で、森を失い魔力供給ができずに肌が茶褐色で銀髪になっているのでその名前がつけられました。

 『大崩壊』後の興亡で人類国家群はその責任をエルフに押し付け、特に流浪の民となったダークエルフは徹底的な迫害・弾圧を受けました。

 その美貌と人間以上の魔力ゆえ彼女達を娼婦やスパイ等に使う国は多く、それでも彼女たちの社会的地位の向上は聞いた事が無いのが実情です。

 また、エルフ、ダークエルフには上位種が存在します。

 森の拡大によって強大化した魔力を使い、世界樹と一体化した緑髪ハイエルフの事をドライアドと呼び世界のエルフ社会の頂点に君臨しています。

 ダークエルフの方は生物(人間)の精力から強大な魔力を作り出す黒髪ダークエルフが現れ、彼女達はサキュバスと呼ばれるようになりダークエルフ社会の頂点に君臨しています。

 現在竜がいた世界はドライアドは数人、サキュバスは十数人いると言われており、そういう面からもエルフという種が人間によって退潮してきている証拠だろうといわれています。


 ハーフエルフの存在ですが、初期設定では存在しませんでした。

 ですが、種族間和解ができなくなるという友人の意見から、こちらでは解禁する予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ