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来訪者-2

「まず、先に話しておかなければならないことがある。あなたは人を殺したことがある。それも何人もだ」

 すんなりと耳に入ってきた低く重い声が私の心に突き刺さった。常日頃から感情を表に出さないように保っていたがその思わぬ言葉に反応してしまった。私の顔は驚きを隠しきれずにバカ丸出しだっただろう。殺人に関しては誰にもバレない自信があった。なのにこの黒人は知っている。まずは心を落ち着けるのにはすごくパワーが必要で、脂汗がにじみ出てくるのがよくわかった。それでもなんとか、すぐに平静を保つことができた。そしてこの黒人も殺さなければならないと覚悟した。


「いきなり本心を付いて申し訳ないが、身構えなくても大丈夫だ。それにワタシを殺すことは不可能だ。無駄なことはしないで、その力を他のことに利用するべきだと忠告しておこう。わかってもらえるかな? では、真実を教えよう。あなたが犯罪者であり、いくつもの命を奪ってきたことはワタシしか知らない。ワタシ以外は知らない真実だ。今まで殺してきた人間を燃やしたり、海に捨てたり、谷底に落としたりしているが、死体は見つかっていない。これはすごいことだ。普通の犯罪者ならば死体遺棄の間に数々の証拠を残し、すぐに捕まる。それに指名手配をされたり、警察が怖くなったり、他にも犯罪を犯したことに耐えきれなくなり自首する場合もある。


「しかし、あなたの完全犯罪ぶりには正直に言ってワタシは驚いている。用意周到という言葉だけでは表しきれない。その大胆ながらも的確な行動は称賛する。保証しよう、今までのように計画的な殺人ならばあなたは捕まらない。絶対に捕まらない。だから好きなだけ女性の髪の毛を剥ぎ取り続けるといい」

 この黒人は殺人現場、もしくは殺害時を見てきたかのように語っていた。彼の口から発せられる言葉に私の心臓はぐっと握りしめられていた。殺人がバレたからではなく、何もかもが見透かされているからだ。初めて会ったのに核心を突いてくる。なぜ、知っているのか。私はそう聞きたかった、だが、私の口から言葉が出ることはなかった。なぜか一言も出すことができなかった。空気を喉に押し込まれているかのような感覚、この空気中で溺れているような感覚に陥っていたからだ。


「あなたが切り取った頭部を撫でて優越感に浸っているのも知っている。いや、頭部ではないな、頭皮というのが正しいか。だが、なぜ、こんなにも殺人を犯しているあなたが、良心の呵責というものに押しつぶされないのか、それはとても気になるが、今はその話を聞きに来たわけではない。また次の機会にでも聞くとして、今はワタシの話を進めさせてもらおう。今日は取材と偽り、あなたと会うことができた。忙しいあなたには人目を忍んで会うのはなかなか難しいことだからな。実は、あなたに依頼があってきた。ワタシが手を出せない部分をあなたに頼みたいと思っている。先に言っておこう、もちろん、あなたには断ることはできない。


「あなたが今の生活を続けたいのなら、ワタシの依頼を受けてもらう。それにこの依頼はあなたの作家活動にも役に立つことだろう。おや? あなたは今、ワタシに恐怖しながらも汚い奴だと思っているな? 依頼を断った時にワタシがあなたを殺人者だと通報すると思っているのだろう? そうだろう、普通ならそう思うだろう。いわゆる暗黙の了解というやつだな。だが、ワタシの場合は違う。言っただろう、今の生活を続けたいなら、と。あなたが依頼を断ろうものなら、ワタシはあなたに害を及ぼす。通報なんてつまらないことはしない。あなたを苦しめてワタシが楽しもうと思う。そうだな、まずはあなたがしたことと同じことをしよう。あなたの頭皮を剥ぎ取るとしよう。だが、殺しはしない。ちゃんと処置は施してあげる。頭が剥がされたまま生活をしてもらおうかな」


 この時の私には恐怖しかなかった。こんなに堂々と脅迫されたことはなかったし、なによりもこの男が醸し出す雰囲気は言葉だけのハッタリではなく、本心だった。依頼を断れば必ず私の頭皮を剥がしたことだろう。

「では、依頼を受けてもらえるね?」

 まだ私の声は出なかった。首を縦に振ることしかできなかった。私の答えに青い瞳をつぶってにんまりと笑って見せた。憎たらしい笑顔だったが、恐怖に震える私にはその笑顔に一瞬でも安心してしまった。この男の言うとおり、今の生活を続けるためには指示に従うしかない。

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