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始まりの章

 『この世に戦争なんて存在しません、過去に起こった争いは全て改竄(かいざん)された歴史だったのです』


俺が先日購入したバーチャルリアリティゲーム、そのゲームの箱内にある取扱説明書には

そういった前提の説明が書かれていた。


このゲームの名前は【ほのぼのクエスト】と云うらしい。クエスト、なのにほのぼのですか?といった質問が上がっていてもおかしくない作品なのだが、ゲーマーとしての経験上

ほのぼのクエストにはピンッとくるものがあったのだ。しかも税込4900円のものが半額の半額の半額……何とも計算しづらい値で売り出したものだ、としみじみしてしまう値段約650円で購入したのだから個人的にかなり得した気分。流石に、それだけ安いと買ってしまうのが人間の購買本能。俺はそれに従っただけなのであり……

ようするに、何となく買った。


さて、【ほのぼのクエスト】は中古ゲームショップに売られていたという先入観から、かなり前に販売されていたものと考えていたがそうでもないのだ。

中身の取扱説明書の最後の欄に、2012年発売と書いてあった。今年の初頭に出たものがオンボロショップにあるのは意外だ。いくら半年あったとしても中古品扱いされるのは可哀そうだ。余程内容が最悪なものか、不良品くらい。


そんな、質問をぎゅうぎゅう詰めにしたようなゲーム【ほのぼのクエスト】。

いざ開帳して、中身を確認したら色々と入っていて困っている。

取扱説明書、ゲームソフト、予約特典のシリアルナンバー(予約などしていないが)

ここまでは普通だなあ、と考えられる。ここからが問題なのだ。


どこかの国の通貨、単位は……ω。


な、何て読めばいいのだこの単位は。中学の頃習ったオメガという電気抵抗の単位にそっくりだが、訳がわからん。電気抵抗が通貨単位の国なんて存在するのか?いくら世界広しと云えど、流石に無いとは思うが…。


しかも、入っていた通貨の合計が10000ω。少しだけ得した気持ちになってしまう自分がいる。

いやいや、そんなことよりこの通貨の使い道が分からないぞ。【ほのぼのクエスト】がバーチャルリアリティと何の関係があるのだ、このω札。

多分、ほのぼのゲームの世界の通貨かな、とは考えられるがそういう物はゲーム内で貰うのが普通ではないのか?最初から通貨があって、それがゲーム世界で反映されるっていうことは余程ハイクオリティだと思うのだが……それなら中古ショップで売られてるのは疑問だ。パッケージのデザインに一切武器らしい武器、つまり剣や弓が無いのは【ほのぼの】というコンセプトを貫き通す!といった製作者側の気持ちがよく伝わってくる。

農民っぽいオーバーオールのオジサンが(くわ)を片手に掲げて、奥さんらしい人がキャベツを投球しようとして……その標的がスーツ姿の七三分け若人(わこうど)

かなりシュールなパッケージで購入時に軽く戸惑った。

自分なりに解釈してみると、第一次産業VS第三次産業と見える。


【ほのぼの】はどこに行ったのだ。これじゃあまったくほのぼのしてないぞ、寧ろドロドロだ。【ドロドロクエスト】じゃないか。

それに第二次産業はどこにいった。工場が無いとこの戦いが成立しなくなるぞ。

初っ端からゲーム崩壊だ。


まあ何はともあれ、百閒は一見にしかず、百見は一行にしかず。

先月買ったバーチャルリアリティ専用のゲーム機をセッティング、素早くソフトを差し込み付属のゴーグルを掛ける。バーチャルリアリティの基本だが、このゴーグルが無いとゲームが軌道出来てもプレイが不可能となるので損失注意だ。メーカーもそのことについて苦労したらしく、説明書には他の文字の4倍の濃さで書いてあった。メーカーさんの為に

失くすことは出来ない、それがゲーマーってものだ。


ゴーグルは昔、頭全体を覆い尽くすほどのヘッドギアだったので物凄い進歩を感じる。

ヘッドギア時代からバーチャルリアリティゲームをやってきた俺は15の中学生にして

肩凝り・首痛、何故か腰痛に悩まされたのだ、お蔭で周りの人から年齢のサバ読みと疑われた。何故だ…バーチャルリアリティのヘッドギアは一日8時間弱しか行っていなかったというのに、友人たちはそれらの症状が無かったのか?是非方法を聞きたいものだ。


その点、今ゴーグルとなったものは嬉しい。お蔭様で痛関連や凝り関連の症状が出なくなったよ、体が軽い軽い。進学した高校では徒競走(100メートル200メートル)で二冠

だし全テストにおける思考・判断はほぼ満点だったぞ。バーチャルリアリティでは即座の判断が命取りだからな、知らないうちに鍛えられていたのだ。日本中の学校にこのバーチャルリアリティを導入すればいいものを。せめて私立は導入を検討した方がいい。

俺が学校長だったら即時決断だ。寧ろ買わせてやる、生徒自身に。



おっと話が逸れた。【ほのぼのクエスト】の起動だったな。ぽちっと。


……ふむふむ、初期起動時の画面は俺の所有するバーチャルリアリティゲーム39本のそれと変わらないか。まあ、ここが変わってる方が珍しいけど。


ええと何々、シリアルナンバーはありますか?か。これが予約特典のあれだな。予約はしてないが。

8576-4292-……。っと。さあて、このシリアルナンバーがほのぼの世界にどんな奇怪な現象を起こすんだい?このゲーマーの俺を楽しませてくれよ。



♦  ♦


『名前・コードネームを入力してください』


「えっと……苗字から取って、北・ノースでいいや」


真っ暗闇の空間、そこに浮かび上がる緑色の枠で囲まれたディスプレイ。これにバーチャルリアリティ世界のゲーム設定を行うのだ。バーチャルリアリティの基本である。

設定と云っても大々的なものではなくプレイヤーの設定を決めるものであるため、さくさくっと終わってしまう。空間に浮かぶディスプレイに打ち込む行為は個人的に結構気に入っているので、タイピング慣れした今でさえも入力には時間をかけている。バーチャルリアリティゲームに感情があったなら、俺は怒られっぱなしだな。やや反省。


『ストーリー選択を行います。炭鉱の世界【ヒュッテ】農業の世界【グリューン】

水産の世界【ブラオ】機械の世界【ウーア】。初期起動時はストーリー変更が出来ませんので注意してください。』


へえ、4つのストーリーから選べるのか、かなり凝ってるな。期待できるんじゃないか。


「ここはシンプルに 炭鉱の【ヒュッテ】でいいかな、最初の項目をやるのがゲーマーとしての本意だもんな」


再び空中に浮かぶディスプレイに打ち込む。この何とも言えない感触は堪らない。

無限プチ○チみたいに無限ディスプレイを売り込んだらマニア受けするぞ、形容しにくいが擬音化するとパポンって感じ。なんだそりゃ。


『炭鉱の世界【ヒュッテ】でよろしいですね。では最終確認をします

名前・ノース

ストーリー進行・炭鉱の世界【ヒュッテ】

以上でほのぼのクエストの起動をいたします、ではよい冒険を』


あ、あれ…設定が少ないぞ?名前と世界だけでいいなんて、ゲームが成立しないんじゃないか?


♦  ♦


あの暗闇世界からゲームの世界に移ったらしく、ディスプレイが消えた直後俺は光に包まれた。これもバーチャルリアリティのあるあるなので、特に気にならない。やはりゲーム歴だけは群を抜いているので、慣れっこだ。少なくとも市内で右に出る者は居ないぞ。


 さて、今俺は炭鉱の世界【ヒュッテ】に居るはずだ。事前の説明が恐ろしいくらい酷かった…いや寧ろ説明という概念が存在しないのだ、このゲーム。

まあバーチャルリアリティあるあるの一つを先ほど紹介したが、今の状況もあるあるの一つである。そう、出発は必ずどこかの民家。炭鉱の世界ということだけあって内装はそれっぽい。例えにくいが、あれだ…山小屋を想像してもらうと分かるかもしれない。

上から見た図で、シングルベッドが右上の窓の下にあり布団の柄はシンプルな水玉。

何が炭鉱の世界だ…これじゃどこにでもいる一般人だな。炭鉱のたの字も無いぞ。

ベッドの対面には天井とくっ付いている大きさのクローゼットと下部に付属したタンス。

さきほど中身を確認したが炭鉱から想像したジーンズ系がなく、俺が普段から履くような制服のズボンがびっしり。サラリーマンじゃないっての。

二階はこんなもの、お分かりの通りただの部屋だ。炭鉱関係ないな。


一階に下りるとこれまた変化なし。トイレ・洗面場・風呂・キッチンに通じるドアがあって、こざっぱりしている。一般高校生からしたら地味としか言いようがない。


扉だけはまともで、ダブルロック。盗むものなんて何も無いですよ、と心の中で何回も唱えたが効力は無し。まあバーチャルリアリティにプレイヤーの意思を反映させる能力は搭載されてないからな、あったらバカ売れ間違いないぞ。


 俺の始まりとなる家の紹介を終えたから、そろそろ冒険を始めないとゲーム側が怒りそうだ。なので早速家から出て炭鉱の世界【ヒュッテ】のストーリーを進めたいと思う。


 さて、この【ほのぼのクエスト】のコンセプトは平和・戦争なんて存在しない。

文部科学省がOKを出した教科書の中身が豆知識しか残らない程の驚き。

社会科教師も口あんぐりだ。


平和と関連付けているからなのか――――


『おお、あんたが新しい人か?頭領は麓の小屋にいるからそこで手続きを済ませてくれ』


―――頭にタオルを巻き見事なひげを蓄えた30代なりたてのオジサンが家の前で構えていた。しかも鉱物掘削用のツルハシを背負っていて、殺人鬼にしか見えません。

とても怖いです、今すぐ頭領のいる場所に駆け込んでログアウトしたいです。


「あ、はい分かりました。分かりましたから!」


バーチャルリアリティのデメリット・決して移動ページにかくかくしかじか無し。

つまり俺はツルハシのオジサンが背後からにこにこ迫る中、年中ゲームで鍛えた健脚を披露する羽目になったのだ。ふざけんな。


炭鉱の世界【ヒュッテ】。炭鉱と聞くとごつごつした山に殺風景な小屋群。

ジーンズかオーバーオールを着たひげオジサンがえっほらよっこらツルハシを振るっているイメージがあるのだが、【ほのぼのクエスト】ヒュッテはまったく違う。

ここの鉱山の色は紅褐色色で、石炭でいう褐炭に近いかもしれない。昨日の授業で習ったから何となく分かる。えっへん。

おんぼろ小屋群はおしゃれなレンガ造り、風車もあり炭鉱の町のイメージ総崩れ。



一言で云うなら、


水の国です。





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