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救いのないこの異世界で 〜異世界転移した俺は、英雄ではなく奴隷だった〜  作者: 鏡月胡桃
第一章 出荷編

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第七話 『弱いものいじめ』

 この怪物、グラッシュ・ルーズの最も警戒すべき攻撃は、間違いなく、あの葉を使った薙ぎ払いだ。

 悠斗が元居た場所を考えれば、おそらく胴体から生えた四枚の葉は、鞭のようにしなり、しかも伸び縮みする。

 そんな相手に下手に距離を詰めるのは自殺行為だった。


 まずは、様子見だ。

 攻撃パターンを把握しないことには、何も始まらない。


 「グワッ!」


 空気が裂ける音。

 次の瞬間、地面すれすれを、細く引き絞られた葉が突き抜けた。


 「うわっ……危ねっ!」


 反射的に身を捻る。

 風圧が頬をかすめ、背筋に冷たい汗が伝った。


 悠斗を襲った薙ぎ払いじゃない。

 細く、長くして、突きに変えてきやがったのか。


 避けられたのは、偶然に近い。

 一歩遅れていたら、確実に貫かれていた。


 不利だ。

 圧倒的に。


 俺の【氷石ラッジ・グラキエス】は初級魔法。

 威力も範囲も乏しく、まともなダメージを与えられるのは、ほぼ至近距離のみだ。


 それに対して、あいつはどうだ。

 伸縮自在の葉による中距離攻撃。

 そもそも、間合いに入ることすら許してくれない。


 なら。


 「まずは、その葉だ。使えなくしてやる!」


 グラッシュ・ルーズに、等間隔で生えた四枚の葉。

 あれを止められなければ、話にならない。

 高さも位置もほぼ同じ。

 あいつにとっては、手足のようなものなのかもしれない。

 あれ、そう考えると......。

 もしかしたら、魔法で一気に攻撃すれば、相手を麻痺させるくらいはできるんじゃないか?


 「【氷石ラッジ・グラキエス】!」


 空気が冷え、右脇に氷の粒が生まれる。

 一つ、二つ、三つ……五つ。


 今の俺が、同時に生成できる最大数だ。


 魔法は魔力を消費する。

 一日の使用量にも、同時展開数にも限界がある。だが、それは使い続けることで少しずつ増えていく。

 筋肉と同じだ。


 この三日間。

 ただ魔法だけを鍛え続けた。

 その成果が、これだ。


 一気に疲労が押し寄せる。

 視界がわずかに揺れたが、歯を食いしばる。


 足止めでいい。

 俺の攻撃が通じるかどうか、それだけ分かればいい。


 五つの氷石を、一枚の葉に集中させて放った。


 「グワワッ!」


 甲高い叫びと同時に、葉が叩きつけられる。

 乾いた音を立てて、氷の粒が次々と弾き飛ばされた。


 ……は?


 今のが、俺の最大火力だ。

 それを、軽々と?


 冗談だろ。

 これでダメージが入らないなら、俺に何ができるっていうんだ。


 「グワッ!」


 間髪入れず、その葉がこちらへと伸びる。

 氷を弾き落とした、まさにその勢いのまま。


 回避、できない。


 予想外の速さ。

 思考が追いつかない。


 だけど、不思議と恐怖はなかった。

 胸に広がったのは、諦めだった。


 昔から、こうだ。

 才能のない俺が、力を持ったやつに一方的に叩き潰される。


 異世界に来ても、結局同じ。

 魔法が使えるようになったって、結果は変わらない。


 ……これで終わりか。


 父さんと母さん、心配してるかな。

 クラスのみんなは、なんかしてんのかな。

 悠斗には……悪いな。


 俺が、弱くて。

 情けなくて。

 何もできないせいで。


 結局、何一つ成し遂げないまま、俺は――


 ……まあ、奴隷になるよりはマシか。

 異世界にも来れたし、魔法も使えた。


 悪くない人生だったよ。

 もう、満足だ。


 俺は、葉が突き刺さるのを待った。

 奇妙なほど穏やかな気持ちで。


 「【飛翔な運動(ダグマ・ムーヴ)】ッ!!」


 衝撃は、来なかった。


 目の前に迫っていた葉は、地面に叩きつけられていた。

 それだけじゃない。

 四枚すべての葉が、重力に押し潰されるように、地面に縫い止められている。


 「なに満足そうな顔してんだよ、徹!」


 怒鳴り声。


 「雑魚は雑魚なりに、起死回生の一撃が一番かっこいいって言ってたのは、お前だろうが!

  そんなクソみたいな攻撃で、勝手に死のうとしてんじゃねえ!

  やれよ!

  起死回生の一撃を!」


 「……悠斗」


 意識が戻ったのか。

 いや、それより――


 俺は、何を考えてた。


 満足?

 冗談じゃない。


 異世界に来て、魔物に殺されて終わり?

 そんな展開、あってたまるか。


 昔言ったアニメの感想。

 悠斗のヤツまだ覚えていやがったのか。

 だけど、今の俺に、その言葉は効く。


 こんな俺でも。

 こんな雑魚でも。


 起死回生の一撃で、コイツを......!


 「いけっ、徹!」


 視界が、急上昇する。

 悠斗が俺を持ち上げ、グラッシュ・ルーズの頭上へと運んでいた。


 「ぶち殺せ!」


 「ありがとう、悠斗……最高のポジションだ」


 俺が言ったのは、起死回生の一撃。

 だけど、今の俺にはそんな最強の一撃はない。

 だから、起死回生の百撃、いいや千撃くらいをコイツに叩き込む!


 「【氷石ラッジ・グラキエス速射ラピッド】ッ!!」


 一か八か。

 魔法名にさらに魔法名を追加した応用魔法。


 生成と同時に発射。

 即座に次を生成。

 考える暇はない。


 五つ同時。

 放って、また作る。


 氷の粒が、雨のように降り注ぐ。

 脳天めがけて、ただひたすら。


 体の内側が、空っぽになっていく感覚。

 魔力が削れ、視界が霞む。


 ……限界だ。


 十秒ほどだっただろうか。

 もう、氷は生まれなかった。


 悠斗が俺を地面に降ろす。


 「見てた。攻撃は通ってた!

  葉も動いてない。勝ったんだよ、徹!」


 「……やっ……た……」


 声が、まともに出ない。

 それでも、確かに勝利を感じていた。


 ただ、嬉しかった。


 「おや……終わりかな」


 背筋が凍る。


 「レギペギド……!」


 そうだ。

 こいつを倒さなきゃ、意味がない。


 「グラッシュ・ルーズ。もういい」


 「グワッ」


 ……は?


 動いている。

 無傷で。


 「言っただろう? 強力な酸を持っていると」


 嘲るような声。


 「十三番。君が狙った場所は、口だ。言っただろう?強力な酸を吐き出せると。

  その程度の攻撃なら、酸で防げる」


 「……嘘、だろ」


 「十五番。君も、魔法を使ってかなり疲労している。もう限界だね。

  終わりだ」


 無力。


 「グラッシュ・ルーズはね上級魔獣だよ。上澄みの冒険者が三人でようやく立ち向かえる程度の魔獣だ。

  君たちはよくやった方さ」


 最初から、負けイベント。


 もう動けない俺たちの首筋辺りに、レギぺギドは何かを刺した。

 真後ろにあって何かはわからなかったが、痛くはなかった。


 「ギュッチャの実というものでね。生物の体力や魔法を吸収して成長する厄介な植物だ。ただ、弱ったものしか吸収できない。今の君たち相手には十分吸収できるだろう。奴隷になるやつにコイツをつけることで奴隷市場で暴れないようにできるから、この業界じゃ必需品だ。


 奴隷。その事実が一気に押し寄せてくる。


 「そんな業界で扱われている品だ。別名があるんだよ。()()()()()()()。今まさに、その状況だ!この別名を考えたヤツはセンスがいい!」


 レギぺギドはそう言って、高笑いをする。


 「さあ、出荷の時間だ。いってらっしゃい」


 高笑いを聞きながら。

 怒りと絶望を感じながら。

 俺の意識は、闇に沈んでいった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか?

この第七話で一章完結です。よりハードになっていく第二章をどうぞよろしくお願いします。

最後に、レビューや評価、ブックマークの方をしてくださると活動の励みになりますのでどうかよろしくお願いします。

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