第五十三話 『学使死戦 その五』
風雅の死後数分前、悠斗以外にも戦闘している者はいた。無力なものたち。精神の試練のみを乗り越えた、いわば非戦闘要員。それぞれ、青砥、琴音、アンリスの三人だ。
彼らはひたすらに逃げ続け、生き残るのではなく、生き延びることに全力を注いでいた。
「くそっ!」
学習魔獣。しかも、風雅が戦ってたやつよりも数段......とにかく上の、ひたすらに上の強さ。普通のですら倒せそうもないってのに、それよりも強いやつを......しかも、一人で?
そう青砥は心の中で嘆く。
それも、何回も、何十回も。
分断されてから、数分生きているこの状況は、彼にとって奇跡に違いなかった。
この剣もずいぶんと傷ついちまってる、刃こぼれとかじゃねえ。削れて、破片が飛び散って、見た目だけじゃあ幾千もの戦いを経験した名刀みたいだが......使用者が俺だから、そんなことはねえ。その傷は、魔獣の攻撃を俺が上手くいなせなかったからこそ生まれた。攻撃を最大限に受けちまったから生まれた敗者の印だ。こんなところで、今までの俺のクソさが露呈するとはなあ。
はは、と無理に笑みを作りながら、はっきりとした覚悟の目を、魔獣に向ける。
今まで、俺は無理に自分を優秀だと思い込もうとしてた。だから、剣の練習をしなくても、最高峰の剣士を名乗れるような剣技を扱える人間にあこがれてはいた。だからこそ、俺は剣の練習をしなかった。優秀な人間じゃないのに。この怠惰なクソ野郎はクソ勘違いでこのクソみたいな剣使いをしているわけだ。クソクソずっと言ってるが、俺にはクソっつう言葉しか相応しくねえ。
「あーあ、どんだけ俺は優秀から離れてくんだあ?怠惰で怠慢になっていくだけだっつーのに......。だけどよ、それを思えるだけマシってもんだ。少なくとも、今までの俺じゃあそうは思わなかっただろうぜ。弱さを認める、あの時までは。
さあ、始めようぜ。魔獣。最底辺とのボーナスマッチだ。感謝しろ」
魔法も剣技も使えねえ俺が、こんな強い魔獣と戦い、より長く生き延びる術。逃げる?命乞いする?いいや違うね。一つだけ、俺に残ってるものがある。俺が誰よりも勝っているところ、あの時、精神の試練を受けたときにも、それが力を貸してくれたじゃねえか。
醜い醜い精神力。
「俺は、優秀じゃなくていい。俺は、俺のかっこいいを遂行する!!」
精神の試練の時に、過去の俺が俺に話しかけることができたのは、醜い俺の根性が、過去の俺を動かしたからだ。俺の奥底に眠っていた1%の良心と99%の醜さが動かした。
正反対な二つの感情。だが、共通点はあった。かっこいい。それだ。弱さを認めることはかっこいいし、優秀な人間になることだってかっこいい。
魔獣は動き出す。だが、負ける気はしない。
今、この状況で最高にかっこいいのは?
一つしかねえよな。
「下ばっか見てた俺が、こんな上のヤツを叩き潰すことだろうよ!」




