第五十一話 『学使死戦 その三』
悠斗が学習魔獣との戦いを収めた十数分前、既に魔獣との戦いで勝利を収めた者がいた。
「【統合な結合】」
全員が隆起した地面によって分断された数秒後、里香は魔獣に攻撃を仕掛けていた。彼女の魔法、【統合な結合】によって球体の物体の中にある魔獣の素材を結合させ、爆発。擬似的なグレネードを実現させていた。
「あれ、結構頑丈……」
本来であれば、倒せるはずの攻撃で倒せない魔獣を見つつも、慌てずに更にグレネードを取りだす。
「神級ダンジョンと言っていたからね、私も準備はしてきた。まだまだ爆弾の在庫はある。正直なところ、これは勝ち戦。どれだけこの爆弾を消費しないで勝てるかの話しなの。
学習魔獣の最大の強みは、以前に別の個体が受けた攻撃を学習し、回避に活かしたり、その技を真似たりすること。けれど、私の攻撃はあなたに真似できるようなものではないし、回避できるような甘い攻撃ではない。風雅も言っていた。高度な技はあなたたちには効果が抜群だって。
まあ、おしゃべりはこのくらいにして」
グレネードの爆発で怯んでいた魔獣に、里香は球体の物体を投げる。
「【統合な結合】」
魔獣の素材同士の結合、それによって爆発が生まれる数秒前。魔獣はようやく学習した。どのタイミングでこの攻撃を交わせるのか。詠唱してから何秒後に爆発するかを小数点単位まで学習し、グレネードを投げ返すことで里香自身に着爆するような時間を把握したのだ。魔獣はベストなタイミングでグレネードを投げ返す。タイミング、角度共に満点。里香の元に行った瞬間に爆発し、魔獣が勝利を収める確実な計画だった。
が、天才。里香はそれを把握していた。【統合な結合】は物と物とを結合させる、くっつける魔法である。魔獣の素材を入れる容器であるその球体と魔獣と結合させた。
「あまり甘く見ないで欲しいな。風雅程ではないにしても、私は私で天才なんだから」
結合によって、より近距離で、そのグレネードは爆発した。魔獣は当たり前ながらそれに対処できず、生命としての機能を停止させた。
隆起した地面はズズズという音を立て、どんどんと沈んでいき、元ある水平な地面に戻った。つまりは、里香はその隔離された空間から開放されたのだ。
「私が一番乗りか」
里香はそう呟くと、他の場所で地面が沈んでいくことに気づいた。
「あれ、もう里香いたんだー。早いねー。まー、当然かー」
「まあね、ここの魔獣に関しては全幅の信頼を置いてもらっていいよ」
軽くそう話すところに、ヤツは現れた。
ランドラの管理者。
『おやおや、早いですね、お二方。準備運動にもなりませんでしたか?』
「いいや、そこそこは楽しめたかなー。
それより、俺たちは他の四人がクリアするまでは待機する感じー?」
クリアするまで。それは隔離されたその場所で、各々の学習魔獣を倒し、この開けた最深部にたどり着くまでを指していた。風雅は心配だった。他の四人、いいや戦闘能力を持ち合わせていない琴音、青砥、アンリスが無事に生還できるのかを。
『いいえ、あなたがワタシを倒した時点で終了です。
やりますか?』
「その質問。やりますって応える以外にあるー?」
『そうだと思っていました。
ただし、条件があります。ワタシと一対一をしてください』
「一対一?まさかだとは思うけど、怖気づいてるー?」
『そんなわけがないでしょう?ハンデですよ。平等に戦うための』
そう魔獣は発した。平等。それが何を指すのかを風雅はわかっていた。
「あー。つまり君はこう言いたいわけだー。
「このダンジョン内で殺されていない時点で手を抜いている」ってねー」
『わかっているのですね、流石です』
「もちろんだとも。君はこのダンジョンに一回乗り移っている、あるいは地形変動のような魔法等を乗り移りで獲得している。
ダンジョンにきた人間をダンジョンの構造を動かすことで殺せるってことでしょー?
けど、それは君の選別目的。
今生かされた選別の対象が一対一で戦える時点で平等だ」
『やはり、あなたは最高だ。ワタシの次の対象に最もふさわしい』
「それじゃあ、始めようか。
戦うのは俺でいいよね、里香」
「逆に問いたいわ、あなた以外に誰が務まるの?」
暗業の三日月を構える風雅に里香はため息をつく。
『始めましょう。最高にして最後の選別を』
魔獣は大きく手を広げるようにしてそういった。
その霧がかかったような身体から、霧が晴れ始める。
古くさびれた鉄製の甲冑を身にまとった骸骨。それが魔獣が最後に乗り移った対象。
「いいよー。俺も選別しよう。君が最高の相手かどうかを」




