第四十七話 『最深部』
青砥、琴音、アンリスは薄暗い部屋で目を覚ました。
意識を失って、そこの状態化で自分がどこで、何をし、自分とどう向き合ったかを、夢といういつしか薄れ、消えてしまうものなんかよりもずっと鮮明に覚えていた。
暗い中ではあったが、互いが同じように沈み、同じような経験をし、この部屋まで流れ着いたということを察し、風雅たちとの合流を目指すという考えは、それぞれの頭の中で結論づいていた。
「青ちゃん、アンちゃん。
とりあえず......」
「ええ、琴音さん。わかっています。まずはここから脱出、三人と早く合流しなければ。
我々は戦闘向きとは言えませんしね。魔獣が出たら敵わないでしょう。もっとも、ここの魔獣相手では、普通の冒険者ですら敵わないでしょうが......。
琴音さん、立てますか?」
床に座り込む琴音に近づき、手を差し伸べるアンリス。
「ありがと、アンちゃん」
その手を取り、立ち上がる琴音。
「おい、お前ら、さっさとこの部屋を出た方がいい」
そんな二人にそう言いながら近づく青砥。
その言葉を聞き、二人は気づいた。
「ま、まさか......あれ......」
目が覚めた時、三人は床に座り込んでいた。それと同じように、おそらくは座り込んでいたのだろう。それは。座り込んでいたのだろう。その身体が朽ちるまで。人であった骸骨がそれを指示していた。
「骨......死んでるってこと......」
「おそらく、我々と同じように精神の証明に挑戦したものでしょう。
証明ができなければ、おそらくは......」
そう恐怖を少し感じようとした二人であったが、悠斗が叩く。
「それもだが、それじゃねえ。早く出ないといけねえ!」
悠斗が指をさす。
暗い中、息をひそめる者がこちらを見つめていた。
「魔獣だ」
大きなカエル。人と同じくらいの大きさのカエル。
琴音とアンリスは言われて初めて気づいた。闇に潜むその魔獣を、青砥だけが先にとらえていた。それは、精神の証明の賜物か、青砥は弱者として、強者への意識が強くなっていた。故に、とらえていた。この場の強者を。
「こっちだ!逃げるぞ!!」
確かに続く一本の道へと走り、三人はその魔獣から逃げることに成功した。
辿りついた場所は大きな空間。このダンジョンの最深部といえる場所であった。なにかしらのエネルギーのようなものが壁を、床を伝い、青い光を発している。
そして、そこに辿りついたのは三人だけではなかった。
「おっ!大丈夫そうだねー」
風雅、悠斗、里香の三人も合流した。
ダンジョンの最深部に、シファ―軍第一部隊が集結した。
「じゃー、ちゃっちゃとダンジョンの主倒そっかー」
そう辺りを見渡す風雅だったが、それらしき姿は見当たらなかった。
全員が頭にハテナを浮かばせたとき、それは現れた。
『おや、思っていたよりも早いのですね』
あの感覚。聞こえないが、頭の中で言葉だけが響くあの感覚が皆を襲った。その言葉も、今まで以上にはっきりと、饒舌に聞こえる。
六人が囲うようにして立っていたその中心に、その主とみられるものがいた。
黒い霧。それがまるで人のような形になってそこに存在していた。
「あんたがボスってことでいいのかなー」
『ボス......ですか。そうといえばいいのかわかりませんが、ワタシはこのダンジョンの管理人です』
魔獣。知識はあってもここまで明確なコミュニケーションが取れるはずはない。
風雅はそう疑い、探り始める。
「驚いたよー。魔獣とお話できるなんてねー。
それとも、君、魔獣じゃないのかなー?」
『魔獣。人に対して攻撃的で恐れられている生物のことですね。
その質問に対して言えば、はい、と言えますね。
それに付け加えるならば、ワタシは世界で初めて生まれた魔獣です』
風雅の脳内では、その言葉に対する恐怖よりも、圧倒的な好奇心が勝っていた。
元の世界では説明のつかない事象である魔法とそれに絡む魔獣。それに関する知識を欲していたからだ。無論、この魔獣相手に言葉が通じるという環境とこの魔獣が攻撃的でないという環境がそれに拍車をかけていた。
それでも、外面では冷静を装いながら、といっても唯一の理解者である里香にはその内面がバレつつも、風雅は続ける。
「実に興味深いねー。初の魔獣だなんて。それは自分で分かるものなのー?」
『はい。魔獣の種類も少ない頃、それが事実であるということは確認済みです』
「へー。そんな昔の頃の魔獣は、君みたいに知性を持ってる個体が多かったのかなー」
『いいえ、そんなことはありません。ワタシが特別なのです。ワタシが、というよりかは、ワタシの持つ力が、です。
ワタシは他者に乗り移ることで、乗り移った対象の力を得ることができます』
「なるほど。じゃあ、言葉が通じるのもその姿も、人間を取り込んだってことなのかなー」
『頭がいい人との会話はいいですね。話しやすい。
そうです。もうかなり前なので身は朽ちていますが、この言葉も姿も人間から得たものです』
風雅の興奮が最骨頂になった。本命の質問をする環境がやってきた。
「君は、いつ、どこで生まれたの?」
『いつ.....そう言われても正確にはわかりませんが、三千年は前でしょう。
どこ、という質問に対しては逆に質問をさせていただきたい。今、この地は何という名がついているのですか?』
風雅はにやける。
里香はわかった。そのにやけは、質問の答えと推測がつながったということを。
「この地はアリエスタ。そうだったよねー、アンリスさん」
「はい、ここ周辺はアリエスタと名がついています」
「そういうことー。じゃあ、君。アリエスタの旧名は?」
『なるほど、今はそんな名がついているのですね。
いいでしょう質問、どこで生まれたのか。
それは、この地で、アリエスタという名がつく前の場所。
そこは日本です』




