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救いのないこの異世界で 〜異世界転移した俺は、英雄ではなく奴隷だった〜  作者: 鏡月胡桃
第六章 ランドラ編

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第四十六話 『セイシンのツヨサ:我と過去』

 視点:アンリス


 私は、今。過去にいるのだとわかっています。それが、ダンジョンの何かしらの幻覚魔法のようなそれに作られたことだということも、知っています。


 聞こえてはこないのに、脳内で響く言葉が聞こえた後に、私は地面に溺れ、ここに辿り着きました。

 気がつくと、私は元第六部隊が壊滅したダンジョンへ攻略を始める前に戻っていました。私とレニアさんを除いての全員が死亡する、あのダンジョンの前に。

 今私に課せられている状況を判断したという訳では無いですが、私は皆さんに「今日はやめておきましょう」と攻略を先伸ばすことに成功しました。日頃のおこないと言いますか、後方支援を担っている私の言葉は信憑性があったと言いますか、元第六部隊の皆さんは、それを了承してくださいました。


 そして今、私は、宿の近くにある原っぱに座っています。原っぱとは言うものの、環境が劣悪なこの地での話で、枯れた一本の大木を中心に、それを糧にして疎らに生えた雑草が少しあるだけの場所ですが。


 さあ、ここからどうしたものでしょうか。本来であれば、どうにかしてこの幻覚から抜け出し、皆さんと合流しなければなりません。おそらく、あの脳内に響いた言葉が何かしらの引き金になっているのでしょう。精神の強さ。過去を乗り越えることでそれを見せることでここから解放される。そんなところでしょうか。

 ですが、今の私にそんな精神はありません。前からずっと思っていました。元第六部隊の皆さんが生き残っていたら、と。有り得ないことをずっと思っていても仕方がないのだという考えでそれを必死に押さえ込んでいました。ですが、それが実際に起こるのならば話は別です。私は今の皆さんとダンジョンを攻略するよりも、元第六部隊の皆さんと過ごす日々の方が大切です。

 お金を全く持っていない人が大金持ちを望み、なれるわけがないと思っていた矢先、夢で大金持ちになる。それが夢だと分かっていても、夢から覚めるよりも夢での幸福な時間を過ごしたい。それと同じです。要は、現実逃避をしているのです。


 だから、今の私がしたいことは、ダンジョン攻略をどれだけ先延ばしにしていくかなのです。おそらく、あのダンジョンは元第六部隊はおろか、どの部隊でも攻略はできません。風雅くんという現対魔獣最強を見れば分かります。あれほどの圧倒的な強さを無くしては、勝てない。他の部隊に依頼をすることは叶いません。鍛錬を詰んだところで無駄になる。それが私の結論です。


 「アンリス。今日は、どうしたんだ?」


 「レニアさん」


 そんなことを考えている私の元に、レニアさんがやってきました。

 あのダンジョンでこそ死ななかったものの、レギペキド教会襲撃の一件で死んでしまった彼女。元第六部隊の隊長であり、最高戦力でした。本当に惜しい人をなくしました。

 レニアさんは私の隣に座り、空を眺めました。


 「ここ、いい場所だな」


 「ええ、私が小さな頃は、もう少し草も多かったのですが。それでも、いい場所です」


 続く沈黙。私は、それを言おうか悩んでいました。ですが、それを言わねば、始まらない。そんな思いで、重い口をあけました。


 「もし、次のダンジョンで、私とレニアさん以外が死んでしまうとしたら、どう思いますか?」


 「何を急に言い出すんだアンリス。疲れているのか?」


 レニアさんは、軽く笑いながら私を見ました。ですが、私の目を見て、少し目の色を変えました。私の目が、それほどまでに嘘偽りのない本音だということを教えたのでしょう。


 「多分、私は……心を病むだろう。仲間が亡くなることにも、私の実力不足にも。そして、戦意を喪失するかもしれない。

  だが、それでも、どこかで私は立ち上がることができると思う。皆がしたように、私も戦う、と。

  これは、綺麗事かな」


 「いえ」


 やはり、レニアさんはレニアさんです。今言ったことは、全部合っています。私がこの目で見たのですから。

 では、この質問を。あなたが何を思って死んでしまったのかを教えてください。


 「では、レニアさん。そのダンジョンとは、また別のダンジョンで、孤独に戦い、死んでしまうとしたら。貴方は何を思いますか?」


 「私が、死ぬ……」


 レニアさんは少し黙った後、こう言いました。


 「その時、お前は生きているのか?」


 「私ですが......?」


 正直、驚きました。自分のことではなく、私に対しての質問をしてくることを。


 「はい。生きています」


 「じゃあ簡単だ」


 何かすっきりしたのか、もう答えられるといわんばかりのレニアさんを見て、私は「では、どう思うんですか」と聞きました。


 「お前にすべてを託す」


 「託す?」


 「次にダンジョンで私とお前以外が死に、更に別のダンジョンで私が死ぬ。その認識であっているんだろう?

  第六部隊の皆が何を思って死ぬのか私にはわからない。だが、断言できることがある。皆は、私たちのために死んだ。私たちに託したんだと。

  そうとなれば簡単な話だ。私も皆と同じようにお前に託して、最後まで戦って死ぬ。それが満足な死なんじゃないか?私たち冒険者にとって」


 私は、何も言えませんでした。私は、精神が弱い。過去にすがりたかった。だから今こうしているのに。まさか、過去に諭されるとは。


 「確かに、死は望ましいことじゃない。それでも、最善を尽くすことこそが冒険者、いいや、人間の理想なんじゃないか?

  お前がどうしてそんな質問をしたのかは知らないが、お前に託されたものは、何かしらあるはずだぞ」


 託された。皆の気持ちを。

 元第六部隊のメンバーは私以外全員が死亡してしまっています。であれば、誰が皆さんの意思を紡いでいかなければならないのか。

 今。私は生きている。それを精一杯生きて、皆さんにどう顔向けできましょう。過去にすがるのがよくないのではなく、過去を紡ぐことこそが、私の役目でなけでばなりません。

 神級ダンジョンランドラ。それだけではありません。シファ―軍の元第六部隊としての意思を、私は紡ぎ、悠斗くんらを同じ目に合わせないようにするのです。

 それが私の役目。私が託されたもの。私が紡いでいくもの。


 「ありがとうございます。レニアさん。

  おかげで、目が覚めました。明日、ダンジョンに行きましょう」


 「そうだな、頼りにしているぞ」


 私とレニアさんは立ち上がり、宿へと歩きました。

 その時に再びあの声が脳内に響きました。


 『ツヨキモノ、このメでミタリ。

  ソのツヨサ、セイシンなり』


 精神の強さを見た。

 この声はそう言っていますが、その精神の強さも、皆さんに託されたものなのです。

 そう言いたくなってしまうような気持ちで、かといって悪い気はせずに、私は歩き続けました。


 「夕日、綺麗だな」


 「ですね」


 私が託す側になるその日まで、私はこの意思たちを紡いでいきます。

 それを、この綺麗な夕日に誓いました。

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