第四十五話 『セイシンのツヨサ:我と我 その二』
コイツは、過去の俺は今、そう言ったのか?
「お前は、なんで徹だけの順位を聞いたんだ?」と。
なぜだ?なんでこの場に干渉していないはずの俺がコイツに話しかけられている?
目と目がしっかりと合っている。俺に対して問いている。
「答えろよ」
そう頭を回転させる俺を、過去の俺は急かす。
問題はそこではない、と。今俺が「なぜ」と問われているのはさっきの質問。なぜ徹だけの順位を聞いたのか、だ。
そんな問いに答えること自体は簡単だ。だが、それに答えるのは俺のプライドが許さねえ。
「うるせーよ。俺に質問なんかすんな」
そう言う俺に、過去の俺はため息をつく。
「いいか、俺。これはチャンスなんだ。今の状況わかってんだろ?」
「ああ、今は精神の強さが求められている。
お前の質問に答えないっていうプライド、精神の強さを今証明している最中じゃねえか」
「やっぱり、俺は俺か......。
だが、お前もいい加減わかってんだろ?」
何を、とは言わなかったが、その言葉の真意を俺は確かに受け取っていた。
「今の俺は、過去のお前を演じている最中の幻像だ。
お前の醜い精神力のおかげで俺はお前に今問いただしていることができている。
要はこの状況に反抗してるわけだ。
そこんところは認めるよ。お前の歪んだ精神に。
だが、こうして話している時間も残りわずかだ」
「どうしてお前はそこまでして俺に説教垂れてんだ?
意味がわからねえ」
「わかるはずだ。だって、俺はお前なんだから。
お前のこうしたいという意思が今の俺を作っているんだから」
俺の肩に手を置き、最後に過去の俺はこういった。
「認めろ。お前という人間を......」
それを聞いたときには過去の俺はすでにいなくなっていた。
というより、またあの時間まで巻き戻された。
テストの返却。先生のもとに生徒が成績表をもらうあの時間まで。
認める。
いい加減に。
多分、それなくして、この場所から解放されることはない。
でも、怖い。
俺は。
息をのむ。
過去の俺は言っていた。ああやって質問した俺は、俺の意思で作られていると。
俺はどこかで望んでいるのだ、認めることを。
半田青砥という人間。
俺を、認める。
俺は、昔から、平均以上の力を持ち合わせていた。
基本的には何をやってもうまくいき、皆からもてはやされていた。
だが、それは人生の序盤の話だった。
俺は努力を知らなかった。基本的になんでもできた俺は、何もしなくてもできるものだと俺を理解していた。
だが、甘かった。
スタート地点が皆よりも上だっただけでそこから動くことがなかった俺は、スタート地点から動く奴らにどんどん追い越されていった。
それを、俺は否定したかった。
努力をせずに何でもできる俺という理想像を壊したくなかった。
だから俺は、上を目指すのではなく、下を見下すことによってその理想像を守ってきた。
上仮屋徹。
努力をしてやっと平均。
そいつは俺の理想像を守るために最適な人材だった。
だから徹の点数だけ聞き、俺は理想像を守った。
悠斗という俺よりも上を見たくなかった。
そうやって、理想像を守ってきた俺だったが、異世界に来てからすべてが崩れた。
「水晶が、光らねえ!!」と、魔力検査から崩れた。
二分の一。平均以上だったはずの俺が、そんな魔法の才能を持ち合わせていなかった。
奴隷として出荷されている最中に風雅たちに助けられても、俺は剣技を練習しなかった。
理想像を崩したくなかった。
挙句の果てには、ここにいる誰よりもお荷物になっちまった。
見下していたはずの徹も、皆から評価され。
俺は孤独になっていた。
そんな今のひねくれた俺が今の俺を認めてしまったら、今までの俺が消えてしまう。理想像もクソもなくなってしまう。
それがどれほど怖いことか。
でも、それでも俺は。
どこかで望んでいた。
努力を怠らず、優秀な人間になり、皆から評価される人間になりたいと。
そんな二つの思いが、俺の中で混ざる。
俺は、成績表を受け取った過去の俺の前に立っていた。
しっかりと、言おう。
「俺という人間を捨てなくていい。上書きしなくていい。
だから。
だから認めろ。俺が弱いということを。
今まで塗りつぶしにしていたそれを、しっかりと自覚しろ。
俺が別の何かに変わる必要はない。
俺という人間に備わっていたそれを復旧させるんだ。
俺は努力せずに何でもできる人間じゃない。
俺は。俺は半田青砥という人間だ」
過去の俺に、それが聞こえたのかはわからない。
だが、少し微笑んでいるようにも見えた。
『ツヨキモノ、このメでミタリ。
ソのツヨサ、セイシンなり』
あの時と同じような感覚で、その言葉が脳内に響く。
「ああ、見たよ。
精神の強さ。俺は、俺だった」
俺の身体をどんどんと透けていく。
どうやら終わりらしい。
そんな中、最後に見えたのは、過去の俺がその成績表を机の中にしまい。
教科書を取り出す姿だった。
俺は、変われたのだ。
そうその姿から聞こえてくる。
今、俺という人間を認めた今の俺だからこそ思う。
これが、今まで俺が求めていた理想の姿なんじゃないかと。




