第三十八話 『この手で』
徹が使っていた魔法。
【氷結精製:五月雨】。
その氷を剣に置き換えることで、悠斗は疑似的に徹と同じような魔法を使うことができていた。
「多分。この世界じゃないと......一時期にステータスが向上した今じゃないと、確実にこんな魔法は使えなかった。
徹。やっぱりお前はすごいよ」
上げた手を下に降ろす。
それに合わせて、剣は地面に降り注いだ。
「悠ちゃんそれはヤバいって!!」
琴音は悲鳴を上げながら、ビルディングに駆け込む。
建築物への破壊力がない剣だからこその理由。
建物の中であれば、剣へのダメージを受けなくて済む。
琴音は剣が足に刺さりながらも、なんとか中に入ることができた。
「うっ!......アンちゃん」
「青砥くんは、あなたとの戦闘で死亡しました。
そして、悠斗くんは今、あなたとの死闘の末にこの大技を繰り出すことに成功しました。
であれば、私は......」
アンリスは収納から、複数個のグレネードを取り出した。
「同じように、全力で、命を懸けて。
あなたを殺します!」
アンリスはグレネードを起動し、建物内にばらまく。
琴音は完全に逃げ場を失った。
建物から出れば、剣が体を貫く。
建物の中にいれば、グレネードが起動する。
たとえHPが残っても、詠唱の隙があるかわからない。
そう、今までの攻撃は死に切らない攻撃だった。
この攻撃では詠唱の間もなく死の判定が来る。
それを琴音はわかっていた。
わかっていた、が。
彼女は笑っていた。
確実にその死の狭間を楽しんでいた。
「さあ、ここはあたしに賭けようか」
爆発。
とてつもない轟音と共に、一つ、建物が爆ぜた。
一階、それが完全に破壊され、倒壊する。
『プレイヤーが死亡しました』
そのアナウンスが、響き渡る。
悠斗はMPを使い果たし、地上に戻っていた。
「ゲームが終わらない......なんで」
「生きてるから」
倒壊したビルディングの方から琴音が歩いてきていた。
「【完全な再生】」
「なんで、琴音さん、生きて......」
悠斗は心臓の鼓動が早くなっていくのを感じた。
なぜ。
それが頭の中で連呼された。
「忘れたの?悠ちゃん吹っ飛ばしたときに、あたしギフトもらってたじゃん」
「あの時の......!」
HPを減らすため、悠斗自ら当たりに行ったあの攻撃。
あの時確かに、ゲームアナウンスは報告をしていた。
『プレイヤーがギフトを獲得しました』、と。
だが、それと今琴音が生きている理由とどうつながるのかが分からなかった。
「ギフトの効果。即時に怪我を完治回復+回復アイテムの獲得。
これを使ったんだよ。
爆発する前から、ギフト選択画面を開きっぱなしにしてた」
「でも、爆発してからじゃ遅いじゃないですか!」
「いいや、いけるね。
あたしトップランカーだよ?
それくらいの反射神経持ち合わせてるって。
まあ、賭けではあったけどね」
そういって琴音は少し笑みをこぼす。
「爆発してすぐ......いやちょっとあとくらいかな。
HPがほんの数ミリ程度になった瞬間にギフト獲得を押す。
そして回復がされる。
爆発からの攻撃を最大限に受けてから、回復するんだよ。
我ながら素晴らしい判断をしたね。
建物が倒壊したといっても、それは別に逃げればよかった話だからね。
悠ちゃんの攻撃が止まってて助かったよ」
悠斗は現状を再認識する。
悠斗のMPはきっちり0。だが、MP回復アイテムは所持している。
武器は剣のみ。
アンリスに渡したりもしたため、今は物資が限られている。
対して琴音は身体強化魔法こそ失ったものの、神級回復魔法を有している。
この状況で、悠斗ができることを考える。
ひとまず、悠斗は琴音の距離からMP回復アイテムを使用した。
おそらく、これで動かせる物は三つであろうということを悠斗は理解した。
複製した剣を再利用しようとも考えたが、地面に刺さっていたりするため逆にMPを無駄遣いするだろうと悠斗の頭からその考えは除外された。
つまり、悠斗は使えるのは剣のみ。
「OK。やりましょう。琴音さん」
「最後の最後だ!
存分に楽しもう!!」
「【飛翔な運動】!」
悠斗は剣を琴音に向かって動かす。
「ごめんだけど、悠ちゃん。
剣一本ごと気ならかわせるんだ」
そういって、琴音は向かってくる剣をかわす。
だが、琴音は気づいた。
悠斗が何をしているのかを。
「手を!!」
悠斗は、地面に突き刺さったその剣で、両手を切り落とした。
「あぶねー。HPちょっとだわ。
だけど、勝った」
悠斗は手を動かし、琴音に動かした。
普通であれば避けれたはず。
だが、琴音は、その衝撃により、判断を鈍らせた。
悠斗の手が、琴音の口を覆った。
そして剣は、琴音の足を切り落とした。
「魔法という最高の技の最大の弱点。
詠唱しなければ使えない。
そうでしょう?」
次に悠斗は、琴音の手をも切り落とした。
「琴音さん。
あなたの敗因は、戦いを楽しんだことでも、少し油断をしたことでもない」
ゆっくりと息を吸い、これまでのすべてを吐き出すように、悠斗は言った。
「あなたは、この世界を。
この世界の辛さを知らな過ぎた。
アラムクラックというゲームの世界ではなく、この異世界。
あなたはまだ、予想外と理不尽を知っていないんです」
最後にそう言い放ち、悠斗は剣を動かした。
琴音の胸に、心臓に、それは一瞬のことだった。
だが、二人にとって、それは対話であり、ゆっくりと流れる時間であった。
『プレイヤーが死亡しました』
『勝者が決定しました』




