第三十三話 『詰み』
三本の剣は琴音の頭に直撃こそしたものの、バリンという音とともに、跳ね返った。
悠斗のHPは三分の一まで削られていた。
予想外の攻撃によって体勢が崩れ、ビルディングまで飛ばされたものの、琴音の素の身体能力がそこまで強いわけではないのが幸をそうしたようだ。
ダメージ量以上に注意しなければいけないもの。
それは魔法によって強化された脚力、つまりはスピードである。
現に、悠斗は琴音のスピードに追いつけず、彼女を目で捉えることができなかった。
悠斗もそれが一番危険だと、身をもって理解していた。
「【飛翔な運動】!」
悠斗は即座に三本の剣を収納から取り出し、【飛翔な運動】で琴音に向かってそれを動かした。
「攻撃のつもり?
身体が強化されてるあたしからすれば、こんなのすぐに避けれちゃうけどなあ!」
そう言いながら、琴音は軽々と三本の剣を避ける。
そして、悠斗に向かって一気にスピードを上げた。
「これで悠ちゃんは終わりかな?」
またもや、琴音は悠斗に近づき、拳を放つために構えた。
「いいや、まだだ」
悠斗はすでに、手を動かしていた。
琴音か剣を避けた瞬間には、すでに。
剣をかわした琴音に、さらに攻撃をするために。
剣の方向を180度回転させ、悠斗に向かう琴音に死角から攻撃をするために。
その手は、剣を手繰り寄せていた。
三本の剣は琴音の頭に直撃こそしたものの、バリンという音とともに、跳ね返った。
剣が折れたのではなく、琴音のシールドが割れた音だ。
「嘘っ!どこから!」
「さあ、どこからでしょうね?」
琴音は更なる攻撃に警戒し、悠斗と距離をとる。
琴音は考え始める。
悠斗は何の魔法を使ったのかと。
一番初めに考えたのは、追跡魔法。
以前にも、それと同じような魔法を見たことがあった。
避けた剣が挙動を変えて追跡をしたのだと。
琴音の考えはそれで固定された。
「追跡魔法?いいもの持ってるね」
「えっと、ありがとうございます?」
悠斗は少し動揺しつつも思い出した。
琴音は、こちらのチームの魔法等の情報について一切知らないということを。
そして、琴音は自分の魔法について勘違いをしているということを知った。
これは、悠斗にとって好機であった。
確実に、どこかのタイミングで予想外の動きができる。
追跡。
それは、自動的に敵についていくものだ。
持っている魔法がそれだと誤認させ、どこかのタイミングで。
悠斗はそう考えた。
「厄介だね。
でも、楽しくなりそうだよ!!」
「そりゃあよかったですよ!
【飛翔な運動】!」
三本の剣はシールドに阻まれ、はじかれたものの、まだ使える。
悠斗は、その三本をまた同じように動かし、琴音に向かって動かす。
「同じ手は通用しないよ~!
いくら追跡魔法が厄介だとは言っても、途中でそれを解除すればいいもんね!」
琴音は、今度はそれを避けなかった。
というよりも、自ら剣に向かっていた。
なぜか。
彼女の中には考えがあった。
避けても追跡されるのであれば、避けなければいい。
壊してしまえばいい、と。
「おらっ!!」
身体強化魔法によって強化されたそのパンチは、少なからず、威力はあった。
だが、圧倒的に威力不足。
では、どうすればいいのか。
剣。
それを振るう力を強化し、全力で振ればいい。
向かってくる三本に対し、琴音は収納から剣を取り出し、思い切り振った。
三本の剣は見事に折れた、というよりも切れた。
が、その反動に耐え切れなかったのか、琴音が振ったその剣も、ぽきっと折れてしまった。
「アラムクラックの常識。
アイテムは消費すると消える。剣なんかの武器もそう。
折れてしまった剣は、その時点で消費と判定されて消える。
悠ちゃん。もう、武器ないんじゃない」
その問いかけに対し、悠斗は軽く笑った。
琴音は警戒をする。
まだ何かあるの?
そう考えたときにはもう遅かった。
「グレネード!?」
頭上にはアイテムであるグレネードが落ちてきていた。
スイッチを押してから、三秒後に起爆する爆弾。
琴音が剣を破壊している内に、悠斗はすでに次の攻撃に移っていたのだ。
が、琴音は気づいた。
強化された脚力でそれを回避するのは容易だった。
ドン。
その爆発音がした瞬間には、琴音はそこから離れ、一つのダメージも負っていなかった。
「剣に集中していたあたしの隙をついた見事な攻撃!
悠ちゃん最高だよ!!
あたしにとっては失態だけどね。
けど、次はないよ!」
琴音は自然に笑顔を作っていた。
それに対して悠斗は作り笑顔。
確実に当たると思っていた攻撃、それを回避されてしまったからだ。
身体強化……あれは強すぎる!
いくらいい攻撃をしたところで、気づかれてしまえば強化された脚力ですぐに回避されていまう。
不意打ち。
今の俺では、その攻撃しか通用しない。
悠斗はそう決心する。
が、すでに悠斗の武器は尽きていた。
剣も、たまたま拾えたグレネードも全部消費してしまった。
そんな悠斗には、青砥かアンリスが助けに来るまで耐え抜くという手段か、適当な建物に入り、物資を補充するという手段しかなかった。
「くそっ!」
悠斗は琴音に背を向けて走り出す。
その先にはビルディングの入口。
いくら身体能力を強化したとはいえど、建物の中ではそれが発揮しにくい。
それに、隠れて助けを待ったり、物資を探すという点でも、この選択は悠斗にとっては最善だった。
「させないよ!」
琴音は悠斗との距離を一気に縮め、ビルディングの壁に向かって悠斗を突き飛ばす。
そして、間髪入れずに悠斗を殴り続けた。
威力こそないものの、悠斗は行動が出来ない状態に陥っていた。
緩みもしないその連打を前にして、悠斗は詰み、の状態に陥ったのだ。
このまま待ってもHPが0になる。
悠斗の脳内には詰みの二文字が映し出された。
『プレイヤーがギフトを獲得しました』
そんな状況だというのに、ゲームアナウンスが流れる。
SPの獲得方法は、プレイヤーに攻撃を当てることでもある。
悠斗は、琴音が自分に攻撃をしたことにより、ギフトを獲得したのだと思った。
俺、完全に戦犯じゃないか……
HPが0に近づいたその時だった。
バン。
その音。その銃声とともに、琴音の連打が止まった。
「ちっ、外したかよ」
「青ちゃん!ギフト獲得したんだね!!」
琴音の目線の先には青砥が立っていた。
悠斗がよく見ると、青砥の右手が銃に変形していることがわかった。
「この戦場に、俺!降臨!!」




