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救いのないこの異世界で 〜異世界転移した俺は、英雄ではなく奴隷だった〜  作者: 鏡月胡桃
第五章 アラムクラック編

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第三十二話 『ゲームスタート』

 「ここは......」


 ゲームスタートが宣言され、次の瞬間には、悠斗はビルディングの一室に移動していた。


 「とりあえず、物資を探さないと」


 ゲーム。いくら殺し合いとも言えど、それはゲームの中での話。

 痛みは伴うが実際に死人が出るわけではない。

 その事実に、悠斗は少なからず救われていた。

 人を殺す。

 それをして、成長をした親友の姿を見ていたからだ。

 成長、いらない成長である。


 ただ、それ以上に、悠斗は興奮もしていた。

 このゲームのもととなったアラムクラックは、悠斗の大好きなゲームの中の一つであったからだ。

 それを自分が実際にプレイヤーとなって動くことに感動すら覚えていた。


 「あった」


 地面に転がる物資に駆け寄り、悠斗はそれを見定める。


 「剣、剣......アラムクラックの銃が全部剣に置き換わってんのか?まあ、銃があったらゲームバランスが崩壊するか。

  あとは、HP、S、MPの回復アイテムと......」


 次々にそれらの物資を入手し、最後に残ったアイテムに手を伸ばす。


 「げっ、HPハードケース......」


 HPハードケース。

 それはアラムクラック内で全プレイヤーからゴミの評価を受けた回復アイテムである。

 HPが10%未満の時に、HPを50%まで回復し、一時的にステータスを向上させる。

 一見強そうに見えるが、そもそもHPが10%を切った時点で使うことが難しく、使うまでにかかる時間が多すぎる。

 そのため、ゴミの評価を受けたのだ。


 「まあ、序盤だからな、持っておいた方がいい」


 いつ、どこで敵と魔獣と遭遇するかわからないこのゲームでは、物資をいつ拾えるかもわからない。

 そのため、ゲームの序盤はアイテムの質よりも量をとっておくプレイヤーが多いのだ。

 悠斗はそれを入手し、建物の出口を探す。


 「グラワッ!」


 「魔獣!!」


 犬の見た目をした魔獣。

 建物内を歩き回る悠斗はそれと遭遇した。


 「ちょうどいい、SPが欲しかったんだ!」


 悠斗は剣を三本出した。

 それは、既に手に持っていたものと、先程拾い、収納されていた二本。

 それらをすべて地面に置き、唱えた。


 「【飛翔な運動(ダグマ・ムーヴ)】!」


 剣が三本宙に浮き、悠斗が手でその魔獣を刺したとき、その剣先は魔獣に向いていた。


 「いけっ!!」


 その三本が魔獣へと突き刺さるように悠斗は動かした。

 最初の一本は魔獣に軽々とかわされるが、かわすために跳ねた魔獣の隙を悠斗は見逃さなかった。

 二本をすぐに魔獣の両足へと打ち込み、魔獣の動きを制限させる。

 それでも反撃を行おうとする魔獣に対し、残りの一本、魔獣にかわされたその剣を動かし、正確に心臓を貫いた。


 魔獣はすぐに動かなくなり、ホログラムとなって消えた。


 「よかったぜ、イメージトレーニングしといて。

  俺の魔法ってどっちかというとサポート寄りだからな、ちゃんと魔獣に有効で良かったぜ......

  おっ。10SPね。結構すぐにたまる感じかな?」


 SPの獲得を確認した悠斗は、再び建物を探した。



 ――――



 悠斗は建物の外に出ることに成功していた。

 あれから、二体の魔獣を同じように倒し、30SPを獲得していた。

 また、S回復のアイテムを使い、シールドを獲得していた。


 『プレイヤーがギフトを獲得しました』


 ゲームアナウンスが鳴った。

 ゲーム参加プレイヤーの状況を随時教えてくれるシステムだ。


 「ギフト獲得か、早いな。

  青砥かアンリスさんならいいんだけど......」


 その時である。


 バリン。

 その音が悠斗の耳に響いた。


 「なっ!」


 悠斗の視点でSのゲージ、つまりはシールドがゼロになったのだ。

 攻撃、どこから。

 悠斗は辺りを見渡す。


 右方向に歩いてくる影。

 悠斗はそれを見た。


 「琴音さん。早速ですか?

  シールドなかったら一発で死んでましたよ」


 「でも死んでないでしょ~。

  まだまだ、楽しめる。

  悠ちゃんも楽しそうで何よりだよ!」


 「楽しんでるってより、怯えてますよ」


 悠斗は何が起きたのかを把握した。

 地面に落ちている剣。

 これが自分の頭をめがけて飛んできて、シールドを破壊したのだと。

 そして、なぜあの距離から、これが飛んできたのかと。


 「ギフト、あなたが獲得したんですね」


 「ピンポーン!!

  身体強化の魔法。

  腕を強化して、その剣をぶっ飛ばしたんだ!」


 だか、そんな話よりも、悠斗は気になることがあった。

 詠唱のことである。

 あれほどの距離だ、少なからず詠唱の声が聞こえていたはずなのだ。

 それなのになぜ、聞こえなかったのか。

 徹がやっていたような時差発動なのかとも思ったが、どうもそれには違和感を感じた。

 そんな謎に対する回答を考えつつも、悠斗は構えた。


 「あっ!ねえねえ、気がついた?

  あたし、詠唱してないんだよ!!」


 「詠唱を、していない?」


 更に謎が深まる。

 悠斗は謎への考えよりも、多少の効果を感じた。

 魔法を使うには詠唱が必要。

 そのルールが、崩れたのだと。


 「魔法は、自分の魔力を放出する形で使用される。

  だけど、自分だけに適応される、身体に関わる魔法は、魔力を体内で循環される形で使われるんだよね。

  今回はそのパターン。

  詠唱要らずの身体強化魔法!!

  これがゲットできてラッキーだよ!」


 琴音は構えた。


 「なんにせよ、これで全力で戦える。

  全力で、楽しめる!!」


 次の瞬間、悠斗は琴音を見失った。

 目が、それを捉えることが出来なかった。


 「どこに」


 構えは変えずに、目を左右に動かしながら、探す。

 だが、そんな事は必要なかった。


 「うっ!!」


 既に琴音は目の前にいたのだ。

 思い切り腰を曲げてから、一気にそれを解放し、拳を悠斗の腹へとねじ込む。


 構えこそしていたものの、腹は想定外。

 悠斗は琴音の拳をもろに受け、背を向けていたビルディングまでとばされた。


 「まじかよ。なんのクソゲーだ?」


 「悠ちゃん、まだまだいけるよね?

  あたしはまだ、楽しめてないんだけど」

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