第三十二話 『ゲームスタート』
「ここは......」
ゲームスタートが宣言され、次の瞬間には、悠斗はビルディングの一室に移動していた。
「とりあえず、物資を探さないと」
ゲーム。いくら殺し合いとも言えど、それはゲームの中での話。
痛みは伴うが実際に死人が出るわけではない。
その事実に、悠斗は少なからず救われていた。
人を殺す。
それをして、成長をした親友の姿を見ていたからだ。
成長、いらない成長である。
ただ、それ以上に、悠斗は興奮もしていた。
このゲームのもととなったアラムクラックは、悠斗の大好きなゲームの中の一つであったからだ。
それを自分が実際にプレイヤーとなって動くことに感動すら覚えていた。
「あった」
地面に転がる物資に駆け寄り、悠斗はそれを見定める。
「剣、剣......アラムクラックの銃が全部剣に置き換わってんのか?まあ、銃があったらゲームバランスが崩壊するか。
あとは、HP、S、MPの回復アイテムと......」
次々にそれらの物資を入手し、最後に残ったアイテムに手を伸ばす。
「げっ、HPハードケース......」
HPハードケース。
それはアラムクラック内で全プレイヤーからゴミの評価を受けた回復アイテムである。
HPが10%未満の時に、HPを50%まで回復し、一時的にステータスを向上させる。
一見強そうに見えるが、そもそもHPが10%を切った時点で使うことが難しく、使うまでにかかる時間が多すぎる。
そのため、ゴミの評価を受けたのだ。
「まあ、序盤だからな、持っておいた方がいい」
いつ、どこで敵と魔獣と遭遇するかわからないこのゲームでは、物資をいつ拾えるかもわからない。
そのため、ゲームの序盤はアイテムの質よりも量をとっておくプレイヤーが多いのだ。
悠斗はそれを入手し、建物の出口を探す。
「グラワッ!」
「魔獣!!」
犬の見た目をした魔獣。
建物内を歩き回る悠斗はそれと遭遇した。
「ちょうどいい、SPが欲しかったんだ!」
悠斗は剣を三本出した。
それは、既に手に持っていたものと、先程拾い、収納されていた二本。
それらをすべて地面に置き、唱えた。
「【飛翔な運動】!」
剣が三本宙に浮き、悠斗が手でその魔獣を刺したとき、その剣先は魔獣に向いていた。
「いけっ!!」
その三本が魔獣へと突き刺さるように悠斗は動かした。
最初の一本は魔獣に軽々とかわされるが、かわすために跳ねた魔獣の隙を悠斗は見逃さなかった。
二本をすぐに魔獣の両足へと打ち込み、魔獣の動きを制限させる。
それでも反撃を行おうとする魔獣に対し、残りの一本、魔獣にかわされたその剣を動かし、正確に心臓を貫いた。
魔獣はすぐに動かなくなり、ホログラムとなって消えた。
「よかったぜ、イメージトレーニングしといて。
俺の魔法ってどっちかというとサポート寄りだからな、ちゃんと魔獣に有効で良かったぜ......
おっ。10SPね。結構すぐにたまる感じかな?」
SPの獲得を確認した悠斗は、再び建物を探した。
――――
悠斗は建物の外に出ることに成功していた。
あれから、二体の魔獣を同じように倒し、30SPを獲得していた。
また、S回復のアイテムを使い、シールドを獲得していた。
『プレイヤーがギフトを獲得しました』
ゲームアナウンスが鳴った。
ゲーム参加プレイヤーの状況を随時教えてくれるシステムだ。
「ギフト獲得か、早いな。
青砥かアンリスさんならいいんだけど......」
その時である。
バリン。
その音が悠斗の耳に響いた。
「なっ!」
悠斗の視点でSのゲージ、つまりはシールドがゼロになったのだ。
攻撃、どこから。
悠斗は辺りを見渡す。
右方向に歩いてくる影。
悠斗はそれを見た。
「琴音さん。早速ですか?
シールドなかったら一発で死んでましたよ」
「でも死んでないでしょ~。
まだまだ、楽しめる。
悠ちゃんも楽しそうで何よりだよ!」
「楽しんでるってより、怯えてますよ」
悠斗は何が起きたのかを把握した。
地面に落ちている剣。
これが自分の頭をめがけて飛んできて、シールドを破壊したのだと。
そして、なぜあの距離から、これが飛んできたのかと。
「ギフト、あなたが獲得したんですね」
「ピンポーン!!
身体強化の魔法。
腕を強化して、その剣をぶっ飛ばしたんだ!」
だか、そんな話よりも、悠斗は気になることがあった。
詠唱のことである。
あれほどの距離だ、少なからず詠唱の声が聞こえていたはずなのだ。
それなのになぜ、聞こえなかったのか。
徹がやっていたような時差発動なのかとも思ったが、どうもそれには違和感を感じた。
そんな謎に対する回答を考えつつも、悠斗は構えた。
「あっ!ねえねえ、気がついた?
あたし、詠唱してないんだよ!!」
「詠唱を、していない?」
更に謎が深まる。
悠斗は謎への考えよりも、多少の効果を感じた。
魔法を使うには詠唱が必要。
そのルールが、崩れたのだと。
「魔法は、自分の魔力を放出する形で使用される。
だけど、自分だけに適応される、身体に関わる魔法は、魔力を体内で循環される形で使われるんだよね。
今回はそのパターン。
詠唱要らずの身体強化魔法!!
これがゲットできてラッキーだよ!」
琴音は構えた。
「なんにせよ、これで全力で戦える。
全力で、楽しめる!!」
次の瞬間、悠斗は琴音を見失った。
目が、それを捉えることが出来なかった。
「どこに」
構えは変えずに、目を左右に動かしながら、探す。
だが、そんな事は必要なかった。
「うっ!!」
既に琴音は目の前にいたのだ。
思い切り腰を曲げてから、一気にそれを解放し、拳を悠斗の腹へとねじ込む。
構えこそしていたものの、腹は想定外。
悠斗は琴音の拳をもろに受け、背を向けていたビルディングまでとばされた。
「まじかよ。なんのクソゲーだ?」
「悠ちゃん、まだまだいけるよね?
あたしはまだ、楽しめてないんだけど」




