第三話 『魔力検査』
「魔力検査……魔力適性診断……」
聞き慣れない言葉に、思わず復唱してしまう。
言葉としては理解できるのに、その中身が現実として結びつかず、頭の中で空回りしていた。
「説明します。
魔力検査は、あなたに魔法を使う素質があるかどうかを検査するものです。
魔力適性診断は、魔法を使う素質があった場合に、あなたに相応しい魔法を調べさせていただくものになります」
「なる……ほど……」
魔法を使う素質を見極める、ということは......
裏を返せば、魔法を使えない人間も存在する、ということだ。
当然の話だ。
ゲームでも物語でも、全員が特別な力を持っているわけじゃない。
むしろ、何の才能もなく、流されるまま生きていく人間の方が圧倒的に多い。
それが、自分だったら?
もし魔法が使えなければ?
そんなことを思いながら、俺は自然と前のめりになりながら、レギぺギドの話を聞き始めていた。
「まずは魔力検査です。
目の前の水晶玉に手をかざすことで検査ができます。
青く光れば魔法を使う素質があり、何も変化がなければ素質がないことを指します」
台座の上に置かれた水晶玉は、この部屋の照明ともいえるランプの淡い光を反射して静かに鎮座していた。
無機質なはずなのに、なぜかこちらを見返されているような錯覚を覚える。
「確実にこれという確率はわかりません。ですが、以前に見た資料を参考にすると、およそ十パーセント。大体十人に一人が魔法を使う素質を持っています」
十人に一人。
数字として聞けば、そこまで低くないようにも思える。
だが、平均的な運しか持っていない俺にとって、その数字は妙に重かった。
四十……いや、三十パーセントくらいなら、まだ期待もできた。
だが、十パーセント。
その壁は、想像以上に高い。
魔法を使うのは、諦めた方がいいのか?
そんな考えが脳裏をよぎった瞬間だった。
「ですが……」
神父は、意図的に間を置いてから続けた。
「どうやら別世界から来た皆様は、確率が高いようでしてね。
五十パーセント。つまり、二人に一人は魔法を使う素質があるようなのです」
「……本当ですか!?」
気づけば、声が裏返っていた。
自分でも驚くほど、感情が前に出ていた。
「はい。あなたより前に検査を受けた方々の中にも、すでに六人ほど素質がある方がいましたよ」
五十パーセント。
その言葉が、胸の奥に落ちていく。
それなら......
俺にも、十分可能性がある。
頼む。
頼むから、俺にも魔法を使わせてくれ。
「では、水晶玉に手をかざしてください」
「わかりました」
短く答えたつもりだったが、声はわずかに震えていた。
この一動作で、俺の今後が決まる。
魔法。
オタクの俺にとって、それは憧れそのものだった。
いや、きっと誰だって一度は夢見る力だ。
現実離れした、そんな力を。
膝の上に置いていた右手を、ゆっくりと水晶玉へ近づける。
期待と不安が、胸の中で絡み合い、ほどけない。
そして、手をかざした。
次の瞬間、視界が青い光に包まれた。
イルミネーションで見るLEDライトよりも淡く、透き通るような水色。
水晶玉は三秒ほど輝き続け、やがて何事もなかったかのように、元の透明な球体へと戻った。
「おめでとうございます。あなたには魔法を使う素質があるようです」
「よっっっっっっしゃあああああ!」
気づけば、叫んでいた。
抑える理由なんて、どこにもなかった。
正直、期待しないようにしていた。
だからこそ、その結果が、心の底から嬉しかった。
おめでとう、俺。
ありがとう、俺。
「では、続いて魔力適性診断に移ります」
「お願いします!」
「魔力適性診断とは、その人自身がどのような魔法を使えるかを知るためのものです。
魔法とは、魔力を外界へ放出することで発現する現象のことを言います。
基本的に、人はそれぞれ特定の魔法に適した魔力を持っています」
レギぺギドの話は思っていた以上に長かったため、この世界の魔法というものの定義のようなものを俺なりに整理する。
炎に適した魔力を持つ者は炎魔法を。
水に適した魔力を持つ者は水魔法を。
だが、炎に適した魔力を持つ者が水の魔法を使うことはできない。
つまり、一人につき一系統だけ。
アニメや漫画みたいに複数の系統の魔法を扱うということはできない、ということだ。
「また、魔法を使う人は二種類に分類されます。
炎や水、雷といった明確な属性魔法を扱う者を『魔法使い』。
その枠に収まらず、独特な魔法を扱う者を『魔術師』と呼びます。
ちなみに私は、召喚術を使う魔術師ですね」
なるほど。
属性魔法が魔法使いで、特殊な魔法が魔術師。
「魔術師は少なく、魔法を使える者の中でも十人に一人ほどです」
やはり、特別な力ほど希少なのだ。
俺は考える。
自分は、どちらになりたいのか。
本音を言えば、魔術師は魅力的だ。
未知の魔法は、戦場で相手を翻弄できる。
だが、それ以上に......
俺は魔法使いに魅力を感じていた。
単純に魔術師になる確率が低く、思考を魔法使いの方にシフトチェンジしたというのもある。
十パーセントという確率。
魔術師になれるような運を、俺は持っているとは考えられなかった。
それ以上に、大きな点。
成長性。
扱う人数がより多く、すでに開拓された魔法なら、短期間で力を伸ばせる。
この世界がどれほど危険か、俺たちはまだ何も知らない。
だからこそ、安定して伸びる力が欲しかった。
「では、こちらへ」
部屋から出て、地下から出て。
案内された先は、ここに召喚されたときに見たあの像の前だった。
近くで見ると、はっきりとした違和感がある。
この像が誰をもとに作られたのかはわからない。けれど、その人が強く、恐ろしい存在であることはわかった。
「アミキシファ様の前に立ってください」
どうやらその像、モチーフとなった人はアミキシファというらしい。
俺は言われるまま、その前に立つ。
「目を閉じ、十秒後に目を開けてください」
目を閉じる。
十、九、八......
ゼロ。
――――
目を開けた瞬間、場所が変わっていた。
本来であれば大きく驚くはずなのであろうが、先程の召喚で少し驚きが軽減されてあまり驚かなかった。当然だ、同じ日に同じような出来事があれば後に起きた方は反応が薄くなる。
それだけではない。召喚されたときにあった閃光のような衝撃がなかった。
それどころか、何か頭の中がふわふわしている。まるで、ここが夢の中であるかのようだった。
召喚というわけではないようだが......ここはどこなんだ?
雲の上。
澄み切った空気。
そして、目の前に立つ一人の女性。
「ほう、今日はずいぶんと多いな」
その顔を見た瞬間、理解した。
像と瓜二つ。
アミキシファ。
そう呼ばれる存在は、確かにそこにいた。




