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救いのないこの異世界で 〜異世界転移した俺は、英雄ではなく奴隷だった〜  作者: 鏡月胡桃
第四章 教会襲撃編

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第二十六話 『村雨が』

 リグリエ・スパイダー。

 忘れていた、がそれが何だって言うんだ?


 「なっ!」


 悠斗の剣がはじかれた。

 それも、氷に。

 氷柱に。


 「どういうことだ!」


 氷柱が飛ばされた方に目を向ける。

 そこにはリグリエ・スパイダーがおそよ百匹いた。

 正確に数えたわけではない、だがそれほどの数。


 こいつらが確実に何かをした。


 「さあ、中ボス戦を続行してください」


 レギぺギドは教会の隅へと離れる。


 追いかけることも可能だ。

 ただ、それ以上にリグリエ・スパイダーが無知で危険すぎる。

 コイツ以外に目を向けてはいけない気がする。

 それほどの威圧を感じる。


 そんな時だった。


 「おいおい、まじかよ」


 魔法陣。

 それがリグリエ・スパイダーたちの前に生成される。

 その魔法陣からである。

 冷気が集まり、リグリエ・スパイダーよりも大きな、といっても中くらいの大きさの氷柱が生成された。


 【氷結槍(ルピナス・グラキエス)】。


 間違えるはずがない。

 俺の魔法だ。

 なんでこいつ等が。この蜘蛛たちが。


 「よけろ悠斗っ!」


 生成された氷柱が俺たちに向かって放たれる。

 一本じゃない。何本も。

 おそらくはリグリエ・スパイダー一匹につき一本。

 その量で生成されている。


 「【氷結槍(ルピナス・グラキエス)】!」


 「【飛翔な運動(ダグマ・ムーヴ)】!」


 俺は氷柱で氷柱を受け、悠斗は長机を動かし氷柱を受けた。

 【氷結槍(ルピナス・グラキエス)】。

 その魔法で生成した氷柱でリグリエ・スパイダーが生成した氷柱を受けたからわかる。

 この二つの氷柱の威力は同等。

 つまりは俺の氷柱とリグリエ・スパイダーの氷柱に違いがない。


 リグリエ・スパイダー。

 コイツの特性はなんなんだ?


 「シャアァ!!」


 リグリエ・スパイダーは鳴き、またも魔法陣を生成される。


 だが、違う。

 さっき氷柱を生成した魔法陣とは違う。

 模様もそうなのだが、光り方。

 ここが違うと断言できるわけではないが、違うのだと、そう確信できるような何かを感じた。

 この感覚は。


 「徹!後ろ!」


 後ろ?

 なんだ?


 この状況で、そんな間抜けなことを考えながら、後ろを振り向く。


 「なんで......!」


 長椅子。

 それが接近していた。

 【飛翔な運動(ダグマ・ムーヴ)】。

 悠斗が魔法で長椅子を動かしていたように、その長椅子も動いていた。


 俺はすかさず【氷結槍(ルピナス・グラキエス)】を詠唱し、それを受け止めた。


 流石に上級魔法を使ったあとだ。

 消耗が激しすぎる。

 残りは【氷結槍(ルピナス・グラキエス)】が打てて三本。【氷石ラッジ・グラキエス】じゃ戦力にならない。


 はやくリグリエ・スパイダーの特性をあぶりださないと。

 頭をフルで回転させろ。


 リグリエ・スパイダーが使ったのは【氷結槍(ルピナス・グラキエス)】と、おそらく【飛翔な運動(ダグマ・ムーヴ)】。

 俺と悠斗の魔法だ。

 対象の相手の魔法を使う特性?


 でも、それじゃあ氷柱の威力が同じだったことの理由が見つからない。

 リグリエ・スパイダーは上級魔獣。

 コイツが【氷結槍(ルピナス・グラキエス)】を使うのであれば、俺のを凌駕するほどの威力になるはずだ。


 だとすると、なんだ。

 コピー?

 いいや違う。軌道や精度、使い方。それらを考えると。


 「再現。ラグリエ・スパイダーの時に俺らが放った魔法を再現する。

  それがリグリエ・スパイダーの特性ってことで良さそうか?」


 この仮説。これがあっているとすれば、対処は容易い。

 まるで、俺が俺に攻撃しているような状態だ。

 俺のことは俺が一番知っている。癖も狙いも知っている。


 コイツに放った魔法のすべてのパターン。

 それを思い出せ。


 「くる......」


 リグリエ・スパイダーの魔法陣。それからまた同じように、氷柱が向かう。


 「徹!無理しすぎんなよ!!」


 「わかってる!!」


 今、俺ならいける!

 覚えてる。俺に向かってくるこの氷柱。それのすべてがわかる。

 かわせる。


 俺は全速力で、リグリエ・スパイダーに向かって走る。

 中ボス戦?コンティニューなんてこの世界にはないから、当たり前だから。

 一発クリア。

 それしか認められてない。


 「【氷結槍(ルピナス・グラキエス)】!」


 俺はそのわずかな魔力で攻撃をする。

 三匹やれた。あとは援護を!


 「悠斗!」


 「【飛翔な運動(ダグマ・ムーヴ)】!」


 長椅子、長机。教会内に残っているそのすべてを動かす。

 砂煙。それが立ってわからないが、感触はある。

 倒した。


 中ボス戦を突破した。


 だが、魔法はもう使えない。

 俺も悠斗も今ので限界。

 おとなしく、今からくるレニアさんたちを待った方が......


 「だから、ダメなんだ。

  だから、負けるんだ」


 「まだ負けだと確定してないだろ、レギぺギド。

  ラスボス戦前にセーブくらいはさせてくれよ」


 「ラスボス戦前どうこうよりも、中ボス戦。

  中ボス戦をクリアしないと始まらないと何度も言っているだろ」


 何言ってるんだ。

 さっきリグリエ・スパイダーは全部......


 「おいおい、まじか」


 あと一匹。それだけ。

 それだけのことだ。

 なのに、なんで。

 こうも恐ろしく感じるんだ。


 来るとしても【氷結槍(ルピナス・グラキエス)】と、【飛翔な運動(ダグマ・ムーヴ)】だけのはず。

 それだけしか、ラグリエ・スパイダーには......


 「あ」


 違う。まだある。

 俺はヤツに、ラグリエ・スパイダーに放っている。

 最後の大技を、【氷結精製(アシッド・グラキエス)村雨ムラサメ】を。


 気づいたときにはもう遅い。


 俺の周りに冷気が溜まり、次々と氷柱が生成されていく。


 「ちっ。クソゲーが。

  ラスボスよりも、中ボスの方が強いだろ」


 もう避けきれない。

 詰み。

 悠斗に攻撃がいってないだけましか。


 だが、ここで死ぬの待つほど、俺はお利口さんじゃねえんだよ!


 「一発殴らせろ!レギぺギド!!」


 俺はレギぺギドに向かって走る。

 剣のアドバンテージを捨て、ただ拳を握り。

 怒りのままに。


 「おらっ!」


 その拳は見事に空振り。

 レギぺギドは軽々、俺を見下ろしながら、それをかわしたのだ。


 そんな俺に、完膚なきまでに敗北の印を押された俺に。

 村雨が降る。

 氷の村雨が、俺だけに、降る。


 俺の魔法で死ぬとか、まじないわ。

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