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救いのないこの異世界で 〜異世界転移した俺は、英雄ではなく奴隷だった〜  作者: 鏡月胡桃
第四章 教会襲撃編

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第二十五話 『忘れているだろ』

 そこまでの力を持つ魔獣。

 厄介な再生能力とカウンター攻撃。

 であれば、その再生とカウンターが行われないうちに、仕留めればいい。

 超簡単な思考、だが、超難しいことだ。


 「悠斗!ラグリエ・スパイダーを引き付けてくれ!」


 「あいよ!」


 俺が考えている大技。

 それをするのにはラグリエ・スパイダーの周りを一周しなければならない。


 「【飛翔な運動(ダグマ・ムーヴ)】!」


 悠斗は注意を引き付けるかつ、カウンター攻撃を最小限にするため、この教会内で最も小さい長椅子をラグリエ・スパイダーにぶつけ、カウンター攻撃を長椅子で受ける。

 最高のムーヴをしてくれている。

 俺も早くしなければ。


 「【氷結精製(アシッド・グラキエス)】!」


 俺はそう詠唱し、ラグリエ・スパイダーの周りを駆けた。

 俺が走った場所には霜が降り、冷気が立ち込める。


 「さあ、こんなところかな」


 ある程度走り回ったところで、俺は詠唱した。


 「【氷結精製(アシッド・グラキエス)村雨ムラサメ】!」


 ラグリエ・スパイダーの周囲の冷気が凝縮していき、【氷結槍(ルピナス・グラキエス)】ほどの中くらいかつ先のとがった氷柱がいくつも生成される。

 その先端はすべてラグリエ・スパイダーに向かっていた。


 【氷結精製(アシッド・グラキエス)五月雨サミダレ】は上空から様々な氷を広範囲に降らす魔法だ。

 これは今、適作じゃない。

 ここは教会、建物内だし俺が魔法を避けきれない。

 だからこその新技だ。

 この魔法は短期一点集中、短時間で確実な威力が出る魔法だ。

 これなら、いけるはずだ。


 氷柱が一斉にラグリエ・スパイダーに発射される。

 この技なら、仕留め切れる!


 「クシャア!!」


 咆哮。

 そしてラグリエ・スパイダーの体に氷柱が食い込む音と共に、その傷口から体液が流れる。

 確実に効いてる。

 これほどの攻撃、再生される前に倒しきれるはず......。


 「なっ!」


 再生してきてる!

 食い込んでいる氷柱が徐々に押し出されていってる。

 俺はもう、上級魔法でヘロヘロだっていうのに。


 「おやおや、終わりかな?

  言っただろう?お前らのような弱者が倒せるはずがない、と」


 レギぺギド。

 またずいぶんとゲスイ顔を見せてくれるじゃねえか。


 終わりだって?

 馬鹿言わせるんじゃねえよ。


 「おい、お前。忘れてねえか?」


 「忘れてる?何を?」


 「戦ってるのは、俺だけじゃねえってことだ!」


 何も、俺だけが、俺だけの力でコイツを倒すわけじゃない。

 俺たち、で倒せばいい。


 それに、一番コイツが恨み溜まってるだろうよ。

 奴隷として出荷され、奴隷コロシアムの景品にまでなってしまった男。

 悠斗がな。


 「【飛翔な運動(ダグマ・ムーヴ)集中点コーレ】!」


 押し出されていた氷柱が再び、いいや、更に奥へ突き刺さる。

 【飛翔な運動(ダグマ・ムーヴ)】は物質を動かす魔法。

 それを応用によって、物質を中心に動かすものした。


 ラグリエ・スパイダーの中心部に向かって氷柱がどんどん食い込んでいく。

 それはやがて、ラグリエ・スパイダーの体が引き裂かれていくほどに。


 「いけええ!」


 「クッシャアアア!!」


 そんな咆哮と共に、氷柱がラグリエ・スパイダーの体を貫通する。

 胴体がバラバラに離れ、その魔獣は確実に死んだ。


 「よし!」


 「ナイス!悠斗!」


 これで、残るはレギぺギドだけだ。

 とうとう、ラスボス戦。


 「それだから、弱者はダメなんだ。

  魔獣の特性も何も知らない」


 「何言って......」


 ラグリエ・スパイダーの死骸がない?

 どうなっているんだ。


 ていうか、足が痒い。

 何かが、這っているような感触だ。


 俺は視点を自分の足に向ける。


 「どうなってんだ......!」


 蜘蛛。

 小さい蜘蛛。

 ラグリエ・スパイダーが何分の一かまで縮小されたかのような蜘蛛。

 手で握れ潰せるくらい小さい蜘蛛が何匹も、俺の足を上っていた。


 怖い、よりも気持ち悪い。

 早く払わないと。


 そう思い、俺は手でその蜘蛛たちを払った。

 足から蜘蛛が離れるのを見届け、俺はまたレギぺギドに目を向ける。


 「そりゃ魔獣の特性を知らないって言ったって、この小さい蜘蛛に何ができるっていうんだ。

  少なくとも、気持ち悪いっていう精神攻撃はできてるみたいだけどな」


 「リグリエ・スパイダー。

  ラグリエ・スパイダーの体が引き離され、その各パーツから再生を得て生まれる魔獣だ。

  実質、ラグリエ・スパイダーの第二形態。

  言いたいことは、わかるか?」


 「さっぱりだよ」


 第二形態。

 この小さい蜘蛛が?

 ラグリエ・スパイダーから再生したってことは、おそらく再生能力とカウンター攻撃を持っている。

 ただ、それだけだ。

 その能力は即死させることで意味をなさない。


 コイツが、それほど脅威になるとは考えられない。


 「何か、変わった特性でもあるのか?

  じゃないと、コイツは魔獣どころかただの蜘蛛なんだが」


 「じきにわかる」


 とりあえずだ、今はレギぺギドに集中しないと。

 さっきので俺と悠斗は魔法があまり使えない。

 レギぺギドとは剣で殺る必要がある。


 「悠斗、頼むぞ」


 「わかってる」


 俺は悠斗とそれだけかわし、剣を構え、レギぺギドに向かって走り出す。


 剣をとにかく振り、レギぺギドに攻撃をする。

 だが、当たらない。

 花園で氷の塊を回避した時のように、風に揺られているかのように軽々と剣を回避している。


 「当たんねえ!!」


 「ぬるいなぁ。その剣裁きで強者にでもなったつもりだったのか?」


 「いいや、強者になったつもりなのは剣裁きじゃねえ。

  さっきもあったが、お前は忘れすぎだ!」


 剣を大きく振り、それを回避するレギぺギド。


 そこでいい、完璧だ。

 場所、そこでいい、そこがいい。


 「きめろ」


 そこらの範囲には悠斗がスタンバイしている。

 回避されるのは知っていた、だから二段構えの攻撃で。

 悠斗の攻撃でレギぺギドを。

 かすりでもすれば、俺が一気に決め切れる。


 頼む。当たれ!


 悠斗の横の大振り。

 弧を描くその大振りの射程にはレギぺギドがいた。


 確実に当たる。


 だが、そんな状態だというのに、レギぺギドはいまだに微笑んでいる。

 弱者を見る。

 その顔を崩さない。


 「忘れている。

  それを言いたいのは私だ。

  忘れているだろう、リグリエ・スパイダー。

  順序を踏まなければいけないよ。

  中ボスの第二形態を倒せなければ、ラスボスとは戦えないんだから」

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