第二十五話 『忘れているだろ』
そこまでの力を持つ魔獣。
厄介な再生能力とカウンター攻撃。
であれば、その再生とカウンターが行われないうちに、仕留めればいい。
超簡単な思考、だが、超難しいことだ。
「悠斗!ラグリエ・スパイダーを引き付けてくれ!」
「あいよ!」
俺が考えている大技。
それをするのにはラグリエ・スパイダーの周りを一周しなければならない。
「【飛翔な運動】!」
悠斗は注意を引き付けるかつ、カウンター攻撃を最小限にするため、この教会内で最も小さい長椅子をラグリエ・スパイダーにぶつけ、カウンター攻撃を長椅子で受ける。
最高のムーヴをしてくれている。
俺も早くしなければ。
「【氷結精製】!」
俺はそう詠唱し、ラグリエ・スパイダーの周りを駆けた。
俺が走った場所には霜が降り、冷気が立ち込める。
「さあ、こんなところかな」
ある程度走り回ったところで、俺は詠唱した。
「【氷結精製:村雨】!」
ラグリエ・スパイダーの周囲の冷気が凝縮していき、【氷結槍】ほどの中くらいかつ先のとがった氷柱がいくつも生成される。
その先端はすべてラグリエ・スパイダーに向かっていた。
【氷結精製:五月雨】は上空から様々な氷を広範囲に降らす魔法だ。
これは今、適作じゃない。
ここは教会、建物内だし俺が魔法を避けきれない。
だからこその新技だ。
この魔法は短期一点集中、短時間で確実な威力が出る魔法だ。
これなら、いけるはずだ。
氷柱が一斉にラグリエ・スパイダーに発射される。
この技なら、仕留め切れる!
「クシャア!!」
咆哮。
そしてラグリエ・スパイダーの体に氷柱が食い込む音と共に、その傷口から体液が流れる。
確実に効いてる。
これほどの攻撃、再生される前に倒しきれるはず......。
「なっ!」
再生してきてる!
食い込んでいる氷柱が徐々に押し出されていってる。
俺はもう、上級魔法でヘロヘロだっていうのに。
「おやおや、終わりかな?
言っただろう?お前らのような弱者が倒せるはずがない、と」
レギぺギド。
またずいぶんとゲスイ顔を見せてくれるじゃねえか。
終わりだって?
馬鹿言わせるんじゃねえよ。
「おい、お前。忘れてねえか?」
「忘れてる?何を?」
「戦ってるのは、俺だけじゃねえってことだ!」
何も、俺だけが、俺だけの力でコイツを倒すわけじゃない。
俺たち、で倒せばいい。
それに、一番コイツが恨み溜まってるだろうよ。
奴隷として出荷され、奴隷コロシアムの景品にまでなってしまった男。
悠斗がな。
「【飛翔な運動:集中点】!」
押し出されていた氷柱が再び、いいや、更に奥へ突き刺さる。
【飛翔な運動】は物質を動かす魔法。
それを応用によって、物質を中心に動かすものした。
ラグリエ・スパイダーの中心部に向かって氷柱がどんどん食い込んでいく。
それはやがて、ラグリエ・スパイダーの体が引き裂かれていくほどに。
「いけええ!」
「クッシャアアア!!」
そんな咆哮と共に、氷柱がラグリエ・スパイダーの体を貫通する。
胴体がバラバラに離れ、その魔獣は確実に死んだ。
「よし!」
「ナイス!悠斗!」
これで、残るはレギぺギドだけだ。
とうとう、ラスボス戦。
「それだから、弱者はダメなんだ。
魔獣の特性も何も知らない」
「何言って......」
ラグリエ・スパイダーの死骸がない?
どうなっているんだ。
ていうか、足が痒い。
何かが、這っているような感触だ。
俺は視点を自分の足に向ける。
「どうなってんだ......!」
蜘蛛。
小さい蜘蛛。
ラグリエ・スパイダーが何分の一かまで縮小されたかのような蜘蛛。
手で握れ潰せるくらい小さい蜘蛛が何匹も、俺の足を上っていた。
怖い、よりも気持ち悪い。
早く払わないと。
そう思い、俺は手でその蜘蛛たちを払った。
足から蜘蛛が離れるのを見届け、俺はまたレギぺギドに目を向ける。
「そりゃ魔獣の特性を知らないって言ったって、この小さい蜘蛛に何ができるっていうんだ。
少なくとも、気持ち悪いっていう精神攻撃はできてるみたいだけどな」
「リグリエ・スパイダー。
ラグリエ・スパイダーの体が引き離され、その各パーツから再生を得て生まれる魔獣だ。
実質、ラグリエ・スパイダーの第二形態。
言いたいことは、わかるか?」
「さっぱりだよ」
第二形態。
この小さい蜘蛛が?
ラグリエ・スパイダーから再生したってことは、おそらく再生能力とカウンター攻撃を持っている。
ただ、それだけだ。
その能力は即死させることで意味をなさない。
コイツが、それほど脅威になるとは考えられない。
「何か、変わった特性でもあるのか?
じゃないと、コイツは魔獣どころかただの蜘蛛なんだが」
「じきにわかる」
とりあえずだ、今はレギぺギドに集中しないと。
さっきので俺と悠斗は魔法があまり使えない。
レギぺギドとは剣で殺る必要がある。
「悠斗、頼むぞ」
「わかってる」
俺は悠斗とそれだけかわし、剣を構え、レギぺギドに向かって走り出す。
剣をとにかく振り、レギぺギドに攻撃をする。
だが、当たらない。
花園で氷の塊を回避した時のように、風に揺られているかのように軽々と剣を回避している。
「当たんねえ!!」
「ぬるいなぁ。その剣裁きで強者にでもなったつもりだったのか?」
「いいや、強者になったつもりなのは剣裁きじゃねえ。
さっきもあったが、お前は忘れすぎだ!」
剣を大きく振り、それを回避するレギぺギド。
そこでいい、完璧だ。
場所、そこでいい、そこがいい。
「きめろ」
そこらの範囲には悠斗がスタンバイしている。
回避されるのは知っていた、だから二段構えの攻撃で。
悠斗の攻撃でレギぺギドを。
かすりでもすれば、俺が一気に決め切れる。
頼む。当たれ!
悠斗の横の大振り。
弧を描くその大振りの射程にはレギぺギドがいた。
確実に当たる。
だが、そんな状態だというのに、レギぺギドはいまだに微笑んでいる。
弱者を見る。
その顔を崩さない。
「忘れている。
それを言いたいのは私だ。
忘れているだろう、リグリエ・スパイダー。
順序を踏まなければいけないよ。
中ボスの第二形態を倒せなければ、ラスボスとは戦えないんだから」




