第二十二話 『氷の雨でも降るんじゃない?』
ヴィオレンのこん棒で吹き飛ばされたとき、詠唱は途切れていた。
だが、【氷結精製】までは言えていた。
つまりは基盤は作れていた。
あとは時差で魔法を発動するだけ。
その名前を、詠唱するだけ。
「何をするんだあ!!」
そう困惑するヴィオレンが少し滑稽だった。
いたぶり、命乞いを聞くことに快感を覚えていたヤツが、そちら側になるなんて、思ってもいないだろう。
ましてや、そちら側にいくことを、俺に手助けしているなんて。
ヴィオレンは俺を壁にめり込むくらいの威力で殴ってくれた。
それこそが、手助け。
なんせ、俺でも回避できないくらいの大技だ。
妄想癖。
今まで考えてきた氷魔法の一つ。
今までの戦いの集大成をヴィオレンにぶつける。
「【氷結精製:五月雨】」
そう詠唱し、暗雲から解き放たれる。
大中小様々な大きさ、形の氷が、地上に。
この戦闘場を範囲とし、五月雨のように、長ったらしく、降り注ぐ。
「クソがっ!!」
ヴィオレンは無魔のこん棒を両手で持ち、体全身を隠すように持った。
その氷を無効化しようと思ったのだろう。
だが、これは上級魔法。
あらかじめヴィオレンは言っていた。
ある程度の魔法は無効化できる、ある程度、と。
そのある程度の枠に、上級魔法は......
バキッ
「こん棒があ!!」
そんな音共に、こん棒は折れた。
つまりは、上級魔法は、その枠に入っていなかった。
無効化もできない氷が、ただただ長ったらしくヴィオレンに降り注ぐ。
俺への罵倒も命乞いも、いつしか聞こえなくなっていた。
氷の雨が止み、観客席から戦闘場の様子がしっかりと見えるようになったとき。
その言葉が、欲しかった言葉が、俺に届いた。
「優勝をしたのは......ナンバー十二!!
なんという逆転勝利!!
素晴らしい戦いで、見事優勝を勝ち取った!!」
アナウンス。俺の勝利が知らされた。
観客たちからも、声援が浴びせられた。
それらを聞き、安心しながら、俺の意識は途切れた。
――――
意識が戻った。
おそらくは、ヴィオレンの攻撃で、意識が途切れてしまったのだ。
だが、その攻撃の痛さは感じない。
とすると、だ。
俺は目を開け、確認した。
レニアさんとアンリスさん。
「トオルくん。やりましたね!」
「よくやったぞ、トオル!!」
二人からの誉め言葉、かなりうれしい。
だが、その嬉しさに勝るものがあった。
「悠斗......」
そんな二人の後ろにいる。
彼を救うために、俺は。
俺は戦ったんだから。
「徹......ありがとう」
悠斗はそう言って泣きながら抱き着いてきた。
俺は、このために。
このために戦ったんだから。
――――
ある程度落ち着いて、俺たちは宿に戻った。
悠斗はレニアさんとアンリスさんに自己紹介をして、一応シファ―軍第百六部隊に加入したらしい。
そんなこんなで、悠斗と二人きりで話す機会が生まれた。
「徹。もう一度言わせてくれ、助けてくれてありがとう」
深々とお辞儀をする悠斗。
そんな悠斗に少し戸惑いながらも言った。
「顔上げてくれよ。俺が自分で助けようと思って助けただけだ。
感謝される義理はない」
「けど」
悠斗は、少し躊躇して言った。
「けど、お前はそのせいで。
人を、殺してしまったじゃないか」
「いいんだ。それが、この世界の当たり前なんだから。
悠斗、お前が俺みたいにならなければいい。
俺だけが、汚れればいい」
「そんな」
「それにさ、こんな俺でも、少しは人の役に立ててうれしかったりするんだよ。
だからさ、大丈夫。
俺は、もう覚悟してるんだ」
「そこまで言うんなら、わかった。
だけど、無理はすんなよ。
どこかでお前を助けさせてくれ」
そんな会話。
いつもであれば、アニメの話をしていた二人の会話が。
高校生とは思えないような会話に、変化していた。
――――
後日。
俺たちはシファ―軍の基地へと向かっていた。
俺がアミキシファに会いたいといったのもそうだが、コロシアムの件などを報告するためだそうだ。
基地は厳重で周りに兵が見回りをしていたり、身分証の提示をしないと入れない部屋がいくつもあった。
「失礼いたします」
レニアさんが扉を開ける。
そこにいたのは一人だけ。
一人の女性。
現実で会うのは初めてのアミキシファがそこにいた。
「待っていたぞ。
レニア、アンリス」
そういいながら俺たちの方を見る。
「久しぶりだな、レギぺギドの像で精神世界ではあったことがあるな。
特に、お前には現実の私に会いに来い、などと言ったか」
俺を見ながら、そう笑うアミキシファ。
「よく生きていたな。
まあ、そんなことよりも、だ」
目つきが変わった。
あの時の精神世界でのときの威圧が感じられた。
「レニア、アンリス。
活動停止期間内にダンジョン攻略の活動。
奴隷を購入し、奴隷コロシアムにも参加したらしいではないか」
「「申し訳ございません」」
レニアさんとアンリスさんは思い切り頭を下げた。
「まあ、別によい。
結果オーライ、というやつだ。
それよりも、そこの二人」
「「はい」」
俺と悠斗が呼ばれた。
「お前ら、レギぺギドに復讐をしたいとは思わないか?」
「復讐?」
「特に、お前、トオル、といったかな?
奴隷解放を目指しているとレニアから聞いたんだが」
「はい、そうです」
「そんなお前にいい知らせだ。
この組織の裏切り者、奴隷賛成派に寝返った男。
レギぺギドの教会を襲撃するといったら、どうする?」
アミキシファはそう微笑んでいた。




