第二十一話 『狩られる側』
無魔のこん棒。
ある程度の魔法を無効化すると言っていたが、中級魔法を無効化していた。
かなり厳しいぞ。
「お前よお、魔法使うよなあ。
そういうヤツをいたぶるのはよお。
最高なんだぜえ。知ってるかあ」
にやりと笑う。
「お前、名前は?」
「ヴィオレン。冥土の土産ってやつだあ。覚えて死になあ」
この巨体に剣は通用するのか?
「おいおいどおしたよお。怯えてんのかあ。
仕方ねえよなあ、魔法が無効化されるんだからよお」
「そしたら、剣で攻撃するに決まってる!」
俺はとびかかり、剣を大きく振りかぶった。
「ほっせえ剣だなあ!!」
そういってヴィオレンは肩に担いでいたこん棒で剣を受けた。
「そんなんじゃあよお。
攻撃って呼ばねえぜえ?」
いったん距離を取る。
コイツにどうやって攻撃を与えるんだ?
リーチ。
パワー。
ともに不利だ。
どうやって......
「ほらっ!どうしたあっ!」
薙ぎ払い。
よけきれない。
そう判断し、剣を盾にして構える。
「うっ!」
直撃。
俺は壁に吹き飛んだ。
剣は折れている。
体もそこらじゅうが痛い。
歓声が上がる。
「いいぞおお!!」
「潰せ!!」
「血を見せろ!!」
――違う。
この歓声は、昨日までとは違う。
ただ、俺は敗者として、おもちゃとして見られている。
「おいおい、もう終わりかあ?」
ヴィオレン、わざとらしく首をかしげる。
「まだ命乞い、聞いてねえぞお?」
俺は、歯を食いしばって立ち上がる。
視界の端。
観客席の檻。
悠斗が、こちらを見ていた。
この戦いは悠斗を救うためだ。
諦めるわけにはいかない。
「【氷結槍】!」
「魔法は無効化されるんだよお!」
ヴィオレンに向かって二本の氷柱を発射する。
ヴィオレンはそれを薙ぎ払うようにして見事に氷柱を消滅させた。
「おいおい馬鹿なのかあ?」
「馬鹿はどっちかな?」
「はあ?」
もう一本の氷柱がヴィオレンに向かう。
薙ぎ払ったこん棒の位置とは反対側にある、左足に。
「嘘だろおっ!」
必死にこん棒を氷柱まで近寄らせるが、氷柱は左足に直撃した。
「クソがあっ!いつ詠唱しやがったあっ!」
「時差発射しただけだよ」
空がやっていた時差で魔法を発射する技術。
あらかじめ三本の氷柱を生成、一本を隠し、油断した隙に発射する。
「ていうか、普通に回避できたろ?
こん棒を使って魔法を回避してきたから、その考えがなかったのか?
お前の方が馬鹿だったな、ヴィオレン」
「クソ野郎があっ!お前はいたぶる、絶対にい!
覚悟しろおっ!」
ヴィオレンは怒ったように、急に距離を詰めてくる。
「ふんっ!」
薙ぎ払い。
さっきよりも速い。
剣もない。
ヤバい、直撃する。
「があっ!」
あ、これ本当にヤバいやつだ。
壁にちょっとめり込んでる。
左肩、外れてる?
体が、全然動かない。
「さあ、時間をおこうかあ。
いたぶってえ、いたぶってえ、いたぶり尽くすう。
俺を気持ちよくさせてくれえ」
そう笑うヴィオレン。
俺は、何とか体を動かし、攻撃をしてこないヴィオレンと距離を取る。
「仕切り直しだあ」
「【氷結精製......」
「おらあっ!」
ヤバい、詠唱が間に合わない。
「さ......だ......」
こん棒での薙ぎ払い。
それで吹っ飛ばされる最中に何とか詠唱をしようとしても詠唱が途切れてしまった。
「あっ、くっそ」
もう、動けない。
体が反応しない。
口から血が出てきた。
何も、できない、のか?
「おいおいどおしたあ!
さっきまでの威勢はどこ行ったよお!」
間髪入れずにこん棒で殴ってくる。
殺しに来てる。
「おおっとお、ここまでにしないと死んじゃうなあ」
笑うヴィオレン。
歓声を送る観客たち。
俺は完全に、狩られる弱者として、見世物として、そこに存在していた。
「徹!もういい!降参しろ!死んだら元も子もない!!」
檻の中の悠斗の声。
あのやせ細った体で、弱った体で、振り絞って俺に言ってくれている。
「トオルくん!降参してください!死んでしまう!
レニアさんも、奴隷印の効力で指示してください!!」
「......」
「レニアさん!!」
観客席にいるレニアさんとアンリスさん。
アンリスさんは焦っている。
レニアさんは......。
「まだだ。トオルの目は死んでない。
あいつはまだ、諦めちゃいない」
レニアさんは、相変わらずの口調でそう言っている。
諦めちゃいない。
そうですよ。レニアさん。
俺には、まだ。
「ヴィオレン、知ってるか?」
「ああ?」
ヴィオレンは俺に振りかぶろうとしたこん棒を止めた。
「俺の世界じゃ、馬鹿なやつがテストでいい点とったり、運動音痴なやつが試合で活躍した時には、そいつに向かって言うんだ。
明日は槍でも降るんじゃないかって」
「何が、言いてえんだ?」
「それこそな、俺みたいな平均以下の力しか持ち合わせていない俺が、お前みたいな力を持つやつに勝ったら、明日は槍でも降るんじゃないかって言うんだぜ?」
「だから何があ......」
ヴィオレンは途中で言葉を止めた。
何かに、気づいたからだ。
何か。
空に立ち込める、暗雲に。
「明日は槍でも降るんじゃない。いいや、俺に言うんなら違うな......
今日は、氷の雨でも降るかもしれないな!」
俺は、ボロボロの体で、そう言い放った。




