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救いのないこの異世界で 〜異世界転移した俺は、英雄ではなく奴隷だった〜  作者: 鏡月胡桃
第三章 奴隷コロシアム編

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第十九話 『残思』

 「勝者!ナンバー十二!!」


 再び大きな歓声が沸き上がる。

 どうやら、この試合は見ものだったようだ。


 だが、俺は。

 そんなの嬉しくなかった。


 その歓声も勝者への言葉も、何もかも、うるさく感じた。

 いいや、何も、聞こえなかった。


 そう感じることも、何もかも、人を殺したというこの事実が、すべてを蝕んでいるからだ。



 ――――



 俺は控室に戻った。


 「トオル。お疲れ様。初日突破だ」


 レニアさんはそう言った。

 決して、「おめでとう」とは言わなかった。


 アンリスさんは何も言わず、静かに水の入ったコップを差し出した。

 俺はそれを受け取り、一口だけ飲む。


 水は、冷たかった。

 それだけは、はっきりとわかった。


 「トオル」


 レニアさんが、低い声で言う。


 「覚えておけ。今のお前のその感覚を」


 「……」


 「吐き気。空虚感。耳鳴り。

  それが“正常”だ」


 正常。


 その言葉に、少しだけ救われた気がした。


 「もし、何も感じなくなったら。

  それは強くなったんじゃない。

  壊れただけだ」


 俺は、ぎゅっと拳を握る。


 あの瞬間。

 剣を突き出した瞬間。

 空の言葉。

 最後の、視線。


 全部、まだ頭の中に残っている。


 忘れられない。

 忘れてはいけない。


 「……俺は」


 声が、震える。


 「俺は、人を殺しました」


 事実を、口に出す。

 そうしないと、自分がどこかへ逃げてしまいそうだった。


 「そうだ」


 レニアさんは、否定しなかった。


 「そして、それはお前が選択したことだ。

  後悔をしちゃいけない。

  そんなことをしたら、それこそ、相手に失礼だ」


 空が、殺し合いで決着をつけようとしたこと。

 確かに彼は、恨みっこなしと言っていた。

 後悔はしちゃいけない。


 ただ、どうしても事実が脳にこびりついて、どうしても離れなくて。

 俺は、まるで海に沈んでいるかのように、周りを把握できなくなっていた。



 ――――



 二日目である。

 今日は、三回戦う。

 そして、優勝するためには、おそらく。

 三人の人を、殺さなければならない。


 人を殺すという感覚を残り三回も。

 寝付けなかった。

 ただ、ずっと、あの瞬間が脳内で生成される。


 おぼつかない足で、俺は鉄格子の前に立っていた。


 鉄格子が上り、そんな足で戦闘場に足を踏み入れる。


 反対側からは、白髪の仮面をかぶった男が出てきた。


 「おや、あなたでしたか」


 「あなたでしたか、って。

  俺のことでも、知ってるんですか?」


 「いえ、別に。

  昨日の戦闘を見ていただけですよ」


 彼はそう言って、剣を構える。


 「それでは、開始!」


 先に口を開いたのは彼だった。


 「【氷結槍(ルピナス・グラキエス)】」


 同時に五本。

 それを生成し、それを放ってきた。


 俺はそれをかすりながらも、避ける。


 「ん?あなたであれば、このくらいの攻撃は避けれたでしょう?」


 「い、いや」


 そんな首をかしげる彼に、俺は言う。


 「降参を、してくれないか?」


 「降参?私がですか?」


 そういって、彼はため息をついた。


 「あなた、本当に学習しないのですね。

  昨日の戦いは見ていました。

  全員に、同じように、降参してくれ、と。

  ですが、ここまで勝ち残っているものです。敗北なんて、認めるわけないでしょう?

  勝利条件は、殺す、一択なんですよ」


 それでも、俺は殺したくない。

 あの時と同じようなことを、もう繰り返したくない。


 「まあいいです。私が殺すので。

  【氷結槍(ルピナス・グラキエス)】」


 同じように五本生成。

 俺はよけきれずに一本が当たる。


 左腕、傷は浅い。


 「あなた、戦う気、あるんですか?」


 「戦う、気......」


 「今一度、思い返してみてはいかかです?

  戦闘が開始してからというもの、あなたは一度も、私に攻撃をしていない」


 攻撃をしていない。

 でも、それは。


 「殺したく......ないからだ。

  俺はもう、昨日みたいに」


 「あなた、人を殺したの昨日で一人目です?

  まあ、一人目だとしても、そんな反応をしているのは、とんだ甘ったれですが」


 「甘ったれ、だって......?

  当たり前だろ!人を、殺してるんだぞ!!

  殺すのが、一人目だって、何百人目だって、こんな反応は当たり前だろうが!!」


 俺は、感情をぶつける。

 自分の苦しみも、精一杯込めて。


 「なぜ、そんな反応をしているんです?」


 「当たり前だ!!......そうだ、お前、今まで何人の人を殺した!!」


 この世界の常識。

 であれば、人を殺した数すらも、覚えてはいないはずだ。

 レギぺギドが、奴隷の数を覚えていなかったように。


 「......三人です。

  グレス、ダスト、アングレア、全員しっかり覚えています」


 彼は、一呼吸おいてから言った。


 「人を殺す。確かに、いいか悪いかの二択であれば、悪いのかもしれない。

  ただ、それ以前に、殺す、殺されるを承知で戦っているんです。

  だから、全力を出して殺し合う。

  それこそが、お互いへの敬意、でしょう?」


 全力を出して、殺し合う。

 それこそが、敬意。


 互いが覚悟しているからこその、敬意。


 「あなたも、全力を出してください。

  そうでなければ、ただの殺し、です」


 「全力を出して、殺す。

  それが、敬意?」


 「そうです。戦いはいつもそうでなければなりません」


 殺しを、敬意に。


 「一つ、聞きたいことがある」


 「なんです?」


 「人を殺した後、どうするんだ?」


 「どうする?どうするといいますか......。

  殺した人の思いを背負う、そう言うことが適切でしょうか」


 思いを背負う。

 であれば、俺は空の思いを背負って生きていく。


 そして、今後も。

 殺した人の思いを。


 「目が、晴れましたね」


 彼は剣を構え直す。


 「正々堂々。殺し合いましょう」

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