表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救いのないこの異世界で 〜異世界転移した俺は、英雄ではなく奴隷だった〜  作者: 鏡月胡桃
第三章 奴隷コロシアム編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/45

第十八話 『譲れない戦い』

 人を殺したことがないだろ。

 そんな疑問。

 当たり前すぎる、そんな疑問。


 「人を殺したこと......ないだろって......。

  そんなこと、ないに決まってるだろ!!」


 「そう、当たり前。

  けどさ、考えてみろよ。

  その当たり前は、この世界で通用してんのか?」


 俺の思う当たり前。

 そんなものさしを持ち合わせているところで、この世界は測れない。

 俺が奴隷になったように。

 当たり前はこの世界で、通用しない。


 「そりゃ、通用してないよ。それは今だって実感してる。

  けど、その言い方だとさ。

  空、お前は......」


 「ああ、とっくに。

  とっくに人を殺している」


 短時間で発せられた言葉。

 だが、そこには、そんな短い言葉に乗せ切れないほどの苦痛が込められているような気がした。


 「お前がどうか知らないけど、俺が召喚された教会。

  グラデュウスの教会では、戦闘能力こそが最優先された。

  出荷する奴隷市場が戦闘に特化したところだからだ」


 「それで、なんで、人を」


 「戦闘能力を最も簡単に知る方法。それは実際に戦闘をすることだ。

  だから、クラスメイト同士で......な」


 俺が、いいや俺たちが、あの牢屋で退屈に過ごしていた時に。

 空、いいや彼らは、クラスメイト同士で戦闘をしていた。

 ともに、苦痛を感じてた。

 だが、その苦痛は、違う種類のものだ。


 「クラスメイト同士でって......」


 「生き残り十名。それが俺たちに課せられたものだった。

  これこそ当たり前なんだが、人間は誰よりも、自分が可愛い」


 生き残るため、人を殺した。

 自然界では当たり前の話。

 それを実際に、人間が。


 「さっ、雑談はこのあたりにして、戦闘を始めようか。

  この右手も、ずっとだとまずいからな」


 「待ってくれよ!本当に俺は、殺し合いなんてしたくないんだ!」


 「だったら降参しろ(降りろ)

  お前に俺は、殺せない。

  物理的にじゃなく、精神的にな」


 空はそう言って、左手でしっかりと剣を持ち、詠唱した。


 「【暗雲轟雷(グラスト・フルグル)】!」


 二本。雷が俺に向かう。


 俺はそれを普通にかわした。

 一つ、嫌なことを考えながらだ。


 さっき俺が空に近づいたときに、なんで俺の頭上に魔法が発動されたんだ?

 あの近距離、詠唱をしていたら絶対に聞こえているはず。

 なんでだ。考えろ。


 「まだまだ行くぞ!【暗雲轟雷(グラスト・フルグル)】!」


 今度は三本。雷が向かってくる。


 同じようにかわす。普通に。

 なぜこんなに簡単にかわせるんだ?

 剣術で攻撃のパターンを見極めているのもある。

 だが、だとしても簡単すぎる。


 俺は、不意に頭上を確認する。


 「おいおい、そういうことかよ」


 俺の頭上。

 そこには暗雲が立ち込めていた。


 「この攻撃はおとり(フェイク)だな?」


 時差で魔法を発動。

 俺に二本の雷を向かわせたときに、空は俺の頭上に、もう一本分を生成していた。


 空に近づいたタイミングで俺の頭上から雷が降ってきたのも、どこかのタイミングで生成していた、ということか。


 なんという初見殺し。

 レニアさんが言ってくれなかったら回避できなかった。


 俺はすぐにその場から離れ、本来であれば俺に直下していた雷が落ちるのを見届けた。


 「よく気づいたね、徹」


 「ああ、でも、マグレだけどな」


 ふーん。と空は俺を見つめる。


 「提案があるんだけど、どうだ?」


 「提案?」


 「ああ、簡単さ。合図から五秒経ったら互いの全能力を注ぎ、戦う。

  今日のラストマッチだし、俺はそろそろ決め切らないと奴隷印の効力で負けるし......」


 空は一呼吸おいて言う。


 「お前は俺を殺そうとしないし。

  恨みっこなしの最終勝負だ。

  もう、人を殺せないとか言ってる場合じゃないぜ?」


 「......」


 一つ悪い考えが浮かんでしまった。

 提案を断り、ただ待つという考えだ。


 そうすれば、空は奴隷印の効力で敗北を認めてくれるし、俺は人を殺さずに済む。


 ただ、それをすると、間接的に俺は空を殺すことになる。


 であれば、互いの思いをぶつけるしか、ないのか?


 葛藤する。提案を、引き入れるか、否か。

 少しの沈黙のあと、俺は口を開いた。


 「空、俺は人を殺したくないっていう気持ちは変わらないよ」


 「あぁ?」


 「だけどさ......だけど。

  この勝負をすることで、君は救われるんだろう?

  時間でただ負けるっていう最悪のバッドエンドから」


 闘志が宿る。


 「だったら、俺は、提案に乗ろう!」


 「はっ。どこまでもお人よしだな。

  だけど、そう来なくっちゃな!!」


 互いに距離を取る。


 「合図っつても公平に、だ。

  互いに五秒数えようぜ」


 「ああ」


 譲れない。


 「「五」」


 戦い。


 「「四」」


 互いの。


 「「三」」


 大事な人をかけて。


 「「二」」


 正々堂々。


 「「一」」


 人殺しを。


 「【暗雲轟雷(グラスト・フルグル)】!」


 「【氷結槍(ルピナス・グラキエス)】!」


 ほぼ、同時だった。

 互いの氷と雷が抹消し合う。


 やはり最後は、剣の戦いに......。


 「【迅雷轟雷(ダティスト・フルグル)感電網ファスエレキ】!」


 空は、そう詠唱した。


 空の剣からは、網状に雷が発射される。

 まるで電気の網。感電させるためだけの、魔法。


 「感電して麻痺ってくれ!」


 おそらく体の一部、いいや衣服や剣に当たっても感電してしまう。

 感電してしまったら、何もできない。


 一番ヤバいのは、剣。

 体を前に傾けて、剣を前に突き出すために、一番前に出ている。

 剣が一番、その網に近い。


 「剣がっ!」


 当たる。

 感電して、ゲームオーバー?

 悠斗を救えないどころか、俺が死ぬ?

 降参するか......?


 なんて、そう考えるのは、何度目か。

 起死回生の一撃。

 あの日から、俺の辞書にはそれが書き刻まれてるんだよ。


 敗北という選択肢を、ここで捨てる。


 「お前っ!剣を!!」


俺は、剣を捨てた。

剣さえなければ、回避できる。


 「なっ!」


 ここからだ。

 魔法で戦うか?

 いいや、魔法で打ち消されて終わりだ。

 剣はさっき捨てた。

 だとすれば、選択肢は!


 「【氷結精製(アシッド・グラキエス): 剣意グラディウス】!」


 剣がないのなら、剣を作ればいいじゃない。

 単純な話だ。


 戦闘中、ずっと考えてた。

 空が上級魔法を使えるのなら、俺は使えるのか、と。

 平均以下の力しか持ち合わせていない俺に、それは可能なのか、と。


 だけど、アミキシファが言っていた。

 雷の扱いは難しく、氷の扱いは普通くらい。


 難しい魔法を使いこなせているヤツがいる時点で、俺はその普通は扱える。

 だって、努力はしてきたんだから。


 「剣を、作った!?」


 別に、剣意グラディウスは剣に魔法をまとわせる魔法なわけじゃない。

 レニアさんが折れた剣先を炎で補ったように、俺は剣全体を氷で補った。


 そんな剣を、まっすぐ、空の首元へ。


 時間がゆっくりと流れているようだ。

 世界がスローモーション。


 俺と、空を除いて。


 そんな意識で、共に、会話をする。


 「俺の、負けかよ」


 「ごめん」


 「謝るんじゃねえ。これが、これこそが、この世界の当たり前なんだから。

  だから、後悔すんなよ。俺を、殺したことを」


 「いや、俺は絶対に、後悔してしまう。君を、殺したことを」


 「なんでもいいさ。とりあえず、最後に言おうじゃねえか......。


  生きろ。

  ()()()()()()()()()()()。」


 そう彼が言ったときには、俺の剣が、彼の首を突き刺していた。


 血が流れ、反応がない。

 空は死んだ。


 観客席からは声援が送られた。


 こんな俺に。

 人殺しの、俺に。


 勝負といって、少し、冷静さにかけていた。

 俺は、人を。

 人を殺したのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ