第十四話 『救うために』
「悠斗!
なんで、なんで此処に?」
やせ細っている。
まだあの実が、ギュッチャの実が悠斗を蝕んでいるのだろう。
あの実が、弱いものいじめをしているんだろう。
「俺は、魔術師だからか分からないけど、市場に出されず、この人に飼われたんだ。
そして今は、景品に……」
「おやおや、君はあの時の」
奴隷市場の商人が俺に話しかける。
「どうだ?奴隷としての生活は?
まあ、少しはいい生活をしているようだが」
性格が悪いな、こいつは。
わざわざそんなことを聞くなんて。
「トオル!どうしたんだ、急にいなくなって」
「レニアさん」
「おやおや、主人のご登場かな」
レニアさんとアンリスさんが俺の元へと駆け寄る。
「あなたは、市場の」
「ええ、そうですとも。
とりあえずこちらを」
そう言って商人は、レニアさんに一枚の紙を渡した。
「奴隷コロシアムのエントリー用紙と概要です。
是非参加してください!」
「ああ、ありがとう」
「では!私はこの辺で」
乱暴に悠斗を連れて、彼はこのギルドを出た。
今すぐにでも悠斗を連れ出したかったが、そんな権利は当然ない。
それに、二人に迷惑がかかってしまう。
そう、足を踏みとどめた。
――――
一旦宿へと戻り、俺は悠斗について説明をした。
「親友……か。
確かに、救いたい気持ちもわかる」
「悠斗を救うには、あの商人が言っていたコロシアムってやつに出るしかないんでしょうか?」
「だろうな、とりあえず、この紙を見てみよう」
レニアさんの提案で、俺たちはその紙の内容を確かめた。
奴隷コロシアム 要項
内容:アンドリアス街にあるコロシアムにて、奴隷を戦わせる奴隷コロシアムを開催いたします。
戦闘形式:一対一の勝負で、一方が敗北を認めるか死ぬかで勝敗が決まります。トーナメント形式で優勝を決めます。
景品:優勝をした方には優勝商品として良質な人間を贈ります。
商品内容:人間 男 魔法〇 魔術師 知能〇 言葉〇 精神状態〇 健康状態〇
参加条件:一主人につき、一匹の奴隷を参加させることができます。金貨五十枚が参加費用となります。
大体こんな内容だ。
「参加してもいいですか?」
「まあ、私たちはダンジョンに派遣される予定もないし、任務を受け持ってもいないから、参加すること自体は可能だ」
レニアさんはそう言った。
だが次に、アンリスさんが口を開いた。
「ですが、いいんですか?トオルくん」
「いいって、何がですか?」
「戦闘形式ですよ。もしかしたらあなたは人を殺してしまうかもしれないのですよ」
人を殺す。
非現実的な言葉だ。
俺はあまり、深くは考えられなかった。
「でも、俺はあいつを。悠斗を救ってやりたいんです」
「なら、いいんですが」
アンリスさんはそう言って、「エントリーをしてきます」と言って部屋を出た。
「じゃあ、私たちも行こうか」
「レニアさん?行こうって、どこに?」
「まあ、いいじゃないか」
レニアさんは俺の手を引き、外に連れ出した。
これはまさか……恋愛イベントか!?
確かに、ダンジョンで一緒に戦ったし、そういう条件は揃ってる……のか?
吊り橋効果的なやつで、もしかしたら!!
そんな浮かれ気分。
女性に手を繋がれたこともなかった俺は、勝手にそう勘違いをしてしまった。
仕方がないことなのだ。
女性とまともに話したのは、小学生のときくらいだぞ?
母さん含めれば、今も話していることにはなるが……
そんなこんなで着いたのは、開けた荒野。
宿から数分歩いた程度の場所にあるところだ。
「レニアさん。ここで一旦何を?」
「コロシアムまでは一週間。
その期間。何もしないような男ではないだろう?」
「ええ、まあ」
「そこで、だ。
私と、戦え」
「……戦う?」
思わず聞き返してしまった。
「冗談ではないぞ」
レニアさんは手を離し、数歩距離を取る。
さっきまで宿の延長のように感じていた荒野が、急に訓練場のように見えた。
「コロシアム。お前はそこで、人間と戦う。
お前と同じ、人間だ」
胸が、少しだけざわつく。
「ダンジョンとは違う。魔獣は、殺せば終わりだ。
だが人は――」
言葉が、一瞬止まった。
「命乞いをするし、恐怖に震える
それでも、殺さなければ勝てない場面がある」
……重い。
さっきまで浮かれていた自分が、急に恥ずかしくなった。
「模擬戦だ。殺しはしない。
だが、手加減もしない
レニアさんは木刀を取り出した。
模擬戦。それが感じられる。
もう一本。木刀を取り出して、俺に投げる。
本当に、やる気なんだろう。
炎は纏っていない。
素の剣。
それでも、空気が変わる。
「トオル。お前は、魔法を使え」
「……はい」
ハンデという訳なのだろうか。
でも、戦力差は圧倒的だ。
いくら魔法を使ったとて、勝てるかどうか。
剣を構えたレニアさんの姿は、ダンジョンで見たときよりも静かだった。
殺気を、完全に制御している。
「来い」
その一言で、体が勝手に動いた。
「【氷石】!」
反射的に放った氷石。
だが――
弾かれた。
剣の腹で、軽く。
まるで子どもの投石を払うかのように。
「遅い」
次の瞬間、距離が詰まる。
「っ!」
剣が、俺の喉元で止まった。
本来であれば刺されている。
木刀でも、それは伝わった。
「――今、死んでいた」
息が、止まる。
「次だ」
何度も、何度も。
俺は魔法を放ち、レニアさんはそれをいなす。
木刀はもう。使いものにならなかった。
正直なところ、正しい使い方が分からなかったからだ。
氷結槍を使う暇すらない。
詠唱に入れば、その瞬間で終わる。
「コロシアムでは、相手も必死だ。
待ってはくれない」
剣が、また止まる。
今度は胸元。
「人はな、魔獣よりずっと脆い。
だが――」
レニアさんの目が、真っ直ぐ俺を見る。
「魔獣より、ずっと怖い」
心臓が、強く打った。
「トオル。
それでも、お前は戦うか?」
悠斗の顔が、脳裏に浮かぶ。
アイツを救うために。
俺は、歯を食いしばった。
「……はい」
即答ではなかった。
でも、逃げなかった。
レニアさんは、小さく息を吐いた。
「そうか」
そして、剣を下ろす。
「なら、教えてやる。
私の、剣技を」
彼女の目は、俺を弟子として見ていた。




