第十三話 『完全勝利を』
【豪炎:剣意】。
おそらくは、炎魔法の上級応用魔法だろう。
レニアさんは魔法を使った。
つまり、時間制限が発生したということだ。
炎魔法。
このダンジョンの最深部。
空気は循環せず、逃げ場も少ない。
――長引けば、毒ガス、一酸化・二酸化炭素中毒で全滅があり得る。
それでも、レニアさんは踏み込んだ。
迷いなく。
「……すげぇ」
思わず、そんな言葉が漏れる。
ゆらゆらと揺れ、めらめらと燃え盛る炎。
それが剣心を包み込む。
まるで、それが本来の姿であったかのように。
「トオルくん!回復が終わりました。
レニアさんを、頼みます」
「はい!」
ちゃんと足がある。
これなら、俺も戦える。
【氷結槍】は【氷石】の五個分の消耗だ。
だが、全く違う。
メリットは威力。回転がかかり、その氷自体も大きいため、威力が桁違いだ。
デメリットは発射までの時間。回転をかける分、発射までに時間がかかる。
また、同時生成もできない。
この二つの魔法。
どっちを使うべきだ?
考えろ。
今の俺には何が求められている?
今は......こっちだ!
「【氷石】!」
五つ、同時生成。
俺は今、レニアさんのサポートに徹するべきだ。
「――行けっ!」
氷石が、散弾のように放たれる。
狙いは、ダメージを与えることではない。
視界。
目。
動きを、止めるため。
氷を、めくらましとして使う。
一瞬だけ、アシッド・スネークの動きが鈍った。
その一瞬で――
レニアさんが、踏み込んだ。
「――っ!」
炎の剣が、蛇の側面を切り裂く。
皮膚が焼け、嫌な音が響く。
だが、浅い。
アシッド・スネークは怯まず、巨大な尾を振り回した。
「レニアさん!」
あの体制、避けるのは厳しい。
あいつの攻撃を、鈍らせる。
「【氷結槍】!」。
時間がかかる。
わかっている。
でも、これしかない。
氷が回転しながら、形を成す。
魔力が、一気に持っていかれる。
――間に合え。
尾が、レニアさんを捉える直前。
「――間に合えええ!!」
氷結槍が、唸りを上げて飛ぶ。
風を切り裂き、ヤツの顔面一直線。
直撃。
顔面。
致命傷じゃない。
でも――
効いた。
アシッド・スネークの動きが、一時的ではあるがひるんだ。
その瞬間。
「……ありがとう、トオル」
小さく、でも確かに聞こえた。
次の瞬間、レニアさんが跳んだ。
炎が、さらに強く燃え上がる。
――無理をしてる。
でも、止められない。
俺は、立って見ているしかない。
「――終わらせる!」
炎の剣が、喉元へ。
突き。
貫通。
アシッド・スネークはまだ倒れない。
のたうち、暴れ、レニアさんに追撃を入れようとする。
「頑丈すぎんだろ!」
攻撃を止める。
「【氷石:速射】!」
ヤツのしっぽに、千撃を。
イイ感じに抹消し合い、レニアさんには攻撃が行ってない。
「やれっ!レニアさん!」
「【豪炎:爆】ァッ!!」
内側から、爆ぜるような音。
アシッド・スネークは、のたうちを続ける。
が、どんどんその動きは落ちていく。
そして――崩れ落ちた。
……静かだ。
一瞬、何も聞こえなくなる。
次に聞こえたのは、自分の荒い呼吸音だった。
「……勝った」
足が、震える。
それでも、倒れない。
レニアさんが、膝をついた。
剣は、もう原型を留めていない。
俺は、駆け寄ろうとして――
途中で、止まった。
今は、待つべきだと思った。
しばらくして、レニアさんが顔を上げる。
視線が、俺を捉えた。
その目は、
いつもの冷たいものじゃなかった。
「……トオル」
名前を呼ばれただけで、背筋が伸びる。
「ありがとう」
短い言葉。
でも、それは。
今まで一度も、もらえなかったものだった。
そして、この世界に来てから、何よりも。
何よりも嬉しくて。
「はい……」
それ以上、何も言えなかった。
胸の奥が、熱くて。
息が、少し苦しくて。
そしてただ、完全勝利という言葉が、頭から離れなかった。
――――
俺たちは、すぐにダンジョンを脱出した。
理由はもちろん、毒ガス。
本来、ダンジョンを攻略すれば、アミキシファに報告し、報酬をもらう。
だが、この第百十六部隊は活動停止中。
功績は他の部隊へと渡し、俺たちは宿へと向かった。
「このダンジョン攻略は、シファ―軍にとって大きな実績になるだろう。
アンリス。そしてトオル。
改めて、ありがとう」
「いいんですよ。私は特に活躍もしてませんし」
アンリスさんはまた謙遜する。
「トオル」
「はい」
「これからも、私たちと、この部隊で。
私たちと戦ってくれるか?」
これ以上ない嬉しさ。
そんな勧誘。
俺はこのために戦ったのだから。
「もちろんです!」
そう笑顔で微笑んで、俺は答えた。
――――
数日間宿で過ごし、第百十六部隊は活動停止期間を越した。
宿での数日間はかなり贅沢だった。
少なくともレギぺギドの牢屋、奴隷市場の檻の中よりかの話ではあるが。
ベットはふかふかだし、ご飯は相変わらずパンだったが、スープがついてきたため、いろんな味がためせた。
そんな数日間を過ごし、俺たちは冒険者ギルドへ来ていた。
「賑やかですね」
こんな昼間から酒飲んで、冒険者たちは能天気だな。
そんなことを思っていた時だった。
「ちゅうも~く!」
一人、いいや二人の男がギルドへと入ってきた。
「今日から一週間後。
奴隷たちを戦わせる奴隷コロシアムが開催されま~す!」
そう言う男は、あの時、奴隷市場で俺を売った男だった。
「見事優勝した方には......じゃ~ん!こちらの超良質な人間をプレゼント!
奴隷として飼うのもよし!売るのもよしだよ!
参加する人は、三日以内に私のもとにエントリーしにきてね!」
そう、彼が指す。優勝賞品のプレゼント。
「ゆう......と?」
そう、あの男が連れている男。
奴隷コロシアムの優勝賞品。
それは俺の親友。そして戦友の悠斗であった。




