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救いのないこの異世界で 〜異世界転移した俺は、英雄ではなく奴隷だった〜  作者: 鏡月胡桃
第二章 奴隷奮闘編

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第十二話 『第六部隊』

 視点:レニア


 このダンジョンの一つ前。

 ――私の部隊で、八人が死んだ場所。


 探索記録すら存在しない、階級未分類のダンジョンだった。

 まだどのパーティーも探索をしていなかったからだ。

 ダンジョンの規模から「初級の可能性が高い」とされていたが、断定はされていない。


 それでも、第六部隊が派遣された。


 シファー軍では、部隊番号が小さいほど精鋭とされる。

 第六部隊は、経験・連携・個々の技量、そのすべてが揃った部隊だった。

 アミキシファ様は「念のためだ」といって、そんな私たちを派遣した。


 ――負けるはずがない。

 あのときの私は、本気でそう思っていた。

 初級ダンジョンなど、私たちが派遣されるまでもないと思っていたからだ。


 だが、そのダンジョンは異常だった。


 入ってすぐ、行き止まり。

 本来なら初級以下と判断される構造。


 全員が首を傾げた、その瞬間だった。


 「……な、なんで……」


 最深部など存在しない。

 入ってすぐの空間。

 上級魔獣――アシッド・スネークが、十匹。


 ダンジョン内の魔物はそれだけ。

 だが。


 数だけで言えば異常。

 質で言えば、悪夢だ。


 上級魔獣一体を倒すには、通常三人がかり。

 それが十。


 戦闘が始まった瞬間に、理解した。

 これは、勝てる戦いではない。


 腐食性の粘液。

 硬質な皮膚。

 一撃ごとに、こちらの消耗が加速していく。


 それでも――五匹は倒した。


 死ぬ気で。

 命を削って。


 だが、そこで限界だった。


 「……隊長」


 仲間の一人が、私を見た。

 その目に、恐怖はなかった。


 「僕ら、ここまでですね」

 「……ありがとう、ございました」


 その言葉を、私は諦めだと思った。


 だが、彼らが諦めるような奴らではないことは知っていた。

 だとすると、すぐに血の気が引いた。


 彼らは、アンリスを私の背後へ押しやり、

 静かに詠唱を始めていた。


 「やめろ!!」


 叫んだ。

 本気で。


 だが、誰一人として詠唱を止めなかった。


 上級応用魔法。

 発動すれば、その魔法が自らにも降り注ぐ魔法。

 すなわち、自爆魔法。


 それでも、彼らの覚悟をくみ取り、私とアンリスはダンジョンを出た。

 そして、しばらくして戻ったとき。


 そこにあったのは――


 燃え尽きた骸。

 溶け崩れた遺体。

 感電の痕跡。


 わかってはいたが、信じることができなかった。


 彼らは、自分の命と引き換えに、

 魔獣をすべて討伐していた。


 称賛されるべき行為だ。

 戦士として、誇るべき最期だ。


 ――それでも。


 私は、それを誇りとして受け入れられなかった。


 幸い、遺体と遺品が残っていたから、それをもって帰ることはできた。


 それ以来、頭から離れない。

 眠れない夜が続いた。


 そして数日後。

 私は命令を破り、再びダンジョンへ向かった。


 奴隷を一人、連れて。


 トオル。

 新しい仲間。


 彼を見るたび、どうしても第六部隊の面影が重なる。


 だから、きつく当たった。

 突き放すような言葉を投げた。

 活躍しなければ、施設に送る、と。


 ――死んでほしくなかった。


 無力なら、すぐに死ぬ。

 そんな姿を見てしまったら。

 私は、もう二度と立ち直れなくなる。


 だから、トオルがリクエレ・ドッグに噛まれたときは本当に焦った。

 死んでしまうのではないかと思った。


 それでも彼は覚悟を決めていた。

 彼らと、同じように。


 そして今。


 最深部。


 現れたのは、

 アシッド・スネーク。


 ――また、か。


 「嫌な相手だな……」


 過去が、重なる。


 トオルは酸を受け、倒れ、

 アンリスは彼につきっきりになる。


 ならば。


 私が倒すしかない。


 誰も死なせない。

 そう誓ったのだから。


 だが――


 「……っ!」


 きつい。


 魔法が使えない。

 剣だけで、上級魔獣。


 魔法が使えたら、と何度も思ってしまう。

 だが、そんなことはできない。


 何度目の攻撃か。

 コイツの硬い皮膚に有効な斜めに突き入れる。

 皮膚の隙間を狙う。


 ――手応え。


 だが。


 「……なっ」


 剣が、折れた。


 理由は分かっている。

 手入れを怠った。

 彼らを失い、それ以外のことに頭が回ていなかった。


 恥だ。

 剣士の恥だ。

 隊長失格だ。


 諦めが、胸を満たす。

 ここまでか、と。


 彼らはこんな私を怒るだろうか。

 死ねば、彼らに会えるだろうか。

 それも、悪くない――

 そんな考えが、よぎった瞬間。


 「【氷結槍ルピナス・グラキエス】……!」


 声。


 「レニアさん!

 敗北なんて、いらないはずです!」


 トオル。


 「俺たちが欲しいのは、完全勝利です!」


 ――ああ。


 そうだ。

 私は、何をやっている。

 なんで死を待ってしまったんだ。


 彼らは命を張った。

 隊長である私が、諦めてどうする。


 トオル。

 ……まったく。

 よく覚えていたな。


 その言葉は今の私に効く。


 この魔獣に、この粘液で。

 心を腐らせられたのかもしれない。


 だが、もう終わりだ。

 こんな。こんな心とは。

 おさらばする。


 トオルの放った【氷結槍ルピナス・グラキエス】は、当たりこそはしたものの、致命傷ではない。

 だが――道は、作った。


 ならば。


 仕留めるのは、私だ。


 命を張って。

 ハイリスク、ハイリターン。


「――【豪炎ブライト・フランマ剣意グラディウス】!」


 折れた剣を、炎が覆う。

 炎の剣。

 それを私は握る。

 力強く。


 毒ガスが回って死ぬ前に、炎でコイツを仕留めればいい。


 これでいい。

 これで、終わらせる。


 彼らがそうしたように。

 私もまた。


 命を賭して。

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