第十一話 『洞穴の主』
あの戦闘から時間が経ち、戦闘も何度かした。
リクエレ・ドッグをはじめ、コウモリ型のリクエレ・バットやカエル型のリクエレ・フロッグなどの魔獣と戦ってきた。
全部名前にリクエレという単語が入っていることからもわかるように、この魔獣たちは一貫して腐食性の粘液なりを持っていた。
おそらく、このダンジョン内にいる魔獣はすべて腐食の特性持ちなんだろう。
そして、このダンジョンがおそらく上級に相当することが判明した。
今までの魔獣がすべて中級魔獣であり、最深部にいる魔獣のことを考えるとそうなるらしい。
「気をつけるぞ」
そんなこんな俺たちは、ダンジョンの最深部にいる魔獣。
ダンジョンの主の居場所にやってきていた。
冷汗がダラダラだ。
グラッシュ・ルーズと同程度の魔獣と今から戦うということに。
そして、俺が活躍しなければならないということだ。
今のところ、目立った活躍は見せられていない。
死ぬかもしれないヤツが活躍なんてできるのか?
そんな二重の緊張に押しつぶされそうになりながらも、一歩、前へ進む。
最深部はかなり広いようで、鉱石のようなものがキラキラと光って、かなり綺麗な場所だった。魔獣がいるという事実を除けばだが。
「アンリス。松明を消せ」
「わかりました」
ん?
なんで消すんだ?
鉱石みたいなのがキラキラしてるからもう光源はいらないってことか?
「天井が高すぎる」
「ですね」
二人はそう話す。
「トオル」
「はい」
「私は、大きな炎魔法が使えない。魔法はお前が頼りだ」
「え?」
魔法が使えない?
どういうことなんだ?
「このくらい天井が高いと、炎で出る毒ガスが溜まっていく。
炎を使いすぎて魔獣じゃなく、ガスに殺されるからな」
「毒ガス......」
炎から出る毒ガス。
もしかして、一酸化炭素や二酸化炭素のことか?
確かに、中毒になったりして危険だ。
それよりも、炎魔法が使えない。
これはヤバすぎる。
俺はいま初級魔法しか使えない状況だ。
レニアさんも剣術だけの勝負はかなり厳しいものになるだろう。
そんな時だった。
ずずず、と何かが這うような音がした。
最深部。その空間にあった大き目の穴から、そいつは這い出てきた。
「あ、あれは......!」
いつもならすぐに魔獣について教えてくれるアンリスさんがうろたえる。
俺が何十人分かもわからないそのおおきな巨体。
にらめつけてくるような目。
口からしゅるしゅると出る舌。
蛇。否、大蛇。
それこそが、このダンジョンの主だった。
「アシッド・スネーク......です。
口から少量の腐食性の粘液を放出してきます。
少量ですが、強力で、即効性があります」
口から......ねえ。
腐食性。溶かす力。
いやでも思い出してしまう。
あのグラッシュ・ルーズを。
「嫌な相手だな......」
レニアさんはぼそっと呟いた。
「やるぞ、二人とも」
「「はい!」」
文字にできないような雄たけびを発し、アシッド・スネークはしっぽで俺たちを薙ぎ払うように攻撃してくる。
これは、嫌な相手だな。
俺たちは、すぐにずれてそれを回避する。
二人がアシッド・スネークの背後に回るのに対し、俺はアシッド・スネークの正面に動いた。
グラッシュ・ルーズとアシッド・スネーク。
いやでも重ねてしまう。
まるでこの戦いがリベンジ戦のように感じる。
だから、当然。
したいことがある。
「リベンジを......」
俺はあの攻撃。
防がれたあの攻撃が通用するのか、それが知りたかった。
「【氷石:速射】!」
グラッシュ・ルーズには酸で防がれたこの攻撃。
同じようなコイツに、一撃でも与えたい。
そんな意思の乗った攻撃。
俺の目線からアシッド・スネークへ。下から上へ氷の雨が降り注ぐ。
前回とはまるで逆の立場からの攻撃だった。
放った後のことと外れた時のことを考えて、最長の十秒ではなく、約三秒間。
その時間に注ぎ込んだ。
「どうだ......!」
かなり疲労はしたが、まだ大丈夫。
さあ、通ったか?
アシッド・スネークを見る。
その額にはかすり傷のような、僅かに攻撃を受けたと思われる傷があった。
よし!
通った!
上級魔獣に、ちゃんとダメージが与えられたぞ!!
引き続き攻撃を......一旦二人と合流しないと。
二人はまだアシッド・スネークの背後にいた。
じゅう。
音がする。
二人を確認し、足を動かそうとする。
だが、動かない。
なんでだ?ビビっちまってんのか?
そう、視点を下へとずらす。
「え......」
足が溶けている?
俺は、そのままうずくまる。
「ああああああああ!」
いつやられた。
さっきの音、あれは聞き間違いじゃなく、俺の足を溶かす音だったのか。
そんな考えを痛みが支配していく。
「トオルくん!」
二人が駆け寄り、アンリスさんは即座に【明瞭な再生】を詠唱する。
「私がおとりになる。アンリス、頼むぞ!」
「はい!」
アンリスさんは俺を抱えて、端の方へと移動した。
少しずつではあるが、痛みが引き、足が根本から生えてきていた。
「大丈夫ですか?」
「はい、ありがとうございます」
「一旦、ここで治るのを待ちましょう。
レニアさんがやってくれるはずです」
アンリスさんはそう言って、詠唱を続けた。
何もできない俺は、ただレニアさんが戦うのを見ることしかできなかった。
まるで、プロの運動選手のような身のこなしで攻撃をかわし、狩人のようにその剣で突き刺し攻撃をしている。
もし、俺があんな風にできたら。
もし、俺に平均を上回るような力があれば......。
そう、ないものねだりをしながら、ただただ観戦を続ける。
「クソッ!!」
レニアさん。おされている?
当たり前の話である。
攻撃をかわすとて、かすり傷は負う。
それを回復するはずのアンリスさんは俺につきっきりだ。
攻撃をするとて、魔法が使えない。
ただの剣技のみで上級魔獣と戦っている。
縛りプレイで戦っているようなものだ。
いくらレニアさんが上澄みの剣士であったとしても、難易度は異常だ。
「なっ」
剣が、折れた。
ぽきっと、剣先がなくなる。
「レニアさん!」
思わず叫ぶ。
「アシッド・スネークの皮膚はかなり硬いんです。
前回も同じ相手だったので、剣がかなり消耗されていたのかも......」
本来であれば折れるはずの剣。
それが硬いものを切るのに酷使されすぎた。
いくら剣ともいえど寿命を迎える。
それが今日、このタイミングだっただけの話だ。
「レニアさん!引いてください」
アンリスさんはそう叫ぶが、そう行動する力はおろか、それに応答する力すら残ってはいないようだった。
レニアさんはその場にへたりこむ。
ただ死を待っていた。
「俺だ......」
過去の俺。
グラッシュ・ルーズと戦っていた、あのときの俺を見ているようだった。
何かできないのか!?
悠斗のように、俺を救った、彼のように.....!
思考をめぐらす。
足は治りきっていない。
ここからの移動はできない。
アンリスさんの足は止まっている。
俺がやらなければならない。
ここからレニアさんを救い、あいつを倒す選択。
「......!」
一つのアイデア。
一か八か。
悠斗が言っていた会心の一撃。
あの時は千撃くらいにはなっていたけど、今回はちゃんと一撃で。
初級魔法が通用したんだ。
じゃあ、中級魔法は?
胸が高まる。
まるで、本当のリベンジマッチみたいだ。
「【氷結槍】......!」
五つの氷の塊。
俺ができる最大生成数のそれが、まるで一つになるかのように一点に凝縮される。
鋭く、おおきなそれは、俺が生成していたゴツゴツとした氷の塊とは全くの別物に見えた。
回転。
まるで、ドリルのように。そうイメージし、回転をかける。
「!」
アシッド・スネークの額に向けて、それを放つ。
それが命中する前、俺はどうしても言いたかった。
今は活躍だとかどうでもいい。
レニアさん。
あなたが言った、あのことを。
「レニアさん!
敗北なんて、いらないはずです!」
俺はただ、あなたに。
悠斗が俺を救ったように、今度は俺が。
「俺たちが欲しいのは、完全勝利です!」




