第一話 花の都フローリア
妖精と契約をして力を使う国フローリア
その国の王の秘密の番人と呼ばれる貴族令嬢の苦労のおはなし。
ーー花の都フローリア
年中が春めいた美しい花畑の国。
他国からは『花束の国』と呼ばれるほど美しいこの国の人々は、皆花の力を操れるとされた。
体内に貯めた魔力を放出することで操れる魔法とは違い、花の力はその人が生まれた時に『花の妖精』に見初められ、その妖精との契約によって引き出されるもの。
自然を癒し、水を清める等、癒しに特化した力だ。
また血筋を重んじる彼らは力の強さが明確に貴族階級に依存する。
なぜなら強い力を使える妖精ほど気まぐれだが一途であり、一度気に入った者の血筋とばかり契約を結びたがるからだ。
つまり、精霊魔法を使えることには皆使えるが、実用的に使えるとなると貴族以上の身分の者に限られるのだ。
その為この国は女王を筆頭とした貴族階級が厳格に敷かれている。
しかし稀に『建国の女王アーネスト』の生まれ変わりとされるものが現れる。
その者は『大精霊ホワイトローズ』と共に国に更なる繁栄と豊かな自然を与えるとされ、どのような身分であっても王族に保護され貴族社会への参加を許される。
それは光栄なことであり、名誉であり、そして過去選ばれた人は皆女性であることからこう呼ばれるのだ。
『蕾の王女』とーー
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「ーーということです、お分かりになりましたか?」
「はあ…とても、光栄なことだと存じます」
あまりに壮大で偉大な話に付いていけていないことを隠しもしない、淡白な返事が教室に響き渡った。
「な、ちゃんと聞いていましたか!?」
「そうですわ、わたくしたち先生に言われて平民から転校してきたあなたにこうやって」
「親切にこの国の成り立ちや貴方の立場をですね」
「はい、それはもう耳が痛くなるほど転校する前に聞きましたので…」
ふう、とため息をつくのは先程の話に出ていた偉大な転生者張本人『クラーラ』だ。
クラーラは良くある話だが平民出身で、しかし生まれた時から一緒にいた妖精が大精霊だったことが国にバレた為本日からこの貴族の子女だけが通える名門校に転校させられたのだった。
「しかしまあ、存外マナーなどは問題なさそうですね」
「ええ、平民なんてもっとガサツかと」
「それは腐っても女王陛下の生まれ変わりということでしょうね」
そこを信じているのに、不遜な態度は変えないクラスの令嬢たちに苦笑いしつつも、嫌がらせをする気配や悪意を感じないことにクラーラは気が付いていた。
「それで本当に私を心配して声をかけてくれただけなんですね、ありがとうございます」
「それは…まあ、心配ですから。馴染めないとか、思われても嫌ですし?」
ふん、と鼻を鳴らす彼女たちは男爵令嬢だと言っていた。
正直平民出身だからといい感情は持たれないと覚悟をしていたクラーラにとって良きクラスメイトとなってくれそうだ。
「えっと、ではこの学校で気を付けることはそれくらいですか?」
何はともあれ今日は転校初日、疲れもたまっているしここに来るまでに起こったことも整理したい。
ふんわりと会話を終えようと言葉を紡いだ瞬間、一瞬3人が顔を強張らせたのをクラーラは見逃さなかった。
「……あの、どうかしましたか」
「あー…そうですわね、一応あなたは仮にも『蕾の王女』ですしお伝えしておきましょうか」
わざとらしく大きな咳をした男爵令嬢たちは顔を見合わせながら、これまたわざとらしいほどのひそひそ声で言葉を紡いだ。
「影の王侯貴族、シュヴァルツ家をご存じですか?美しい容姿の一族なのですが、王家の秘密を守るものと言われ謎に包まれております」
「噂では『蕾の王女』を選定し、相応しくなければ処刑をするだとか」
「一説では裏で王家を操っている噂もございましてよ」
これにはクラーラに固唾を飲んだ。
クラーラはここに来るまで下町でパンを焼いていた。荒くれ者が多い地域で、治安が悪く大抵の物騒な噂や事件には大抵慣れていたつもりだ。
けれど、王家に関する話となれば別だ。しかも自分が関係するかもしれないとなると緊張も浮かぶ。
「それで、私はひっそりと監視されて…相応しくなかったら殺される、とか?」
これからの学校生活における最重要課題かもしれない、ハッキリさせておきたいと言葉を選ばずに問いかける。
「あ!いえ、そんなそこまでは分かりませんが…っ」
「実は、その…クラスメイトにいらっしゃいますの」
「今は領土にお戻りになられておりますが、件のシュヴァルツ家の令嬢ーー」
「ーーあら、あたくしに何か御用ですか?」
「ユリアーネ様っ!?」
三人が絶句しながらも名前を叫んだことで、ユリアーネは妖しく微笑んだ。
首筋まで来ていた冷や汗を隠しながら…
次回ユリアーネが何で冷や汗をかいていたかがわかります。