初戦、時間停止使い ③
ウサギはゆっくりと建物に入り、警戒しながら周囲を見渡した。
(……アイツは能力も何も持ってないはずなのに、なぜか怖い……驚きはしないさ。相手はゲン・ゴットだ)
頭上から物音が聞こえた。ウサギは銃の形に手を構える。
「『K』!」
光の球体が弾のように建物全体を貫いたが、何にも当たっていないようだった。
(『静寂空間』を使うのは怖い……アイツはすでに何か策を練ってるはずだ)
階段をゆっくり上りながら、再び物音が聞こえた。
「『K』!」
今度は頭上から「いてっ!」という声が聞こえた。
(当たったのか!? いや……ブラフか? まぁいい、ペースを上げよう)
ウサギは階段を駆け上がり、三階に到着したが、人影はない。
(このビル、そんなに大きかったっけ? 10階建てくらいか……屋上まで追い詰めればいい)
四階、五階──まだゲンの姿は見えない。六階に差し掛かった時、再び頭上から声が。
「『K』!」
「いてっ!」という声が響いた。
ウサギは階段を駆け上がった、七階で床に血痕を発見した。
(血……? 待て、やっぱり当たってる! 逃げようとしてるんだ! 出血があれば遠くまで行けない……もう逃がさない! 『静寂空間』!)
時間が止まった。
(連続使用には間隔が必要だ……屋上まで追い詰めるのに十分な時間だ)
五秒間で八階、九階、十階へと駆け上がった。
(あとは屋上にさえ行けば……もう一度『静寂空間』を使えば追い詰められる……って、動けない!?)
屋上階段からゲンが現れ、ウサギと顔を合わせた。
「……終わりだ、ウサギ。だが真相くらいは教えてやる」
「まず、お前の『K』は一度も当たってない。演技だ。急がせるためにな。床の血は俺がナイフで自分を切ったものだ。『静寂空間』の時間を無駄にしたくなかったから見せなかっただけ」
「お前が七階で時間を止めた時、俺はすでに屋上にいた。ビルの一階あたりの高さは約3メートル。お前の『K』の射程は10メートル程度だろう。屋上まで12メートル離れていれば、光の球は届かない。あとはお前ができるだけ近づくのを待ち──」
「球体が広がり始めた時、つまりお前の5秒が終わった瞬間、それを斬った。計算通り、お前は血痕に釣られて十階まで来た……そして罠にかかった」
「今、俺とお前は至近距離だ。残り3秒……今度こそ、確実に殺せる」
ウサギは悟った。
(……そうか、負けた……またか。だが、やるべきことがある)
ゲンがナイフをウサギの心臓に突き刺す。
「……勝ったな」
しかし『静寂空間』が解けた瞬間、ウサギは最後の力を振り絞ってゲンの額に触れた──そして息絶えた。
ウサギの遺体を見下ろしながら、ゲンは思う。
(……なぜだ? この感覚は……初めてのはずなのに、まるで前に人を殺したことがあるみたいだ……元からこういう人間なのか)
次の瞬間、ゲンとウサギの遺体は、ビルも何もない真っ白なプラットフォームへと転送された。周囲には巨大な観客席──神々か何かが歓声を上げ、野次る者たちの怒号も混じっている。
(こいつらが神か……マグバルもいる。全部が神とは思えないが……他の参加者か? マグバルは「重要な神々だけが参加者を選ぶ」と言ってたな。なら他の連中はただの観客だ。ウサギを選んだのは誰だ? ……どうでもいい話だ)
上空では巨大な目がゆっくりと閉じ、消えていった。その大きさは計り知れない──遠近感さえ混乱させるほどだった。
(あれが……神か)
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