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英雄譚  作者: 鈴木 雫
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第八十二話


(間話―成立)

・レオニス視点


 知らない空間に出た。

 すべてが黒で塗りつぶされたその空間は、光を遮断し、視界を妨げる。

 おかしい。先ほどまで、施設に居たはずだ。

 『顛末』を発動するために。

 それがどうしたんだ?なぜ、こんなところに俺は居る?


「やぁ。小さな小さな人間君。」

「誰だ?」


 声だけが響く。

 その姿を見ることはできない。


「僕は管理人という役職についている者さ。質問が多そうな顔をしているね。」

「そりゃ…」

「だけど、待って欲しい。すべてを話すかは君の決断次第だ。」

「どういう意味?」

「今から君に試練を与えよう。それを達成すると約束するならば、力を与え、導いてあげる。」

「内容による。」

「そうだよね。正しい判断かもね。僕が与える試練はね、君の妹。イザルナ・アルドリアとレンジ・セレシアを殺すことさ。」

「なぜだ?」

「それは答えられない。君が選択しないと。やるのかい?やらないのかい?」

「やる。」

「即答か。冷静だね。可愛くない。」

「やると言ったんだ。質問に答えろ。」

「もちろんいいよ。たまに世界にはバグと言われる存在が誕生する。そのバグは、運命を捻じ曲げ、めちゃくちゃにしてしまうんだよ。だから、二人を殺さなくてはいけない。」

「運命…?」

「そう。その辺はあとで頭に叩き込んであげるよ。僕の『権限』と同時にね。殺すのは彼女らが『魔法』を行使した際にだ。『精神操作』これをやられると【アルドリア】が負けてしまう。それだけは避けたい結果だからね。」

「分かった。俺はあんたに従うよ。」

「それと君のことだ。」

「俺の?」

「そう。今君は霊体なんだ。魂だけの状態と言い換えてもいい。さっきの『顛末』のせいでね。」

「そうか。リバウンドが予想以上に強かったのか。」

「そうだね。でも、安心して。その代償は僕が払ったから。」

「それは…ありがとう?」

「でも、君が死んでしまった事実は変わらない。そこで、君に『蘇生』の『権限』を与える。生物に『権限』を与えることで、魂をこの世に留めることができる。そして、君は任務終了後に管理人として君臨してもらう。」

「なぜ、そこまで決めておくんだ?」

「生物に『権限』を付与することは禁止事項なんだ。君が将来的に管理人になれば、問題ないでしょ?それだけの理由だよ。」

「そうか。分かった。」

「やけにあっさりしているね。」

「そうりゃそうだろ。俺はやると言ったんだ。やらないではなく、やると。この言葉はひっくり返せない。」

「…良いね。予想以上に良い人材を確保したみたいだ。僕は幸運だね。」

「【アルドリア】は勝てるのか?」

「君がしくじらなかったら勝てる。間違いなく。それまでの道のりは、『顛末』に従うと良い。」

「分かった。」

「その歳で故郷のために死ぬことを決断するのかい?大した愛国心だね。」

「当然だ。俺は、王家の人間だ。第一王子なんだ。この身一つで国を守れるのなら本望だ。未来も何もいらない。」

「うん。感心する。子供とは思えない英断だね。」

「子供相手に商談が成立してうれしいか?」

「なかなか棘のある言い方だね。そうだよ。うれしい。大体は僕の予想通りになるだろうから。」

「そうか。」

「質問しないのかい?」

「俺は『顛末』に従う。」

「うん。良い判断だ。」

「俺を元に戻せ。」

「良いとも。君とは同僚みたいな関係だしね。持ちつもたれずの関係で行こう。君との関係は成立した。」


 目を覚ますとそこは先ほどまで居た施設だった。

 周囲には誰も居ない。彼らは、『顛末』の材料になったわけか。


「ぐぁっ!!!」


 なんだ!?

 頭が割れそうだ…。

 頭痛なんて言葉で言い表せる現象じゃない。

 頭痛と同時に情報が流れ込んでくる。

 管理人について。『権限』の運用方法。レンジ・アリセナとイザルナ・アルドリアについてのこと。

 何もかもの情報が頭に流れ込んでくる。


 頭痛が終わるころ。

 それは太陽が山に隠れてしまって、ひんやりとした風が森の中を徘徊し始める時間。

 目の前に見えない死体が転がっている。

 これが魂とか言うやつか。

 これを視認できるということは、『蘇生』の力を受け取ったことと同義だ。

 光源がないその場所で、一人寂しく『権限』をささやく。


『蘇生』


 ついてきた従者を生き返らせる。

 彼らは、地面から体を生成し、魂を吹き込まれ自我を形成する。

 彼らの多くは戸惑いを隠すとこができない。

 しかし、彼らは信じている。

 目の前の、次期王。レオニス・アルドリアの秘策なのだと。

 もっとも、冷静に考えてただの子供にそんな芸当ができるわけないと普通の思考回路ならば思うだろう。

 しかし、彼にはそれをできると思わせる何かがあった。

 常人では理解不能な忠誠心、愛国心、倫理観。

 それらすべてが彼を取り巻く、魅力だった。


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