第八十話
(間話―世話焼きな人柄ゆえに②)
・オルメンド視点
馬車には御者と私、レオニス様、ルシェル様が乗っていた。
説明をいただけるらしい。
「前から考えていたんだ。イザルナのことを。あいつの管轄はなぜか俺でな、考えることが多くてかなわん。イザルナは最初こそ幼女好きな貴族に受けていたが、最近は泣きも喚きもしないから苦情が来るようになってな。気味が悪いと。そこで代替案を考えてたところだった。」
王子の言い草に腹が立つ。
パンチでも打ち込もうか悩みどころだ。
「そこでお前だ。顔立ちも悪くないし、問題ないだろう。共通のルールを決めておこう」
「ルールでございますか?」
「ああ。イザルナにバレるな。怪しまれるな。分かったか。」
「分かりました。」
「よし。良いだろう。今日行く、貴族は変わった性癖の持ち主でな。女体を傷つけないと興奮できないらしい。なぁに安心しろ。鞭打ちでもさせておけばすぐに終わる。朝、迎えを寄越す。それまで耐えれば問題ない。明日からは自分で行け。馬車は手配してやる。」
朝までは半日近くある。
それまで耐えられるかどうか、そして明日からも。
「お前、経験は?」
「…一度だけです。」
「じゃあ、気に入られるかもな。あいつは、幼女を虐める趣味はないからな。お前くらいの年齢がベストなんじゃないか?良かったな、代わりになれて。」
「はい。誇りに思います。」
「そろそろだ。用意しろ。」
馬車から降ろされ、門の前で一人になる。
門の前では女性が待っていた。
格好からしてメイドかなにかだろう。
「どちら様ですか?」
「はい。王宮から参りました。」
「どうぞ。中へ。」
「失礼いたします。」
さすが貴族の家だ。
王宮と比べれば小さいものだが、普通の家を考えるとかなり大きい。
「あれ?イザルナ様は?」
「申し訳ありません。私が本日よりお仕事をさせていただきます。」
「へぇ~。」
太っている貴族は私を頭から足先まで舐め回すように見るとにやりと笑った。
気持ち悪い笑みだ。
「じゃあ、ついてきて。」
「かしこまりました。」
連れていかれた部屋は、拷問器具が並んでいる異常な部屋だった。
壁と床には血液が付着し、ベッドは異様に汚い。
ここに入るのすら嫌だ。
「いや~、レオニス様が配慮してくださったのかな。イザルナ様は子供過ぎてね、どうにも燃えないって言うか。良かったよ君みたいなお姉さんが来てくれて。美人だし。」
「恐縮です。」
「いくつ?」
「21になります。」
「良いね。完璧だ!朝には帰っちゃうんでしょ?早めに準備しないと!服脱いで。」
全裸になり待機する。
手招きされた場所で器具を取り付け、天上からつるされる。
「こういうのが一番好きなんだよねぇ~。最近、我慢してたからさぁ思いっきりやるよぉ。」
「分かりました。存分にどうぞ。」
その先は思い出したくないくらいの恐怖だ。
背中の皮がなくなるまで鞭を打たれ、正面からパンチを貰った。
顔はやめて欲しいと伝えると、その分他の場所で我慢すると言われた。
全身に痣が定着するころ、ベッドへと捨てられるように投げられ行為を受け入れた。
これに毎日付き合っていたお嬢様は病むに決まっている。
でもあの子の笑顔を見るために、主を守るために私は心からこの行為を受け入れよう。
ようやく朝になり、馬車へと帰る。
「いやぁ~よかったよ。また、頼むよ。」
「ありがとうございました。では、また。」
「出資のし甲斐があるね。」
「?」
「あ、しまった。聞かなかったことにして。」
「かしこまりました。」
馬車に乗り、一人だけになる。
御者は乗っているが、こちらを見ていない。
置いてあるバケツに嘔吐する。腹に入っていた、恐怖や憎悪を吐き出す。
空になるまで。
異性から向けられる欲望をこんなに軽蔑したくなったのは初めてだ。
純粋な恐怖。そこらの処刑人が可愛く見える。
人間の本性とは恐ろしい。
馬車を降り、『回復』の『魔法』をかけてもらう。
これで全身の傷はないはずだ。
部屋へと戻り、食事の準備をする。
もちろん徹夜なので、昼頃に寝ようかと思う。
眠っているイザルナ様の額に手を当てて考える。
きっと目的を見つけることができる。
きっと頼りたくなる仲間を見つけられる。
きっと触れていたい人を見つけられる。
人生に意味を見出せる。
彼女はもっと自由なのだから。私程度の体でそれを補えるのなら、神は彼女を見放していないってことに違いない。
もっと少女は笑うものだから。
私に後悔することがあるとすれば、もっと早くに彼女を救うために動かなかったことだ。
見て見ぬふりをして、帰るあなたを笑顔で迎える。そんなのは、加害者と一緒だ。
主に対してそんな無礼はできない。
もしあなたに、明日を望む心があるのなら。私は今日の汚あいをこの身で受けよう。




