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英雄譚  作者: 鈴木 雫
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第八話

 松明を持つ、兵士を見つける。

 ガルフォードが静かに近づき、喉を掻っ切り地面に寝かせる。

 死人と目が合う。そのなんとも言えない顔に背筋が凍る。

 一言も話さずに中へと進んでいく。静かに。足音一つ響かせない彼らの歩みは怖いくらいに手慣れていた。


「侵入者だ!」

「配置に付け!」


 様々な場所から怒号が聞こえる。

 向こうはうまく立ち回っているのだろうか。

 通路では数人とすれ違った。ガルフォードの有無を言わせない行為が少し怖い。

 開けたところに出ると、共和国から連れてこられただろう者たちが押し込められていた。


「共和国人の皆さん!こちらに続いてください!」


 誰もが警戒をして、続こうとしない。全員の視線はイザルナではなく俺に向いていた。視線を向けているだけでなく、何か第一声を待っている様子だった。


「こちらに来てください。共和国に送り届けます。」


 俺が声をあげる。

 静まりかえったその場所で一人の女性が走り始めた。

 救済を求めて、帰国を求めて、懇願するように。

 それに続くように、走り始める人数が多くなっていく。どんどんと。広間から人が居なくなるまで。

 ガルフォードとイザルナが先導する。しんがりを俺が務める。

 外に出て、川に浮かんでいる船に乗せる。

 小さい船が10艘以上ある。それぞれ、運転手が乗っていて海まで運んでくれる。


「落ち着いて乗ってください!押さないで!」


 何十人もの人を船に乗せる。


「姫!魔法師が来ますよ!」

「やばい!2人も来る!姫!」

「すぐに馬の用意をして。フィリスとガルフォードは船で海まで行って。残りは馬で時間を稼ぎながら陸路で海まで向かうから。」

「「分かった!」」


 ギルとジルが着ていた服は血しぶきを浴びたのか、赤い斑点が付いていた。

 水の匂いに生臭い生物の独特な匂いが混ざった空気。吐き気を催すような光景を五感が忘れることはないだろう。

 船は進みだす。10艘の船は海に向けて。


「レンジは私と来て。ジルとギルは一緒に動いて。海で合流しましょう。」

「「はいっ!」」

「わかった」


 ここで別れる。魔法師なんて見たことがない。でも、戦場でみた馬鹿みたいにでかい魔法を行使できるのなら剣で太刀打ちできるとは思わない。

 一頭の馬に2人で乗る。俺は乗馬ができないから。

 立派な馬に足をかけ、走り出す。成人が二人乗っているとは思えない速度で。


「戦闘の準備をしておいて。レンジ。」

「分かってる。」


 風を切りながら、進む中でイザルナは冷静だった。冷静に見せかけているだけかもしれない。さっきから、汗が止まっていない。よく見ると鎧の上からでも分かるくらいに震えている。


「イザルn」

「集中して。」

「わ、悪い…」


 余裕のない彼女の表情から、深刻を理解する。


「待てよ。逆賊。」


 馬の前に一人の男が立ちふさがる。

 仮面で顔を隠し、地面につきそうな服を着ている。声からして男性だろう。


「そこをどいて。」

「あ、あなたは!イザルナ・アルドリア様ではないですか!?やはり、噂は本当なのですね…」

「どんな噂を聞いたか知らないけど、邪魔しないで。」

「そうはいきませんよ。噂が本当なら。連れ帰らせていただきます。」

「行くよ。レンジ。」

「あ、ああ!」


 イザルナにしがみつくと馬は全力で走り始める。仮面の男の横を走り暗闇へと逃げ出す。


「そうはいきませんよ。姫様を発見した。至急応援を頼む。」


 後ろから独り言が聞こえる。それを置き去りにして、馬は走る。走り慣れないであろう獣道を。


「『氷』」


 馬が急に転がり、地面に叩きつけられる。イザルナを守るように抱えて地面との衝突を最小限にする。


「痛っ!」

「大丈夫!?レンジ!」

「な、んとか」


 激痛はやがて全身を包み込む。どこを向いても痛い。何をしていても痛い。起き上がると仮面の男は歩いてこちらに来ていた。


「急ぐと危ないですよ。姫様。」

「くっ…」

「おとなしく投降されては?」

「…」


 やけに周りが寒い。口から白い空気が出る。地面もツルツルだ。


「こんなことをしているのがおかしいと感じないの!?」

「こんなこと?面白いことを言いますね。姫君は。【共和国】を戦場に変えたのは王家ではありませんか。」

「だから!王家の人間である私が止めなくては!」


 剣を抜いて、前に立つ。イザルナを隠すように。


「レンジ…?」

「戦おう。」

「勇ましい側近ですね。でも、弱い。」

「二対一でも勝てるのか?」

「魔法師にとって二人程度誤差だ。」

「殺ろう。イザルナ。」

「え、えぇ!」


 イザルナも剣を取り、横に並ぶ。

 恐怖を剣に込め、突進する。


「『水』」


 目に水滴がつく。体も湿っている。

 剣を振りぬき、頭を転がす。転がった頭は水になり、そのまま地面に吸収される。


「な、」

「本当に勇ましい。共和国人でないのなら我が軍にほしいくらいだ。」

「レンジ!あぶな」


 背中から強い衝撃が走り、地面に転がる。

 赤い液体が背中から流れる。それが全身をつたって地面に垂れる。周囲の草を赤色に変える。


「レンジ!」


 イザルナの足音だけ聞こえる。


「レンジ!レンジ!」

「側近は死んでしまいましたよ。姫様。さぁ、帰りましょう。このようなことを続けられても不毛なだけです。」

「私は…この国のあり方に納得しない!」

「そうは申しましても。この国の思想と【共和国】では分かり合えないのです。」


 イザルナの声を片耳に、だらけきった体を無理やり起こす。戦場において、最後まで剣を持っていた者が強者なんだ。


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