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英雄譚  作者: 鈴木 雫
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第七十九話


(間話―世話焼きな人柄ゆえに)

・オルメンド視点


 初対面の印象はとても重要だ。

 代えがたいその経験は人を一生呪縛する。

 私が初めて少女に会ったときの印象は、可哀そうだった。

 単純に一言で表したが、最も表現が難しい第一印象だったのを鮮明に覚えている。

 目は虚ろで、気力がなく、毎日異性とのやり取りを強要される。

 それ故に、生きる目的がなく、いつも床で助けを待っていた。

 窓のないその部屋は、彼女を閉じ込めておくには最適だったかもしれない。でも、その少女は従順にそれに従っていた。

 そんな少女が見るに堪えないほどに可哀そうだった。

 確かに、私にはそんな経験はない。想像もできない。救済できる力もない。

 だた純粋にメイドとしてではなく、一人の人間として手を差し伸べたいと思った。

 毎日話しかけた。

 返事はなく、ただの独り言が空間に響くだけ。

 彼女の心には響かない。反響できる壁が羨ましいくらいだった。

 でも、諦められなかった。だって、そうでしょう?主である前に、彼女は幼かった。だから、それに同情した。

 話しかけている間に、顔色が変わっていた。

 人を信用しない。愛情を知らない。誰も必要としない。

 そんな顔から、

 誰かに助けて欲しい。誰かに必要として欲しい。誰かに抱きしめて欲しい。

 言葉にできない表情を浮かべるようになった。


 いつしか、声を聞かせてくれた。

 その声はか細く、弱く、飛んでいきそうな吐息のようなものだった。

 甘えてくれた。

 膝枕をして、抱きしめて寝た。

 絶望の少女はちゃんと暖かかった。

 いろんな話をすることができた。

 でも、ある日。何とも言えない表情で帰ってきた。

 フォークを貸して欲しいと言うので、手渡すと己の首へと突き刺そうとした。

 躊躇や戸惑いのない攻撃は、氷に触れるよりも冷たかった。

 口論になった。決して、軽い気持ちで言い返せるものではなかった。

 少し話せるようになったからと言って、酔いしれていたのかもしれない。自分は少女を救うことができたのだと。

 でも、甘かった。それよりも彼女の内面は死を望んでいたのだから。

 一緒に寝た。寝るまで、泣き叫んだ少女はもう異性を受け付けていなかった。

 でも、彼女には仲間が必要だ。強力な仲間が。

 その一号として、火の粉は払いのけなければならない。


 お嬢様が寝たので静かに廊下に出た。

 普段ならば、貴族の屋敷へと向かう時間だ。

 でも、まだ寝かせてある。


「よぉ。お前か?妹の新しいメイドは。」

「はい。オルメンドと申します。初めましてですね。お見知りおきを。」

「はいはい。よろしく。よろしく。イザルナは?」

「お嬢様はお休みになっております。」

「起こしてもらえる?時間だからさ。ダルモンドが俺に泣きついてきて、可哀そうだろ?」


 お嬢様の兄。レオニス・アルドリア様だ。

 第一王子ということで次期国王に最も近い人物だ。


「申し訳ありません。その御命令には従えません。」

「は?面白くない人だな。起こせ。」

「いえ。できません。」

「はぁ。犬のしつけがなってないと大変だよな。面倒だなぁ…。まぁ、いいや。自分で起こすから。どうせ駄々こねてんだろ。ルシェル、薬持ってこい。」

「はい。かしこまりました。」


 そういうことか。

 先日自害しようとしたのは媚薬か何かを飲まされたからか。

 残酷なことをする。


「そこどいて。」

「…できません。」

「どけっつてんだろ。」


 腹を蹴られて、扉の前を離れてしまう。

 喧嘩すらしたことが無いので、初めての経験だった。


「…何してんの?」

「申し訳、、、ありませんが、、、お嬢様は、寝ておられますので、、、」

「知ってるよ。さっき聞いたから。なんで俺を掴んでるのか聞いてんだけど?」


 立つ時間がなかったので、地面に寝転がったままレオニス様の足を抱きしめるように止める。


「なぜ、、お嬢様、、に、、あのような、、、ことを、、、?」

「一介のメイドには関係ない。離せ。」

「できません。」

「そうかよ。ならば、解決策を提示してみろ。この状況のだ。」

「それは…」

「できないよなぁ?じゃあ、離s…いや、待てよ。面見せろ。」


 レオニス様はその場にしゃがみ、私の上げを持ち上げて顔を見る。

 何かを考えている様子だ。


「いや、解決策はあるな。よし、お前が決めろ。」

「な、何を…」

「お前がイザルナの代わりに今晩から貴族の屋敷に行け。そうすればイザルナは見逃してやる。」

「分かりました。」

「くく、即答かよ。面白い。お前が弱音一つでも言った次の日にはイザルナを行かせる。分かったな。」

「それで主が助かるなら本望です。」

「良いだろう。一件落着だ。着替えて馬車に乗れ。そこで事情を話す。初回だからな。説明くらいしてやる。」


 一番綺麗な私服へと着替え、門の外に止まっている馬車へと乗り込む。

 レオニス様は不吉な笑みを浮かべていた。


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