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英雄譚  作者: 鈴木 雫
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第七十八話


(間話―破綻④)

・イザルナ視点


 昼前に帰ってきた。

 薬の効果が切れたと感じたころにはすべて終わっていた。

 しかも、その間の記憶も、意識も鮮明に残っている。

 貴族の男はまたお願いしますとかぬかしてきた。

 もう嫌だ…。こんな自分が嫌だ…。

 立場も生まれも思考も。すべてが嫌いだ。

 部屋に帰る。でも、全然うれしくない。

 昨日の出来事が自分を支配していた。


「おかえりさい。お嬢様。」

「……」

「お嬢様?」

「そこのフォーク取って。」

「は、はい。」


 フォークを手渡してもらう。

 迷わずに自分の首めがけて突き刺した。

 はずだったが、オルメンドが手で防いだ。


「何をしているのですか!?」

「……」

「そんなことをしたら死んでしまいますよ!?」

「…もういい。」

「何を言っているのですか!?」

「早く、フォーク頂戴。」

「ダメです。これは当分お渡しできません。」

「じゃあ、どうするの?」

「……」

「どうすればいいの?」

「それは、」

「どうすれば正解なのって!!」

「お嬢さm」

「毎日!毎日!!毎日!!!あんなことして!!!どうすれば私は、自分を好きになれるの!?どうやって普段を乗り切ればいいの!?教えなさいよ!!!」

「お嬢様。」

「何!!!」


 そっと抱きしめられる。

 ああ。やっぱり違う。他の人とは決定的に何かが違う。


「心無い発言をお許しください。私には理解できていなかったみたいです。申し訳ありませんでした。」

「うわぁぁぁん。」


 子供らしく胸の中で泣いた。

 すべてを吐き出して、忘れるように。

 大声を上げながら。

 縋りつく思いで。


 目を覚ますとオルメンドの胸があった。

 ベッドに寝ているらしい。

 オルメンドがずっと頭を撫でてくれていたらしく、髪の毛が乱れている。

 オルメンドの胸に頭をこすりつける。


「おはようございます。」

「…うん。」


 かすれた声で返事をする。


「あのまま寝てしまわれたので。ベッドまでお運びいたしました。気分はいかがですか?」

「…よくない。」

「そうですか。では、もう少し眠りましょうか。」

「…今日の予定は?」

「そうですね。後で聞いてまいります。」

「…分かった。」


 寝息をたてながらすぐに眠ってしまった。


「おはようございます。朝になりましたよ。」

「…朝?」

「ええ。朝食の準備ができております。いかがしますか?」

「あれ?昨日の夜は?」

「はい。昨晩の予定はなかったみたいなので、起こしませんでした。私は仕事がありましたので夜分に抜けさせていただきました。」

「そうなの…。」

「ええ。お食事、いかがしますか?」

「いただきます。」

「かしこまりました。」


 いつもより体が軽い気がする。

 気分も晴れている。

 オルメンドには感謝している。今後もお願いしたい。


「お嬢様。」

「何?」

「僭越ながら、提案がございます。」

「そうね。私も同じことを考えてた。」

「そうですか。では、改めて申す必要はございませんね。」


 オルメンドが気づかせてくれた。

 このままではだめだと。

 自分を好きになれるように、進まなくてはいけない。

 私はこの王家を裏切る選択をする。


「うん。オルメンドも…手伝ってくれる…?」

「もちろんでございます。御供させていだたきます。」

「…ありがとう。」

「いえ。当然の行いです。」

「あれ?」


 床に血の跡が残っている。


「何これ?」

「覚えていませんか?昨日の朝にフォークで自害なさろうとしたのですよ。気づかずに申し訳ありません。すぐに拭いておきますね。」


 オルメンドがすぐに拭き去った。

 見間違いだろうか。血の跡が新しい気がした。

 一日どころかさっき落ちたのではないかと思うような液体だった。

 でも、オルメンドがそういうなら間違いないのだろう。


「今後はどうするのですか?」

「そうね…仲間を集めて、何か目標を掲げましょうか。」

「そうですね。」

「私にも役割があるはずなのだから。」

「はい。精一杯御助力いたします。」

「ありがとう。」

「明るくなりましたね。」

「そう?」

「ええ。初めて御会いした際には心配するほどに廃れていましたので。」

「…変われるのかな……」

「必ず。お嬢様ならできると信じております。」

「うん。」

「では、食事を下げますね。」

「本の読み聞かせをしてくれない?」

「分かりました。帰りに本を持ってまいりますね。」

「よろしく。」

「では、失礼いたします。」


 窓もないこの部屋で、何かが光った気がした。

 この光に導かれて、私は外に出たいのだ。

 どうしようもなく、外の景色と心中したい。


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