第七十一話
・レオニス視点
満足だ。
これ以上ないほどに俺は満足している。
やはり最後の騎士に親兵ではなく、ガルフォードを『蘇生』させて正解だった。
彼が負ける確率は考えるまでもないし、彼の死体は教会で拾うことができたし。
「よくやったな。ガルフォード。」
「ありがたきお言葉。」
「もういいよ。お前。」
「…?」
「無知なる屍よ。還ると良い。ガルフォード・ノクターン。君の仕事ぶりには感謝している。来世では下らん情に流されるなよ。」
「レオニス様!?何を!?」
ガルフォードはその姿を砂へと変化させ、この世を去っていった。
彼はこれ以上必要のない人材だ。
だから『能力』を解除する。
「さてと。契約に従い、歴史を執行する。」
これでピースはそろった。
イザルナ・アルドリアの行動。
仲間集め、及びレンジ・セレシアとの合流。
レンジ・セレシアとの接触。
【共和国】でのレイ・セレシアとの接触。
オルヴァニスの失脚。
ロスカーンの目論見。
親兵との戦闘。
本の回収。
教会の失態。
前時代の大英雄レイヴァンの死。
レンジ・セレシアとイザルナ・アルドリアの死。
万事狙い通りだ。
あとは、こいつらの魂を呼び戻し『精神操作』を発動させるだけ。
これこそがこの俺。レオニスが王になるための軌跡だ。
一寸の狂いもない。
『蘇生』
レンジとイザルナが起き上がる。
困惑している。
つくづく救えない駒だ。
今まで踊らされていたことにも気づかずにこの世を去り、俺のために死ぬのだから。
同情はしない。これが最善の結果だからだ。
愚者は聖者の梯子になれば良い。
それ以外は何も求めない。足元で延々叫び続けるが良い。
「『移動』」
目の前から二人が消える。
【アルドリア】の教会へと飛ばした。
これで最後のピースが揃った。
さぁ。始めようか。管理人殿。
「俺が王だ。」
誰も居ない湿気た森の中で高笑いを披露する。
無論恥ずかしくない。誰も聞いていないからではなく、勝利を確信しているからだ。
これで、次の段階へと前進できる。
・レンジ視点
あれ…生き返った…?
というかここはどこだ…。
いや、見覚えがある。
教会だ。【アルドリア】の。夢だった…のか…?
それにしては鮮明だし、長すぎる。
さっきまでの光景は…一体…。
「レンジ!」
イザルナが飛びついてくる。
懐かしいと感じるこの暖かさ。一時は、二度と触れることができないと思っていたから。
やはり、夢じゃなかったのか。
抱きしめ返すと、イザルナはさらに強く抱きしめてくる。
「良かった。良かった!!」
「イザルナ…苦しい…。」
「あ、ごめん。でも、やめないよ。本当によかった!!」
「うっ…」
苦しいけどとてもうれしい。
体が邪魔だと感じる距離。
もっと、ずっと、永遠にこうしていたい。
でも、そうはいかない。
それを両者分かっている。
もし先ほどの光景が夢ではなく現実だったなら、やらなくてはいけないことが一つある。
『精神操作』の発動だ。
これをしてからゆっくりとお互いを堪能すればいい。
「イザルナ。」
「そうだね。考えていることは同じみたいだね。」
イザルナは懐から一冊の本を取る。
その本のためにここまでやってきたんだ。
正真正銘俺たちの切り札。
「最後に何かおしゃべりでもしない?」
唐突にイザルナが提案してきた。
少し驚いたが、話を合わせる。
「何を話すの?」
「そうだな~、なんでレンジは俺って言うの?」
意味が分からない質問に意図がつかめない。
大仕事の前の質問がこんなもので良いのだろうか。
「ただの一人称だけど…そんなことが聞きたいの?」
「良いから。」
「俺…僕、最初は僕って言っていたけど、強そうだし、英雄はみんな俺って言うかなと思って俺って言ってるだけだよ。」
「ふっ、何その理由。」
「笑わないでよ。」
「そうだね。憧れだもんね。」
頭を強く撫でられる。
子供みたいに。甘やかされる。
「じゃあ、発動するよ。」
「え?イザルナの話は?」
「行くよ!」
「ずるいよ…。」
「『精神操作』」
本を開けた状態でそうつぶやいた。
これで誰もが『魔法』の存在を忘れたはずだ。
これで戦争は終わる。俺たちの旅も。
これで俺は英雄になれただろうか。
歴史に名を残すような英雄にはなれなかっただろう。
本に名を刻まれることはないだろう。
誰かに覚えられることはないだろう。
感謝され、認められ、尊敬されないだろう。
しかし、確かに存在し功績を残すことはできたんじゃないだろうか。
多くを助け、強きを砕くことができたのではないだろうか。
レイヴァンのような大英雄にはなれなかった。足元にも及ばなかった。
でも、田舎から出てきて振るえながら戦地を駆け抜けた一人の少年はやってのけた。
偉業とまで言わないまでも、誰かを救うことができたのだ。
多くに尊敬される男ではなく、少々に崇められる英雄になったと信じている。
目を開けるとそこには暗い空間が広がっていた。




