第六十八話
肺に何かが溜まっていると感じるほどの重たい空気。
原因である二人の人間が対面している。
兄と妹。兄弟喧嘩にしてはやりすぎな規模の喧嘩。戦争と言い換えてもいい。
「やはり…御自分のことしか頭にないのですね。」
「くくく…つくづく救えんなぁ。愚妹。もっと視野を広げて考えろ。なんで俺がここに居るのか。なんでロスカーン殿と手を結んだか。もっと考えろ。」
「兄様は!」
「いちいち大声を出すな。御仁の前だぞ。」
レオニスの顔には不気味なほどに安心できない笑みが張り付いている。
机に脚を乗せて、椅子を漕いでいる。
イザルナとはえらい違いだ。
行儀の面で何かを欠いている。
「良いのだ。レオニス殿。彼女はまだ子供。我々の前での立ち振る舞いが理解できていないのでしょう。」
「ロスカーン殿の寛大な御心に感謝しろ。それと、その小僧をロスカーン殿に引き渡せ。」
「嫌です。」
「おいおい、我儘かよ。言うこと聞いとけよ。次期王に逆らうのか?」
「兄様について行く国民が可愛そうですね。」
「最大限の抵抗か。それもいいだろう。お前は口だけは達者だったよな?」
「兄様は!【アルドリア】のことしか考えていません!!兄様こそもっと視野を広げてはいかがです!!!」
「くくく…愉快だな。やはり愉快だ。」
「……」
「何か言いたげだな。言ってみろ。」
「何を企んでる…?」
「おいおい、長男に向かってため口かよ。偉くなったなぁ?」
「どうせ!ロスカーンを使って何かするんだろ!!」
「くくく…やっぱり家族団欒は大切だよな!いつもは牢屋越しでお前はいつもべそかいてたもんな!状況は違うが、やはり良いものだ。」
「クソ…!」
「王家の人間らしからぬ言葉使いだな。いや、王家のお荷物か?」
「……」
「おお怖。お前の護衛。なかなか強そうだな。力比べしたいもんだ。」
「もういいでしょう。レオニス殿。」
「そうですな。」
「連れていけ。」
肩に手が触れた瞬間。
「何!?」
触れた手を吹き飛ばし、驚いて態勢を崩したところに爪で首を刎ねる。
転がった頭は、鈍い音を響かせて他の獣人のところに歩いていく。
首のない死体が我に返ったように地面に倒れ込む。
「やるな。あの小僧。」
「そうであるな。簡単には行きそうもない。」
「イザルナ!逃げよう!」
「う、うん!」
座っているイザルナの手を引っ張り、目の前の獣人を蹴散らして廊下に出る。
廊下の窓を叩き割り、外へと出て飛び去っていく。
館を背にして。
・レオニス・アルドリア視点
「厄介なことになりましたな。」
「いや?」
「どういうことです?」
「はぁ…。十分だ。十分我慢した。もういいか。」
「?」
「犬こっろ風情が人間と対等におしゃべりできると考えているのか?」
「何を…!?」
「てめぇらはおとなしく首輪でもつけてろ。」
「貴様!何を言うか!!」
「もっと分かりやすく言わないとダメか…。困ったな。俺は犬じゃないから言語に乏しくないんだ。」
「殺せ!こいつを殺せ!!」
数人の獣人が飛びついてくる。
腕力に身を任せた単純な攻撃。
戦闘経験が下手にある故に気合だけ乗っているな。
「実力差をみせてやろう。獣共よ。『零度』」
部屋が一面銀世界になった。
作った氷がでかすぎて、部屋を突き抜けてしまった。
どうせ、この犬どもが作ったものだ。
貴重でも何でもない。そのうちこの国は俺の物になるのだから。
「どうだ?犬。」
あえてロスカーンだけは殺さずに氷漬けにした。
顔だけが氷から飛び出ている。
「き、、、さま、、、。」
白い息を吹きながら威勢をはる弱者は実に滑稽だ。
このまま絵にして持って帰りたいくらいに。
「こんな言葉があるよなぁ?騙される方が悪い。俺はこの言葉は正しくないと思う。しかしだ。なんにだって例外は存在する。騙す相手が家畜なら心は痛まない。つまり、騙しても問題ないことになるよなぁ?」
「……」
「口も利けなくなったか。家畜が人間様との喧嘩で勝てるわけねぇだろ。その利用価値のない頭で考えてみろ。おいおいこれは哀れに思うぜ。だって、使ってもこのざまなんだからな。」
「……」
死んだか。張り合いのない。
こんなのと戦争すると聞いた時は度肝を抜かれた。
戦争ではなく虐殺の間違いだろうに。
「失礼します。」
人間が入って来る。
俺の部下だ。
「終わったか?」
「はい。完了しました。」
「よくやった。これでポイントはすべて終わったな。」
「はい。そのようで。」
「イザルナに『魔法』を発動させる。奴らを追い込め。ガルフォード。」
「は!仰せのままに。」
勝った。
まごうことなき俺の勝ちだ。




