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英雄譚  作者: 鈴木 雫
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第六十七話


 港へと到着する。

 誰もいない隠れ家のような港。

 出航した時とは違う港だ。イザルナはよくこんな場所を知っていたな。

 【グレンウッド】。俺の故郷であり、現時点で唯一俺たちが訪れることのできる土地だ。

 【共和国】へ来るのはどれくらいぶりなのだろう。

 故郷の匂いも忘れてしまった。

 今回の件が一段落したら、村に帰ってアリセナ姉にイザルナを紹介しよう。

 また楽観的に考えてしまっているが、今日くらいは良いだろう。


「すぐに、馬車の準備をしようか。ルガンよろしくね。」

「分かった。」


 イザルナは随分と立ち直ってくれた。

 船上では毎日運動したしな。その反動で腰が壊れそうだ。


「どうするの?」

「そうだね…。暑いかもしれないけど、レンジは分厚い服を着ようか。その翼もしまえる?」

「できると思うよ。」


 確かにこの体はかなり目立つ。

 その形状から王家関係者と疑われたら終わりだ。

 『精神操作』の本を取りに行った意味がなくなってしまう。

 どうにか王都まで穏便に行かなければならない。


「用意できたぞ。」


 ルガンが馬車を持ってきてくれた。

 これで王都まで行けば問題ない。


「少し、魔力を借りるよ。ジル、ギル、オルメンド。」

「かしこまりました。」

「「うん。」」

「『精神操作』」

「!?何してるの!?」

「ルガン。三人をよろしくね。」

「は、はぁ?」

「今、三人にはしばらく案山子みたいになってもらったからルガンの家に到着するまで何もできないと思うよ。」

「そ、そうじゃなく!何してんだ!お前!」

「時間が無いからね。三人のことをよろしく頼んだよ。ルガン。」

「イザルナ!?何してんの!?」

「レンジ。落ち着いて。」

「い、いや!?説明が欲しいんだけど!?」

「ルガン行って。」

「は、はぁ?」

「早く!」

「わ、分かったよ……」

「私たちとは今生の別れと思ってもらっていいよ。生きてたらまた会いに行くよ。」

「クソ…!」


 ルガンは勢いよく走り出した。

 木の間を簡単にくぐりぬけ、駆けていく。

 すぐにその姿は見えなくなった。


「イザルナ…?」

「ごめん。レンジ。少し事情が変わったみたい。」

「何言って…」

「お早い到着だな。」

「お前は……ロスカーン!?」


 森の中からロスカーンとその一派が現れる。

 獣人の数は10名ほどだろうか。

 かなりの手練れに見える。


「先ほど部下から船が見えたと報告を受けてな。急いで来て正解だった。さぁ、レンジ・セレシアを渡してもらおうか。」

「行きとは違う港を使ったというのに、お早いですね。」

「その辺の話も部屋で聞こう。武器は……持っていないな。よし、連行しろ。」


 護衛と思われる獣人に周囲を囲まれる。

 拘束はされずに、連行される。

 今の自分ならこれくらいの人数倒せると思うが、イザルナが首を縦に振ってくれない。

 ルガンたちが追われないようにするためか。

 館に到着する。

 部屋に軟禁されるような形で入れられる。

 椅子に座らされ、背後には数人の護衛が武器を持った状態で待機している。


「さぁ、商談でもするかね?」

「いえ、脅迫のは違いではありませんか?」

「そうであるな。脅迫だ。レンジ・セレシアを渡してもらおう。」

「レンジは戦争終結後に回収したほうが都合がいいのではありませんか?」

「それは貴様の都合であろう?」

「そうではありません。今、ことを荒げると面倒では?」

「そうでもない。『魔法』とやらは貴様一人で十分であろう。さっさとレンジ・セレシアを置いていけ。そうすれば、先ほど逃げた貴様らの仲間も貴様も見なかったことにしよう。」

「誰の入れ知恵です?」

「何?」

「誰の助言を得たのか聞いているのですよ。」

「独断だ。」

「そうですか?タイミングが良すぎると思いまして。」

「はぁ。やりにくいな。」

「俺だよ。可愛い可愛い愚妹。」

「!?」


 扉を開け、一人の人間が入って来る。

 金髪に高そうな服を着ている偉そうな態度。

 一目で分かる。【アルドリア】の偉いさんだ。

 イザルナの顔色が変わった。

 愚妹?つまり、兄。【アルドリア】の王子か。


「レオニス…兄様…!?」

 正解のようだ。

 目の前の男は【アルドリア】第一王子、レオニス・アルドリア。その人である。


「久しいな。イザルナ。こういうわけだ。お前らは負けたんだよ。」

「くっ…!」

「そんなに苦しそうな顔をするなよ。唯一の取り柄である顔面が台無しだぞ。」


 二人が険悪なのは雰囲気で分かる。

 不穏な音楽でも流れているかのような空気。


「なんで…兄様が…」

「なんで?愚問だな。手を借りたんだよ。ロスカーン殿の。【アルドリア】が負けた際に【共和国】とは二度と戦争しない約束でな。戦争に負けた明日には俺が王になれる。どうだ?win-winだろ?」

「自分の地位のために国を捨てるのですか!!」

「国を捨てる…?やっぱりお前みたいのは、鎖でつないで貴族共の玩具でもしていた方が見栄えが良いな。」


 肉親を見る目ではなかった。

 それどころか、人間として見ていない。

 そんな雰囲気がある視線だった。


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