第六十六話
「英雄譚 第六十六話」
・レンジ視点
体が揺れている。
この揺れ方には覚えがある。
船だ。船の上に居るんだ。
目を開けて、体を起こす。
視界に入るのはルガン、ジル、ギル、オルメンド、イザルナだけだ。
3人はどうしたのだろうか。聞くまでもないか。
気を失う前の状況を見ればなんとなく分かる。
でも、レイヴァンはどうしたのだろうか。
彼は見えないだけでどこかに乗っているのだろうか。
「あ!レンジ!おはよう。」
「あ、うん。」
随分と久しぶりに感じる。
イザルナの声はいつ聞いても安心する。自分がまだ無事であると認識できる。
いつにも増して不安そうな顔だ。
この人数を見れば何が言いたいのか分かった。
「何があったか聞いても良い?」
「……ガルフォードとフィリス、レイヴァンは戦死しました。私たちは【グレンウッド】に向かいます。まだつかないから休んでて。」
「分かった。」
「怒らないの…?」
「怒る?」
「怒ると言うか、起こった出来事に苦言を呈すると言うか、何かないの?」
「え、うん。何もできなかった俺が何か言うつもりはないよ。彼らも本望だったよね……」
「…ほんと?」
「イザルナが選択したなら、それが最善だったと信じてるよ。」
「……ありがと。」
「心配してた?」
「正直ね。レンジの説得が一番大変だと思ってたから。」
「方針にいちいち口を出せるほど偉くないよ。」
「…うん。」
イザルナの不安そうな顔が消え、少しスッキリした顔になった。
上半身だけ起こしている俺に飛びついてきた。
「うわぁ!」
「ごめん。驚いた?」
「少しね。スキンシップ?」
「…ううん。私だって人間だからね。仲間が減って寂しいんだよ。」
「そっか…。」
首元に近づいた顔から、何かが垂れている。
鼻水を啜っている音が聞こえる。
泣き声を出さずに、静かに涙を流している。
今にも壊れそうな体をそっと抱きしめる。
我慢していたのだろう。生存している面々に心配させないように、厳格なリーダーであり続けた彼女。
そんな彼女も限界が近い。俺よりも長年連れ添った仲間だ。
悲しく、寂しいはずだ。しばらく、肩を貸してあげよう。
しばらくした後に、イザルナは気が済んだのか恥ずかしそうにどこかへ行ってしまった。
俺もどこかへ歩こう。
船の後ろの方へ行き、誰もいない海を見渡せるところに行った。
3人の顔が浮かぶ。
いつも世話を焼いてくれたガルフォード。
助言をくれて、『魔法』まで教えてくれたフィリス。
無口で表情が分からなくて頼りになったレイヴァン。
みんなかけがいのない仲間だった。だった、過去形だな。今となっては。
「お!レンジ!」
「起きたのか?」
急いで目を擦る。
「あ、うん。」
「鼻声だな。」
「泣いてたのか?」
「そ、そんなことないよ。」
「恥ずべき行動じゃない」
「俺たちも馬車で散々泣いたからな。」
「「一人の時間を邪魔して悪かった。」」
「良いさ。俺は何もできなかったからね。」
「そんなこと」
「ないだろ。」
「「何もできてないのは俺たちだ。」」
「イザルナ…彼女に迷惑を掛けたくなかった。でも、結局何も変われてないな俺。」
「自分を」
「卑下しすぎだぞ。」
「「もう少し自信を持てよ。」」
「ありがとな。」
二人の頭を撫でる。
「「子供扱いするなよぉ」」
そんなことを良いつつ嬉しそうだ。
「ルガンと」
「話して来いよ。」
「「心配してたぞ。」」
「分かった。そうするよ。」
二人のもとを去って、ルガンを探す。
ルガンは操縦席に座って、オルメンドと話してた。
「ルガン!」
「レンジ!おはようで良いのか?」
「うん。オルメンドさんもお久しぶりですね。」
「そうね。久しぶりな感じがするね。」
「すみません。寝ている間にいろいろあったみたいで……」
「そうね…。お嬢様が心配。引きずっているから…。顔色もよくないし…。」
「皆さんは大丈夫ですか?」
「ええ。ジルとギルは馬車で延々泣いてたから…。」
容易に想像ができる絵面だ。
二人にクマができていたのはそういうことか。
「今の生者には、死者を弔うとことができないもの。故郷ではないけど、【共和国】でお墓でも作りましょうか。」
「そうですね。彼らが安らかに眠れるようにしましょうか。」
「レンジ君は、お嬢様のことよろしくね。」
「分かっています。」
「頑張れよ。旦那。」
「う、うん。」
「どうした。」
「ちょっと恥ずかしいな…。」
「そんなことないぞ。旦那。」
「そうですよ。旦那様。」
「やめてくださいよ。オルメンドさんまで。」
「冗談だよ。お嬢様は部屋に居ると思うから。」
「分かりました。」
イザルナの居るであろう部屋へと向かう。
ノックする。
「イザルナ?いるかな?」
「……入って。」
「失礼します。」
ベッドにうつ伏せで転がっている彼女が居た。
ベッドの隅に座る。
「初めてでね……仲間が死んでしまうのは……」
「…そっか……」
「けっこうきついものだね……」
「何か食べる?お腹空いてる?」
「……じゃあ、レンジを。」
「え?俺?」
「うん。気分転換したくて。」
「良いけど……体、拭いてくるね。」
「良いよ。そのままで。」
「でも……」
「良いから。」
そのままベッドに押し倒されて、次の朝に目を覚ますこととなった。




