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英雄譚  作者: 鈴木 雫
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第六十五話

「第六十五話」


・イザルナ視点


 なんとなくそんな気はした。

 ガルフォードとレイヴァンの実力を考慮すれば帰ってこれるだろう。

 でも、そうはならなかった。

 レンジとレイヴァンだけが帰ってきたときに察した。

 彼は帰ってこないと。そして、フィリスも。

 ガルフォードは罰が欲しかった。いつも殺した誰かに謝罪して、牢屋に入るたびに過去を思い出すから、紛らわすために自分ではない誰かを演じてた。本人は否定するだろうが、彼は常に過去を恐れてたんだ。

 フィリスは最期まで自分を認めてくれる誰かと居たかった。フィリスを説得して仲間に引き入れたのはガルフォードだったから。どんなエピソードがあるのかは知らないが、フィリスは他とは違う目線を彼に送っていた。だから、最期はこうなるとなんとなく理解していた。

 目的が一致したとでも言うのだろうか。ついに二人は悔いなく戦場へと歩いて行った。

 レンジになんと説明すればいいのだろう。

 何を言っても納得できないだろう。

 だって、彼は全員で生き残れると信じていたから。もはや、縋っていた。

 彼へと対処を考えると頭が痛くなる。


「ジル、ギル少し力を貸してね。」

「「もちろんです!」」

「ありがとう」


 二人は元気いっぱいだ。

 子供らしい一面があるが、中身はしっかりとしている。

 この状況を理解できる。二人が自殺に行ったのではなく、自分にふさわしい場所を選んだことを理解している。

 だから、フィリスが教会に行ったときに何も言わなかったのだろう。

 そして、この状況で悲しむべきではないと分かっている。

 私と違って。


「何をするのです?姫様。」

「一冊の本にはね、いくつかの禁書が書かれているの。その中の一つでレイヴァンの記憶を呼び戻す。」

「「え!?」」

「彼とはそういう約束だから。」


 レイヴァンを王宮から連れ出すときに約束をした。

 失った記憶と生存している意味を知りたいと。

 声も出さずに、文字だけで。


「分かりました。」

「俺たちなんでもやるよ!」

「ありがと。魔力だけくれる?」

「「うん!」」


 ジルとギルの頭に手をかざす。


「行くよ。」


 本には絵が描いてある。

 何を表現しているのか分からない、私でも描けそうな絵だ。

 でも、これに『魔法』が刻み込まれている。

 見た者にイメージを植え付ける。

 頭の中に『魔法』のイメージをだ。

 そうすることで、本を見た者は『魔法』を行使できるようになる。


「『過去返し』」


 『過去返し』。あらゆる『魔法』を解除する最強のカウンターだ。

 レイヴァンの問題は、『忘却』『不老』『不死』。

 『忘却』を解除し、記憶を取り戻させる。

 『不老』を解除し、自我を取り戻させる。

 『不死』を解除し、生命を取り戻させる。

 レイヴァンはどんな心境なのだろうか。

 髪の毛が邪魔をしてよく見えない。


「誰だ……?」

「はい。イザルナ・アルドリアです。」

「アルドリア?」

「はい。レイヴァン卿。」

「卿……?そうか。アルドリアの目論見は成功したのか。」

「お約束は果たしました。」

「約束……?」

「あなたは協力する代わりに、『魔法』の解除を求めたのです。覚えてみえませんか?」

「知らないな。記憶が曖昧だ……」

「混乱中、申し訳ありません。状況を把握できますか?」

「いや、全く分からない。申し訳ないが、君は……姫と言ったところなのか?」

「はい。私が【アルドリア】第二王女です。」

「建国できたんだな。今は何が起こっているんだ?」

「【共和国】との戦争中でございます。戦争を止めるためにいそしんでおります。」

「戦争……。相変わらず、人間が嫌いなんだな。」

「え?」

「ん?」


 妙なところで話が噛み合わなかった。

 人間が嫌い?【アルドリア】から仕掛けた戦争のはずだ。【共和国】側の意見なんて関係ないはずなのに。


「おかしなことを言ってしまったか?」

「い、いえ、この戦争は【アルドリア】から仕掛けたものです。」

「は?なんでだ…?」


 混乱中のようだ。

 それは私もだが。それもしょうがないのかもしれない。彼が生きていたのは400年前なのだから。

 状況と同時に思想も変わったのかもしれない。


「さっきのレイヴァン卿とは?」

「あなたはこの国では英雄なのですよ。」

「なんだ……それ……。俺は英雄なんかじゃない。ただの殺人鬼だ。殺したのはエルフだったが。やけに周囲がうるさいな。」


 想像していたよりも追手が早い。

 教会に人員を割かずにこちらを追いかけることにしたらしい。


「追われていまして。」

「なんで?」

「この本です。」

「なんだこれ……」

「『魔法』の本ですよ。これで戦争を終わらせられます。」

「……そうか。では、俺も落とし前はつけなくてはな。武器をくれないか?」

「どうしてです?」

「君たちは俺を英雄と呼ぶのだろう。でも、それは真実ではない。ただの咎人として、建国に携わった一人として力を貸そう。君たちの成功を祈るとしようか。見たところ俺が年長者か。変わったな。何もかも。」


 剣を渡すとレイヴァンは髪の毛を適当に切り、顔を見せる。

 最後に笑顔を見せて、馬車から飛び降りた。


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