第六十四話
・レンジ視点
普段の教会の静けさを知らない。
だけど、この喧噪が異常だと分かる。
神の足元で聞くべきではない言動。
俺たちは地獄へと招かれているようだった。
「ガルフォード!!レイヴァン!!どこだ!!!」
死人が居ない怪我人だらけのその場所で二人を探すために大声をあげる。
ここらで落ち合うはずなのに。
何かあったのだろうか。
まだ、立ち上がる元気のある兵士や信徒が何人か向かってくる。
適当にいなしつつ、前に進む。
退路を確保しておかなくてはいけない。
「レイヴァン!」
緑の髪を地面まで垂らした、顔色のつかめない男。
彼はちゃんと生存していたらしい。どんな状況でも見知った顔は安心する。
手に持っているのは木の棒だ。
殺傷能力は皆無に見える。
剣を持っていないのだろうか。
「ガルフォードは!?」
「……」
声すら聞いたことがない彼は、当然何も話さない。
しかし、どこを向いているか分かった。
「レンジ!!」
ガルフォードだ。
廊下から走って来る彼を見つけて安心する。
その反面見たくないものを見た。
後ろに引き連れた信徒と兵士の数々。
彼は追いかけられているようだ。
「急ぐぞ!!このまま、外を目指す!俺に構わず行け!!」
ガルフォードを待たずに先に行く。
振り返る余裕がない。
前からも敵が来る。
一瞬の攻防を披露しつつ、馬車を目指す。
後ろの声がどんどん遠ざかっていく。
ガルフォードは大丈夫なんだろうか。
行よりも人数が明らかに増えている。これを真面目に対処していたら、時間が足りないだろう。
一つの大きな希望はレイヴァンが思っていたよりもはるかに強いことだ。
俺がどんな動きをしても完璧に合わせてくれるし、単騎で動いても相手は攻撃すら行うことができないその速度。
さすがは英雄だ。自分には真似できない戦闘力を誇っている。
もう少しで外に到着できる。
あと少しで。終わるんだ。このまま行けば馬車まで全員で帰れる。
こんな状況にも関わらず、楽観的な思考を持っている自分が情けなくも感じるが、理想論を捨ててはいけないと思う。
外の光を浴びながら、馬車の音を聞く。
・ガルフォード視点
前から思ってた。
自分には何かしらの罰が必要だと。
多くを殺し、上だけを見つめた。
そんな殺人鬼となんら変わらない俺が、のうのうと生きてたらそれこそ自然の摂理に合わない。
ここで彼らを逃がし、俺がおとりになればすべて解決する。
みんなの目的が果たせる。
俺自身の目的すらもだ。
あえて、俺が逃げ切れない状況を作った。レンジたちが追われないように。
ここで暴れれば、向こうもこちらに人員を割かざるを得ない。
立ち止まって、下を見る。
死人は居ない。倒れた人の束を。
死臭はしない。血の匂いだけが漂うこの場所を。
自分の処刑場に選ぼう。
「来い。お前ら。罪人、ガルフォード・ノクターンが引き受ける。」
俺がここでどれだけ時間を稼げるかでこれらの、戦争の運命が変わるのだろう。
戦争が終われば、今から死ぬ誰かを助けることができるかもしれない。
あの時から、変われているかもしれない。俺が死なせてしまった誰かも、今の俺を見て罵るだろうか、鼻で笑うだろうか、軽蔑するだろうか。
過去の自分はどうだろうか。
騎士を目指した自分。弱きを助け強きを挫く。そんな自分はどう思うのだろうか。
胸を張れる最期になっただろうか。
「残念だね。ここが最期になるのは。」
「!?……なんで……」
目の前にフィリスが居る。両腕はなく、『魔法』もあまり使えないと言っていた彼女。
その目には覚悟と言うべきか、火がついていた。
『移動』してきたのか。そこに立っているだけで理解できた。
「なんでお前が居る!」
「そんなに怒らないでおくれよ。ただ、援護しに来ただけだよ。」
「援護!?二人で何とかなる量じゃねぇぞ!!」
「知ってるよ。ただ、好きな異性と同じ墓場に入りたいって動機じゃだめかい?」
「ふざけてんのか……?」
「真面目にね。フィリス・ノクターン。どうだい?悪い響きじゃないだろ?」
「はぁ……すまんが、指輪の手持ちがない。後で買ってくる。」
「良いさ。はめる指が無いからね。」
「じゃあ、ネックレスとかはどうだ?」
「素敵だね。可愛いやつを頼むよ。」
「ああ。じゃあな。お嫁さん。」
「うん。ありがとう。旦那様。」
・レンジ視点
なんとか馬車まで帰ってこれた。
「はぁ…はぁ…」
さすがに疲れた。
後ろを振り返る余裕がなかった。
ガルフォードはついてきているのだろうか。
「出して!!」
馬車はガルフォードを待たずに走り出す。
「ガルフォードは!?」
「レンジ。」
「まだ来てないんだ!!」
「レンジ!!」
「え、な、なに?」
「ごめん。」
「?」
「『睡眠』」
目の前が薄れていく。
『魔法』と疲労で良い感じに意識が飛び去っていく。
イザルナは何を考えているのだろうか……。




