第六十三話
前来た時と何も変わらない。
当然だ。数日しか経っていないのだから。
変わった点と言えば、地面に倒れている人数が違うことくらいか。
ガルフォードとレイヴァンはうまく、やっているらしい。
全員がきれいに気絶しているだけだ。
魔法師が『回復』させればピンピン動きだすだろう。
「こっち。」
先ほど見た地図どおりに移動する。
書庫へ行くためのルートで数人と出会った。
『共鳴』の制約で剣を持つことができないので、爪で相手の剣技をいなし、パンチを腹に打って気絶させる。
難なく書庫へと到着した。
「レンジは扉をふさいで。」
「分かった。」
「二人とも手はず通りにね。」
「ああ。」
「分かりました。」
四人とも、自分の持ち場へとつく。
三つの扉は本棚を置いて塞いでおいた。
内開きだったので、開けることはできないだろう。
唯一の出入り口である通路を見張る。
数人がこちらに来るが、気絶させて遠くの方へ運んで置いた。
それほど、戦闘力があるわけではないらしい。
戦闘員ではなくただの信徒か。
神の教えに背く人が心底嫌いらしい。俺の容姿を見て吐きそうなやつも居た。失礼な話である。
少年心が理解できないのか。
後ろでイザルナたちが黙々と部屋を探す。
何かを破壊する音も聞こえるし、走り回る音も聞こえる。
長丁場になるだろう。以前に二人で来たときは何もできなかった。
それを考えると、憶測ではあるがヒントがあるのはかなりマシだろう。
「イザルナ!!」
ルガンの叫び声が聞こえる。
書庫は三人に任せておこう。
・イザルナ視点
「見つけた!?」
ルガンの声がする方へと走る。
オルメンドは先についていたようだ。
「ここかもな。」
指さされたところはただの本棚だ。
でも、私も確信した。
ここに間違いない。ビンゴだ。
ぎゅうぎゅう詰めになった本棚には、子供向けの本。英雄が記載されている歴史書。国の法律の本など、様々だ。
でも、その中で異彩を放っている本があった。
「原典…」
原典。そう。〈ルミナール教〉を作った。私の祖先アルドリアが書いた経典の最初の一冊だ。
神がどのような気持ちで世界を創造し、多種族との共存について記載されている。
ルガンが気づいたのは本ではなく、空間だった。
何でもない場所に思えるが、違和感は隠しきれない。
ここだけ本棚どうしの感覚が広い。規則性がここだけ排除されている。
床には魔法陣を書くだけのスペースがある。
ここの床に間違いない。
「どいてて。」
「おう。」
床のカーペットを引きちぎる。
床には何もないが、『魔法』の気配がある。
原典を手に持ち、床に触れる。
床が光ったと同時に違う空間へと飛ばされる。
目を開くとそこは書庫ではなかった。
「ここが…」
「ええ。禁書の間。『魔法』の禁忌が記された禁書がある部屋だよ。」
乱雑に置かれた本の数々。
ここだけでも数十冊はある。
「『精神操作』の記述がある本を探して。」
三人で見れば、大した量じゃない。
パラパラと本をめくり、内容を確認していく。
「あった。」
この本だ。間違いない。
この一冊があればすべてが終わる。
「見つけたから、帰ろう!」
「分かりました。」
「じゃあ、帰るぞ。」
帰りは簡単だ。
魔法陣に触れるだけで、書庫へと帰ることができた。
「レンジ!帰ろう!」
「分かった!!俺は、ガルフォードたちを迎えに行くよ!」
「よろしくね!!」
オルメンドとルガンの肩に手を置く。
「『移動』」
馬車へと帰還する。
あっさりとした一時だったが、取る物されもらえればそれ以外はどうでもいい。
この一冊のためにここまでしたんだ。
ここに居る者はもう【アルドリア】では生きていけないだろう。
だから、この作戦は人数を絞った。
顔を見られれば、処刑では済まされないだろうし。
「ルガン。馬車を用意して。」
「分かった。」
「教会へ急ごう。」
「ああ。」
馬車でレンジたちを迎えに行く。
無事ならそれでいいんだ。
誰もが、明日を迎えられればそれだけで幸福だ。
(間話―待機組の緊張感)
・フィリス視点
緊張する。
今までとは違う。
待つことがこんなにも長く感じるとは知らなかった。
待機組のことを軽んじていたわけではない。
ただ、戦場で舞う者たちが安心できるために移動手段を確保しておく。それだけなのに、緊張する。
確かに恐怖はない。命の重みをここで感じることはないだろう。
でも、緊張するのだ。今まで以上に。
手に汗握り、不安要素ばかり考えてしまう。一歩も動くことができない。
両脇に居る双子も同じことを考えている頃だろうか。
「二人とも、何か話でもしようか?」
「「どんな?」」
「そうだね……何か、リクエストはあるかい?」
「そうだな~…」
「うーん…」
「「じゃあ、フィリスの故郷の話は?」」
「故郷のかい?」
「ああ。」
「俺たちもう【アルドリア】に」
「住めなくなるだろ?」
「最後に思い出を語ってよ。」
「そんなに面白い話ではないけどね。」
「「良いよ。」」
「じゃあ、…」
何も面白くない話だ。
語り始める。
生い立ちを、初めて。イザルナ様も知らない私の過去話。
秘密にしているわけではない。いわゆる黒歴史でもない。
ただ、自分の中で昇華した話をわざわざ悲劇のヒロインみたいに語るのが恥ずかしいだけだった。
彼らは、無事に帰ってこれるだろうか。
いや、これからも考えなくてはいけない。
今後は明るい道を歩けないだろうから。
さて、頃合いだ。行こうかな。




