第六十一話
・レンジ視点
馬車が揺れる。
心地いい音だ。振動だ。風だ。
寝るには丁度良いころ合いだろう。
この状況でなければ。
馬車の中では会議が開かれていた。
今後の方針会議。
何度繰り返しても慣れない雰囲気に圧倒される。
「まずは本の場所を考えないといけないですね。」
ガルフォードが開口一番こう言った。
「そうだね。ある程度の目途を立てないとね。」
イザルナも同調するように声を上げる。
「やはり教会ですか?」
「そう思っているけどね。もう一度侵入することは不可能に近いと思うし、あるかどうかも分からないのに行動するのはどうかと思ってね。悩んでいたんだよ。」
「そうですね…。」
教会内は俺も見た。
その際に、この量から探すのは不可能と理解したと同時に本当にあるのか不安になった。
あそこに隠しておくのは合理的かもしれない。
でも、それ以上にあんな誰でも触れることができるところに置いておくだろうか?
そうはしないだろう。国家を支配できるほどの『魔法』。そんなものを処分もせずに保管しておくということはあるのだろうか。
自分たちに火の粉が降りかかるような代物を放置しておくとは考えにくい。
「大分回復した?」
「ええ。俺は問題なく動けると思います。レンジはどうだ?」
「俺も回復したよ。」
「では。」
「そうね。一つ賭けにでも出ましょうか。」
「どんな?」
「もう一度教会へ行くの。」
「「え?」」
ガルフォードと声が被った。
何が目的なんだろうか。
イザルナが住んでいた頃にそんな本に見覚えでもあったのだろうか。
「何を言っているのですか」
「姫様」
ジルとギルも不安そうな顔を見せる。
「本はやっぱり教会にあると思う。」
「そうでしょうが、どうやって侵入するのです?」
「それを考えなくちゃね。もう、向こうは容赦しないでしょうし。信徒には賄賂が通じないところが面倒だね。こちらは『魔法』を使えないし。」
フィリスは『魔法』を使えるような状態ではないし、イザルナも最後まで魔力を温存したいみたいだ。
「今のところ考えているのはジルとギル、フィリスはお留守番。レイヴァンとガルフォードが陽動。私とレンジとオルメンド、ルガンが本探し。こんな感じかな。」
確かに本を探す要員は必要だ。
戦闘に慣れていない二人は大丈夫だろうか。
配置についての異論はないが、そこだけが心配だ。
「ルガンとオルメンドは大丈夫?」
「わたくしは大丈夫です。お嬢様。ルガン君にも後で聞いておきますね。」
「良いよ。私が直接聞くから。」
「かしこまりました。」
「レイヴァンは大丈夫でしょうか?」
ガルフォードがイザルナに投げかける。
「そうね。お願いを聞いてくれるかどうかは分からないけど、彼が手伝ってくれなかったらかなり厳しいからね。どう頑張っても連れていくよ。」
「分かりました。周辺の仲間にも聞いてみます。」
「人員は多いに越したことはないけど、できればこの人数が良いな。」
「なぜでしょうか?」
「後のことを考えると、大人数は巻き込めない。それに、無理ではないと思うから。」
「?」
「前に書庫を探していた時に少し気になったことがあってね。本の内容がバラバラだったんだ。あれは、管理できていない証拠だよ。」
「つまり書庫は別にあると?」
「いえ、あそこで間違いないと思う。何かを隠しているように感じたから。」
「……隠し部屋!?」
「そうだね。なにかしら隠していると思うよ。流石に、国家を揺るがす『魔法』だからね。厳重に保管されているみたい。」
「そうですよね。」
「次で確実に見つけよう。」
「はい。」
馬車はどこでもない森の中で止まり、休憩に入る。
ここから【ルミナール】までは三日はかかる。
近づくにつれて安全な場所が無くなって来る。
つまり、ここが最後の安全地帯だ。
しっかりと休息しなくては。
夕食後にイザルナと涼むために二人きりになる。
膝の上に乗っている彼女の体温が自分を完全に包んでくれる。
「星がきれいだね。」
「そうだね。あまり、空を見上げる余裕がなかったから。一段ときれいに見えるよ。」
「ここは、君の方がきれいだよって言わないと。」
「え?あ、ごめん。」
「冗談だよ。」
イザルナはくすくすと笑いながらからかってくる。
肩に顔を乗せてくる。
「翼を出してよ。」
「良いよ。」
翼を広げて体を包んであげる。
イザルナの視界は真っ暗になっただろう。
「少し、怖いの。」
触れるだけで分かる。
震えている。
王宮に捕まってからずっとこうだ。
相当なトラウマなのだろう。
「こうしていると安心する。」
「良かったよ。」
「うん。」
静かなはずなのに騒音がするような。
寒いはずなのに暖かいような。
不安なはずなのに安心するような。
不思議な感覚だ。
白い息が出るにはもう少し時間が必要そうな気温だった。




