第六十話
「第六十話」
(間話―天才な凡人③)
・フィリス視点
ガルフォードと一緒に路地裏を出て、大通りで探し人を見つけに行く。
身長が低いらしいので、この人混みで見つけるのは時間がかかるだろう。逆に言えば、時間さえかければ確実に見つけることができる。
人混みに逆らわず、街をぶらぶら歩く。
歩きながら会話をする。
「本当にこのあたりに居るのか?」
「間違いないよ。」
「すごいな……」
「……」
すごくなんてない。
誰だってできることだ。
ただ、知っていただけで。
「フィリスは何かしているのか?」
「……どういう意味?」
「何か仕事とか、役割とか。」
「…私は何もしていないよ。」
「そうか。本当に仲間にならないか?」
「…」
少し悩む。
何をしているか分からないが、嫌な奴ではないし、先ほど聞いた彼の仲間も良い子みたいだ。
確かに楽しいかもしれない。
でも、何か力を持っているわけでもないし、特別な何かを生まれつき持っているわけでもない。
こんな平凡を絵にかいたような人間がついて行っていいのだろうか。
よくないと思う。
「ごめん。私は行かないよ。」
「今までとは違って結構マジなお願いだ。」
「ごめん。」
「…そうか。理由を聞いてもいいか?」
「…私は、特別じゃないんだ。君たちが望むような魔法師じゃないんだ。悪いね。」
「それがこじらせてる原因か?」
「こじらせているわけではないんだけどね。自分の実力を正確に把握しているだけだよ。他者との力量を見定めるのも大切でしょ?」
「そうは思わないけどな。」
「どうしてだい?」
「まず、特別とはなんだ?」
自分にはない才能であったり、他人とは違う何か、何者も寄せ付けない力だったりとかか。
どれを考えても自分にはないものだ。
「私には関係ない単語だよ。」
「言い方を間違えたな。どこら辺が他人の方が優れていると思うんだ?」
「それは…」
皆、当たり前に『魔法』を使う。
自分がただの容器を運んで喜んでいる間に。
皆、当たり前に精進する。
自分がただの才能にふんぞり返っている間に。
皆、当たり前に仕事をする。
自分がただの妄想に励んでいる間に。
自分には、何もないのだ。使命も、責務も、責任も。
何もないことを理解した上で、妄想を膨らませているただの子供だ。
そこらへんで地面に落書きをしている少年少女の方が社会に貢献しているだろう。
「何かと比較したのか?」
「それは…」
「比較したことはないんだな。」
「そうだけど。良いでしょ、なんでも。」
「良くない。助けてもらったからな、何かしらの形で報いたい。」
「放っておいてくれればいいよ。感謝されたくて助けたわけじゃない。」
「そうはいかない。何かをされたらお礼をするものだろう。それに、俺も誰かを救ってみたい。」
「?」
何か過ちでもあるのだろうか。
その悲壮な顔は忘れることのないくらいに衝撃的だった。
「私でなくてもいいんじゃない?」
「いや、ここで会ったのも何かの縁だろう。何かさせてほしい。」
「別に良いよ。何かしたいのならお金を頂戴よ。金欠でね。」
「それでも良いが、その悩みを聞いてほしいんじゃないのか?」
「勝手な憶測だね。私は、そんなの望んでないけどね。」
「そうか?俺には悩んでいるように見えたけどな。」
「どこが?」
「家に入れてもらったときに散らばった本や何かを書いた紙。真剣に取り組んでいないとあそこまで汚れない。それに、『魔法』を行使しているときに少女のような無邪気な笑顔をしていただろ。あれは才能云々じゃなく、純粋に『魔法』が好きだからでた表情じゃないのか?」
「違うよ。顔が緩んだのは、いい歳した迷子が居たからだよ。」
「『魔法』の才だってあるだろうに、なぜそんなに自分を卑下するのか分からない。」
「『魔法』は誰にだって使える技術だよ。私は使えた年齢が幼かったから自分が天才だと思ってただけ。みんな当たり前にできていたから自分は特別じゃないんだ。」
「そういうことか。お前は、他人の内面を知る前に自分と比べるんだな。」
「そんなことないよ。私は外見よりも内面の方が大事だと思っているからね。」
「なら、なぜ最初に俺の正体を暴かなかった?」
「聞いても答えてくれなかったでしょ?」
「普通は見ず知らずの男を家に入れたりしないだろ。『魔法』で撃退もできたはずだ。なぜ、しなかった?」
「それは…」
特に理由なんかなかった。
「理由がなかったとでも言うつもりか?」
「同情心だよ。」
「違うな。興味がないんだ。他人の内面に。だから、外面だけで他人を判断し、自分と比べる。比較対象が自分の想像力なんだ。他人の力量が本来は自分よりも劣っているはずなのに、そこに妄想を加えて自分と比べるから自分が劣っていると感じる。それは劣等感じゃない。敗北感じゃない。無力感じゃない。」
「じゃあ、なんだって言うんだ…」
「虚無だ。何もない。お前は蛙が強いと感じるか?」
「感じるわけないでしょ。」
「俺に言わせれば同じことだ。」
「他者と自分を比べる基準が違い過ぎるぞ。」
なんなんだ。
見透かしたような薄っぺらい言葉を並べやがって。
そんなんじゃない、自分は平凡なんだ。
これはゆるぎない理念だし、誰かに肯定してほしいとも思わない。
「俺はお前を天才だと思う。その年齢で多種多様な『魔法』を使えるし、度胸もある。俺がお前を特別だと断言し続けよう。」
「……勧誘?」
「ああ。俺たちと来い。いろんな旅に出て、人に出会って、過酷な環境で生きてみてフィリスが天才で特別で完璧だと証明してやろう。」
「そう……」
自分は今、どんな顔をしているのだろうか。
幸福?嫌悪?
自分の顔が確認できない状況が憎い。
なんだろうこの何とも言えない心境は。
「おい!」
「迷子野郎!」
「「探したぞ!!」」
子供が走って来る。
迷子は解消されたらしい。
「すまない。フィリス。迷惑と余計なおせっかいを焼いたな。ここまで手伝ってもらったのにろくにお礼を提示できなくてすまなかった。説教みたいな真似を許して欲しい。」
「そうだね。それは追々決めようかな。」
「?」
「仲間なんでしょ?お礼は必ずもらうからね。」
「…!」
「この優秀で天才な魔法師が旅路の明日を照らしてあげよう。」
「ありがとう!助かる!」
そうだ。
自分に必要だったのは自分を認めてくれている誰かだ。
嫉妬していたのだ。
目的と未来と希望にあふれた街の人々に。
自分とは違って『魔法』を行使する理由がある人々に。
だから自分には認めてくれて、目的を提示してくれる仲間が欲しかった。
これで空の青さすら知らなかった少女は視線をずらし、大海の深さを見続けよう。




